発酵を訪ねる

五穀×発酵×旬の暮らし。
伝統と新しさが共存する
「五穀屋」の和菓子

2021/06/10

五穀×発酵×旬の暮らし。伝統と新しさが共存する「五穀屋」の和菓子
五穀×発酵×旬の暮らし。伝統と新しさが共存する「五穀屋」の和菓子

静岡県・浜松銘菓「うなぎパイ」で知られる春華堂が、2014年に立ち上げた和菓子ブランドの「五穀屋(ごこくや)」。「からだに美味しい和の知恵菓子」をコンセプトに、アワ、キビ、ヒエといった五穀と発酵素材を主役とした和菓子を販売しています。
その和菓子づくりに込めた思いについて、ブランドの立ち上げから携わってきた同社の細田美穂(ほそだみほ)さんと、商品開発を担当する野崎真祐子(のざきまゆこ)さんにお話を伺いました。

和菓子を通して昔ながらの
和の知恵を伝えたい

春華堂といえば、日本はもとより海外からも愛される、うなぎパイが有名です。しかし、元々春華堂は、明治20年に和菓子屋として創業した会社。和菓子の文化をはじめとする和のしきたりや食文化を大切に受け継いできました。世界中の物が簡単に手に入る今の世の中だからこそ、昔ながらの“和の知恵”を伝えたい――そんな思いから生まれたのが、五穀と発酵をベースにした和菓子ブランドの五穀屋です。

五穀とは、アワ、キビ、ヒエといった、一般的には雑穀といわれる穀物のこと。五穀屋では、それに麦や玄米、豆なども含め、日本人の主食である白米以外の穀物を総称して「五穀」と呼んでいます。

「雑穀という名前のとおり、『雑』『味が良くない』と思われがちな五穀と、家庭の食卓に身近でありながら、脇役とされることが多かった発酵素材。この2つを主役にして掛け合わせ、従来のイメージとは違った新しい和菓子のおいしさを提案しています。
春華堂には以前から、故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを“創”る『温故創新』という考え方が根づいています。古き良き伝統を残しながらも、味や食感、パッケージなどに工夫を加え、若い世代の方々にも手に取っていただきやすい和菓子を目指しました」(細田さん)

「五穀をベースに、味噌や醤油、塩麹、本枯節といった発酵食品で、味わいに旨みやコクをプラスしています。また、もうひとつ大切にしているコンセプトが、『旬の暮らし』です。季節の移ろいや日本の年中行事を感じさせるような、旬を感じる生菓子も展開しています。体にも心にもおいしい和菓子で、日本の文化をもっと好きになってもらえるきっかけができればうれしいですね」(野崎さん)

伝統製法を守る作り手の思いを
お菓子にのせて

五穀屋が大切にしているのが、「生産者の思いまで、お菓子に込める」ということ。和菓子に用いる素材を選ぶ際には、生産者や職人のもとを訪れ、直接話を伺い、商品開発へとつなげているそうです。

「丁寧にこだわりを持って作物を育てる農家や、昔ながらの木桶仕込みの醤油蔵など、作り手の方々の熱意や、ストーリーまでもお菓子にのせてお伝えしたいと思っています。製造元を訪ねて素材のすばらしさ、職人の思いなどにふれ、『この素材の味をどう活かすか』というところから、商品開発がスタートすることもあります」(野崎さん)

「現地に行かなければわからないことは、たくさんあります。現代の食生活では、昔ながらの製法で造られた醤油や味噌にふれる機会も少なくなっていますよね。そういった日本の伝統を和菓子という形で広く伝えるとともに、作り手側にもスポットをあてて、応援していきたいと思っています」(細田さん)

五穀屋の人気商品のひとつが、「五季(いつき)」です。春夏秋冬に、五行に由来する暦の土用を加え、5つの季節を色鮮やかな5色の羊羹で表現しました。5つの味わいを作るのは、酒、塩糀、酢、醤油、味噌の「発酵さしすせそ」。ぷるんとした、まん丸の愛らしい見た目も印象的です。

見た目も美しい、5色の羊羹「五季」。

また、五穀屋を代表する商品が、五穀せんべい「山むすび」。つなぎを一切使わずに、お米の粒々がそのまま残してザクザク食感を生み出しています。自然の豊かさを思わせる山の形と、発酵素材を使った滋味深い味わいも特徴です。
さらに今後は、日本各地の特色ある素材を使った「旅する山むすび」シリーズも構想中とのこと。また、製造過程で割れてしまった「山むすび」と、鰹昆布だしベースのスープと合わせて食べる「山むすび だしゆのこ」も販売予定です。「ゆのこ」は、懐石料理の締めくくりに出されるおこげのこと。本来であれば捨ててしまう山むすびを、新しい楽しみ方ができるよう生まれ変わらせた商品です。

山型が愛らしい「山むすび」。

「海外のイベントやレセプションで『山むすび』を紹介したり、イタリア・フィレンツェのメディチ家・リッカルディ宮殿で『五季』を献上したり、五穀と発酵を使った和菓子は海外からも好評をいただいています。日本の伝統食文化の良さを、国内はもちろん世界へも積極的に広げていきたいですね」(野崎さん)

みずからの手で作った五穀で
地域と素材の魅力を発信していきたい

五穀屋が立ち上げ当初から続けている取り組みが、浜松市北部の山間に位置する水窪(みさくぼ)地域で行っている「あわ栽培プロジェクト」です。水窪のNPO団体と協働で五穀を栽培し、収穫体験や料理の実演といったイベントも開催しています。

浜松市北部の山間に位置する「水窪」。

「最初は和菓子の原材料となる五穀を探していたところ、地元で在来種のアワを作っている農家と出会ったのがきっかけでした。それまで知らなかった地元産五穀のすばらしさに感動し、山間地域で休耕地が多かったこともあり、自分たちでアワを育てることにしたんです。
みずから手を掛けて栽培すると、やはり素材への思いも強まります。2017~2019年に開催した「水窪五穀ファーム」に参加してくださった地元の方々からも、『雑穀でこんなに料理がおいしくなるなんて!』と、驚きの声を多くいただきました。まだまだ収穫量が少ないなど課題はありますが、この水窪五穀ファームを通じて、地域の歴史や五穀の新しい魅力を多くの方へと伝えていきたいです」(細田さん)

2021年の春からは、かつて地元で栽培が盛んだった遠州落花生のオーナー制度もスタートしました。区画ごとに畑のオーナーになり、遠州落花生の種まきから収穫までを体験していただきます。収穫後はオリジナルのピーナッツバターを作ったり、アレンジ料理を味わったりして、地元食材と農業の楽しさを堪能いただけます」(野崎さん)

「地域の方々をはじめ、生産者など、人と人とのご縁をつなぎながら、日本の良さを知ってもらえるお菓子づくりをしてきたい」と語ってくれたお二人。
五穀と発酵という伝統文化に現代のアレンジを加え、日本ならではの食の知恵をお菓子にのせて伝えています。

五穀屋 nicoe店

五穀屋 nicoe店

住所:
静岡県浜松市浜北区染地台6-7-11 nicoe内
TEL:
053-587-7778
URL:
https://gokokuya.jp/

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