発酵を学ぶ
特徴を知って、使い分けを楽しもう。
日本の伝統調味料・醤油のいろは
2022/03/10
発酵を学ぶ
2022/03/10
日本食に欠かせない調味料といえば醤油です。煮て良し、つけて良し、かけて良しの万能さで、さまざまな食材の味を引き立てます。
今回は、あまりに身近で意外と知られていない醤油の基礎知識と使い分けの仕方のほか、おいしさを維持する保存方法などについて、ヤマサ醤油株式会社マーケティング部宣伝広報室の大鹿浩之(おおしかひろゆき)さんと西谷綾(にしたにあや)さんに教えていただきました。
1645年(正保2年)から今日まで、品質の高い醤油を作り続けているヤマサ醤油。実直な醤油づくりの一方で、減少する醤油の消費量を見据えた新たな価値の創造に挑み、時代のニーズに応えた商品を次々と世に送り出している老舗企業です。
近年では、醤油醸造で培った技術をバイオテクノロジーや医薬品の製造開発にも応用。その攻めの姿勢からは、ヤマサ醤油に連綿と息づく挑戦の精神を感じることができます。
そんなヤマサ醤油が本社を構えるのは、創業の地である千葉県銚子市。夏は涼しく、冬は温暖な気候と、三方を水に囲まれた立地ゆえの高い湿度は、醤油づくりの核となる麹菌にとって最適な環境だそうです。
では、麹菌が喜ぶという銚子の町で、ヤマサ醤油はどのように作られているのでしょうか。
醤油の基本原料は、シンプルに大豆、小麦、塩のみ。ヤマサ醤油の工場には、大量の大豆と小麦を保管するための原料サイロが立ち並んでいます。
「まずは蒸した大豆と、炒った小麦に麹菌を加えて、麹室と呼ばれる部屋で繁殖させます。3日経つと麹菌が増えるので、食塩水を混ぜ合わせ、仕込み蔵のタンクに入れます。これがもろみですね。もろみは、適時撹拌(かくはん)して新鮮な空気を入れながら数ヵ月にわたって発酵させます。十分に熟成したら、布で包み少しずつ圧力を強めながら、3日かけて醤油を搾り出していくんです」(大鹿さん)
現在では工程のほぼすべてが機械化され、衛生面・品質面を保ちながら大量の製品を安定的に作れるようになりましたが、醤油が広く普及し始めた江戸時代から、基本的な作り方は変わりません。
シンプルな原料からは想像もつかないほど複雑で芳醇な醤油の味わいは、大豆の旨みと小麦の香り、さらには麹菌、乳酸菌、酵母による発酵の過程が生み出すもの。中でも、多くの飲食店やメーカーが支持するヤマサ醤油に欠かせないのが、創業時から代々受け継がれてきた独自の麹菌である、「ヤマサ菌」の存在です。
「ヤマサ菌の酵素が働くことで、豆と小麦が分解され、乳酸菌と酵母が活発になります。それによって発酵と熟成が進み、醤油の赤い色や複雑な香り、味の深みが生まれるのです。当社では、醤油を醸造するたびに良いヤマサ菌を選び抜いて育てることを繰り返し、今日まで守り続けてきました。これが、ヤマサ醤油の肝といっても過言ではありません」(西谷さん)
もろみを圧搾してできた醤油は、最後に「火入れ」と呼ばれる工程を行うことで味のキレと香りを引き出し、鮮やかな赤い色となりますが、最近ではこの火入れを行わない、生(なま)醤油と呼ばれる醤油が多く登場しています。
「火入れには殺菌のほか、味や香り、色を整える効果があり、当社は、独自の製法、ノウハウで、コクがあってまろやかな味を実現しています」(大鹿さん)
ここで気になるのが、醤油の使い分けです。醤油の種類はJAS法によって下記の5つに分けられ、それぞれ適した使い道が異なります。
濃口
国内の醤油の8割以上を占めるのが濃口醤油です。つけたりかけたり、煮物の味つけに使って素材を引きたてたりと、用途は万能なので、ご家庭で広く使われています。
なお、減塩醤油は、通常の作り方で醤油を作った後で塩分を取り除いた物です。塩分が気になる方や薄味が好きな方に最適です。
淡口(うすくち)
淡口は、濃口より仕込み期間が短いので色味が淡く、味もまろやか。その名に反して、実は濃口より塩分は高めです。少しの量で味が決まるので、煮物や茶碗蒸しなど、素材の持ち味を活かしたいお料理に使うのがおすすめです。
たまり
たまりは、大豆9〜10割で仕込まれ、ほぼ小麦を使わない醤油です。大豆の割合が高いので、旨みが濃く色も濃いのが特徴。中京エリアで好まれています。揚げ物にかけたり、炒め物に使ったりすることが多い醤油です。
再仕込み
醤油づくりの工程で、食塩水ではなく醤油を加える製法で作られた醤油が再仕込みです。山口県を中心とした九州地方でよく使われ、色、味、香り、すべてが濃厚です。
しろ
たまりとは反対に、小麦9割大豆1割で作る醤油がしろです。原料の配分から、旨みは少なく香りが立ちます。おせんべいなど、色をつけたくない物、加工用として主に使われています。
醤油は空気にふれると酸化が進み、色も風味も落ちてしまいます。では、おいしく醤油を使いきるには、どのようにすればいいのでしょうか。
「すぐに使う分だけ醤油さしなどに移して、1週間程で使いきっていただくのが理想ですね。残りはしっかり蓋を閉めて冷蔵保存し、1ヵ月程で使いきってもらえるとおいしさを損ないません」(大鹿さん)
しかし近年、お客様からは「1か月以内に使いきることが難しい」という声が多く寄せられたことから、ヤマサ醤油では酸化を防ぐ工夫を重ね、二重構造のフィルム容器を開発します。2009年には、現在では主流となっている鮮度を保つ容器の先駆けとして発売した商品は、半年で100万本の大ヒットを記録したそうです。
「醤油の消費量が減る中、長くおいしく味わっていただける容器を研究するとともに、ヤマサ醤油ならではの斬新な切り口で新商品の開発にも取り組んでいます。ご家庭でもぜひ、醤油の種類や昔ながらの調味料を使い分けて、お料理を楽しんでいただけたらうれしいですね」(西谷さん)
1645年創業の千葉県銚子市に本社を置く、醤油を中心とした調味料メーカー。ヤマサ菌にしか出せない色・味・香りを追求した本醸造の醤油やつゆ・たれに加えて、医薬品や診断薬の開発にも取り組んでいる。
ヤマサ醤油株式会社