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世界の発酵食品探訪
ミャンマーの少数民族 シャン族の
旨みたっぷりの発酵料理
2021/08/26
世界の発酵食品探訪
2021/08/26
東京都新宿区 高田馬場駅周辺は、ミャンマー料理店が13〜14店舗もあると言われています。その中でも珍しいシャン族の料理を提供するのが、「ノングインレイ」です。シャン料理の特徴は、バリエーション豊かな発酵食。日本人の口にもよく合うとあって、多くのファンが足繁く通います。今回は、ノングインレイを訪れ、お話をうかがいました。
「シャン族の料理は、野菜の甘味や発酵による旨味を生かしたものが多く、とてもヘルシーですよ」そう語るのは、明るい声とにこやかな笑顔が印象的なメイさん。シャン族の人々が多く住むシャン州は、ミャンマーの東部に位置し、中国やタイ、ラオスと国境を接しています。そのため、さまざまな文化が混ざりあった土地です。また、州全域が標高1000〜1500mの高原にあることから、1年を通して気温が20度台の日が多いなど、高温多湿なヤンゴンに比べて過ごしやすい気候であることも、シャン料理に影響しているそうです。
「ミャンマーでは、地域や部族によって好む味付けが違うんです。ヤンゴンはとても暑いので、脂が多く、ナンプラーもたっぷり使った濃い味付けのものが好まれます。気温が高すぎるのか、発酵食もシャン州ほどはありません。ラカインの人はタイの影響が大きく、とにかく辛いものが好き。お店に来て、辛いのはどれ?と聞かれると、『ラカインの人だな』と思います(笑)。シャンの料理はあっさり。脂が強い料理もあまり好まないですね」
野菜の食べ方や発酵食が多いことなど、日本食との共通点も多いと、メイさん。
「たとえば、高菜の漬物やらっきょ、大根を干してつくるたくわんと似たものがシャン料理にもあります。また、味噌に似た調味料もよく使います。日本の味噌に唐辛子などを入れてピリッと辛くしたような味で、炒めものに入れたり、生野菜につけて食べたり、日本の味噌の使い方とも似ていますよ」
シャン州には納豆や豆腐もあるそうですが、納豆は日本のものとは異なり、糸を引くことはなく、せんべいにしたり、パウダーにして料理に加えて食すそうです。また、豆腐は臭豆腐に近い味わいが特徴です。こうしたシャンの料理は、今でも各家庭で手づくりすることが多いとメイさんは言います。
「もちろん買うことができるものもありますが、買ってきたものとつくるものでは全然味が違います。お母さんがつくったものは、本当においしくて、ヘルシーなんです。ヤンゴンにいると、シャン料理をつくる材料を手に入れるのも難しいので、お母さんの料理が恋しくなります。
発酵食をつくるのは、気温や湿度が低い12月から1月。シャンの人々が大好きな季節です。昔から、『朝露の降りる季節につくると、おいしい発酵食ができる』といわれており、長期保存に向く野菜の発酵食などは、この時期に仕込むことが多いです」
お店で提供している料理もすべて手づくり。納豆など、現地でしかできない原料だけ現地から取り寄せていますが、多くは店内で発酵させています。
今回、メイさんに相談して選んだのは、「お茶葉サラダ」「乾燥高菜のスープ 豚足入り」「お肉とお米の皮なしソーセージ」の3品。シャン族の代表的な発酵料理です。
「『お米とお肉の皮なしソーセージ』は、ごはんとお肉を混ぜて、バナナの葉で包んで3日ほど置いてつくります。バナナの葉で包むことで発酵し、お肉とごはんがいい香りがするようになるんです。シャンの人は生肉のまま食べます。日本ではそれはできないので、ノングインレイでは蒸して提供しています。豚肉か鶏肉から選べますが、豚肉のものが人気ですね」
食してみると、旨味をしっかり感じつつも、やさしい味わい。ほのかな発酵の風味が食欲を誘い、ファンが多いのも納得のおいしさです。
「『お茶葉サラダ』のお茶は、お米の研ぎ汁や米を柔らかく炊いたものの中にお茶の葉を入れて発酵させます。3日ぐらい置いて発酵したら、お茶の苦味を取り除いて、瓶に入れて保存します。このサラダには、揚げたそら豆の他に6〜7種類の豆やエビが入っていて、お酒によく合うため、おつまみとして人気ですよ」
その言葉どおり、お茶の風味と数種類の豆の歯ごたえ、そしてエビの旨味が合わさり、おつまみとして必ず注文するお客様が多いというのも頷けます。どこかで食べたことがあるような懐かしさもあり、日本人の口によく合う味付けです。
「『乾燥高菜のスープ』に使うのは、お米の研ぎ汁で洗って2〜3日乾燥させて発酵した高菜。発酵の効果で、煮込めば煮込むほど、酸味を感じるようになります。豚足入りにすると、コラーゲンがたっぷりのスープになりますよ」
高菜の旨味や酸味と、生姜の味がスープにしっかりと溶けて、とても味わい深いおいしさです。ほどよい酸味のせいか豚足が入っていてもさっぱりと食べやすく、夏バテしたときにもぴったりのスープだと感じました。シャン族の料理は、ピリっとしたものもありますが、それほど辛くなく、どんな人にも食べやすい味。辛くして食べたい人は、テーブルの調味料で味付けするのだそうです。
「とってもおいしいです」とメイさんに伝えると、「よかったです!日本人の皆さん、みんなおいしい、おいしいと言ってくれる。それが一番うれしいです」と満面の笑みで、答えてくれました。
新型コロナウィルスの影響もあり、夜、お酒と一緒に料理を楽しんでくれる人が減って、経営も楽ではないと、オーナーのスティップさんとメイさん。でも、ノングインレイで働くみんなのためにも、がんばりたいと言います。
「このお店で働くのは、みんなミャンマー人。シャン族だけでなく、カイン族、モン族など、さまざまな部族の人が仲良く働いています。みんな力持ちで、がんばりやさんです。お店には、日本人はもちろん、ミャンマーのさまざまな民族の人や、中国の雲南省出身の人、タイ人など、多くの人が集まってくれます。みんなのためにも、お客さまのためにも、おいしいお料理を出し続けたいですね」
と、スティップさんとメイさんは互いに頷きながら、話してくれました。
※新型コロナウイルス感染拡大の影響により、営業日時が変更になることがあります。店舗にご確認ください。