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発酵人
ハッコーを世界の共通語に!
発酵を体感できる「発酵風呂」とは?
2021/10/07
発酵人
2021/10/07
東京・神楽坂の通りから一本奥へ入った静かな小道に、発酵を体感できる「発酵風呂 haccola(ハッコラ)神楽坂本店」があります。
米ぬかと微生物の働きによる発酵熱を活用して温浴を楽しむことができる、発酵風呂 haccolaを運営する畠山真由(はたけやままゆ)さんに、お話を伺いました。
発酵風呂 haccolaを運営する畠山さんは、元々Webメディアプロデューサー。発酵に関するレシピや文化、歴史などを、さまざまな視点で発信するウェブサイト「haccola(ハッコラ)」を2016年に立ち上げました。英語版「Enjoy “hacco”life haccola」では、日本の発酵に関する情報を世界へと届けています。
「仕事で海外メディアのローカライズに携わった際に、日本から海外に発信できることは何かとずっと考えていて…。日本の伝統的な食文化のひとつである『発酵』をテーマにしたメディアを作ろうと思ったんです。スシやテリヤキは、日本語がそのまま英語圏でも使われていますよね。それと同じように、『hacco(ハッコー)』を世界の共通語にするのが目標です」
発酵風呂 haccolaは、2020年11月にオープンしました。
「リアルで発酵を体感できる場を作ろうと思ったときに、食による発酵体験はすでに素晴らしいところがたくさんあるので、全身で発酵を感じられる発酵風呂を選びました。『発酵』というと、まず誰もが食べ物を思い浮かべがちですが、実は世の中のほんの一部。医薬品などの健康・医療面や環境問題などを解決するバイオテクノロジーといった工業面でも発酵の力が広く応用されていますよね。発酵は、食べ物だけでなく、世界中のさまざまな事業に役立っているということも、多くの方に知ってほしいと思いました」
発酵風呂とは、米ぬかが発酵するときに自然発生する発酵熱を利用した、水を使わない乾式の入浴方法のこと。発酵風呂 haccolaでは、幅1m、長さ2m、深さ80cmの杉でできた浴槽の中に、600kgもの国産の米ぬかがぎっしりと詰まっています。浴槽内部は70~90℃と高温になっていますが、米ぬかと米ぬかの細かい隙間に空気が含まれるため、体感温度は一般の風呂と同じ42~43℃くらいに感じられるそう。だから、やけどの心配も軽減され、電気もガスも使わない発酵熱だけで発生する「優しい温度」となるのです。
「熊本県にいる発酵の師匠と私が呼んでいる方から、最初のぬか床の一部を分けてもらいました。それを毎日、新しい米ぬかを足したり混ぜたり、まるで子育てのようにいろいろなお世話をして育ててきたんです。こうして安定して温度が上がるようになるまでには、かなりの時間がかかりました」
現在も、日々のお手入れは欠かせないそうで、畠山さんは毎夜お店が閉まった後、3時間程かけて店内の浴槽をみずから手入れしています。新しい米ぬかに新鮮な空気と水を入れ、全体をくまなく丁寧に攪拌することが、温かくてふかふかな「良質のぬか」を育てる秘訣だそうです。
「ビタミンやミネラルなどが豊富に含まれる米ぬかを、米ぬかの中に生きる微生物が食べて分解(=発酵)する際に熱を出すので、内部がじんわりと温かくなるんです。
発酵風呂に入浴すると大量の汗をかきますが、この人の汗も微生物にとっては最高のご馳走に。そのため、汗などの老廃物もすぐに微生物が分解してしまいます。ただし、手入れを怠ったり間違った手入れをしたりすると、発酵ではなく腐敗に傾いてしまうことに…。変なにおいがしたり、ねっとりしたぬかになったりするだけでなく、高温状態を保てなくなってしまうので、徹底した衛生管理のためにも、ぬかの手入れには細心の注意を払っています」
入浴時は、浴槽の中の米ぬかを掘って人が寝た状態になれるよう作られたスペースに横たわり、上からドーム状に米ぬかをかぶせてもらい、全身を温めていきます。
「裸で入っていただくとダイレクトに温かさを感じられますが、抵抗のある方には紙の肌着もご用意しています。ご利用者は、女性だけでなく、カップルや男性お一人の場合も多く、年代も20代から70代までと幅広いですね。でも、どなたもお帰りの際は、爽快なお顔をしていらっしゃいます。たくさん汗をかいて体の中から温まって、笑顔で元気にお帰りいただくのが私にとっての一番の喜びです」
畠山さんによると、発酵風呂には多くの効果が期待できるといいますが、最大のメリットは、何といっても体を温められることにあります。
「入浴後は、体が芯からしっかりと温まるという感覚をわかっていただけると思います。また、来店されたお客様の多くは、『肌がつるつるになった』とか、入浴後、2日くらい経ってから『体温が上がった』とおっしゃる方がたくさんいらっしゃいますね。『30分の入浴なのに、フルマラソンを走った後みたい』と例えられる方も多いですよ」
今後は、麹町で2号店のオープンも考えているという畠山さん。
「発酵といえば、やはり『麹』ですので。麹の字がつく麹町で発酵風呂を開業予定です。また、父が人工透析を受けているんですが、すごく汗をかきづらいんです。高齢者をはじめ、父のように激しい運動が難しいという方たちなど、一人でも多くの方に、人にも環境にも優しい自然の熱による発酵風呂を体感していただけたらと思っています」
未知の部分も多い発酵や微生物の世界に「未来を感じる」という畠山さん。多角的な視点から、世界に向けて発酵の魅力を伝え続けています。