素晴らしき、ニッポンの味噌。

発酵文化が息づくデンマークで
日本人留学生が見つけた「味噌ボール」

2022/05/26

発酵文化が息づくデンマークで日本人留学生が見つけた「味噌ボール」
発酵文化が息づくデンマークで日本人留学生が見つけた「味噌ボール」

寒い冬が長く続く北欧・デンマークでは、食べ物を長期保存する手法として、古くから発酵技術が取り入れられてきました。東京大学 医学部 健康総合科学科を卒業後、コペンハーゲン大学院で食品科学修士課程を履修中の大野南香(おおのみなか)さんは、そんなデンマークで若きポーランド人起業家が作る「味噌ボール」に出合ったそうです。

なぜデンマークで味噌なの?味噌ボールに対するデンマーク人の反応は?
味噌ボールを開発したマック・クロールさんへのインタビューとともに、気になるデンマークの発酵事情について、現地からリポートしてくれました。

留学中のデンマークで、
偶然出合った味噌ボール

ミス東大コンテストへの出場をきっかけに、食から体づくりを考えるようになり、栄養に興味を持つようになったという大野さん。より日常生活に密着した視点で食について学ぶため、2021年からデンマークのコペンハーゲン大学院に留学しています。

コペンハーゲン大学院在学中の大野さん。

「祖母の家が三重県の奥地にあり、幼い頃から自然に親しんで育ちました。散歩しながら山菜を採ったり、ヨーグルトや酵素も一緒に手づくりしたりしていたんですよ。コンポストで堆肥づくりもしていましたし、私が今の道に至ったそもそもの原点は、祖母の暮らしにあるのかもしれません」

デンマークの人々は、「ちょっぴり謙虚で、自分の興味がある分野を極める職人気質の人が多い」と大野さん。文化は異なるものの、そうした性質に日本人との共通点を見いだし、楽しく暮らしているそうです。そんな日々の中、SNSを通して見つけたのが、同じ大学院でフードサイエンスを学んだ先輩でもあるマック・クロールさんでした。

「味噌を造っているのを見て、すぐにコンタクトをとりました。日本の伝統的な食品である味噌を、他国の人が新しい表現で発信してくれているのがうれしかったんです」

デンマークは、食品を保存する手段として発酵技術が根付いているほか、すべての料理に発酵食品を使うことでも知られる、世界のベストレストラン1位に何度も選定された「Noma(ノーマ)」があるなど、発酵との縁が深い国でもあります。とはいえ、味噌の存在はあまり知られていないそうですが、マックさんはなぜ味噌ボールを開発したのでしょうか。
ここからは、大野さんによるマックさんへのインタビューをお届けします。

発酵に魅せられ、
白味噌の製造を手掛ける会社を設立

大野さん(以下、敬称略):まずは、マックさんの経歴を教えてください。

ニュージーランドを皮切りに、アメリカ、パナマ、スウェーデン、ポーランドと、さまざまな国のキッチンでシェフとして経験を積みました。2016年にパナマで発酵の技術を知り、2018年からコペンハーゲン大学の食品科学修士課程で学んだのち、白味噌の製造を専門とする「mac.ferments」という自分の会社を2021年に立ち上げました。
毎日、12時頃から麹づくり、味噌仕込み、商品・注文品の包装・発送などを行っています。自分の好きなことを仕事にしているので、何気ない一日も大変な一日も、とても有意義です。

味噌の仕込みをするマックさん。

大野:発酵のどんなところに魅力を感じていますか?

パナマでお世話になった上司に、バナナ酢の低温殺菌について教えてもらい、コンブチャ、キムチ、味噌などの発酵食品についても紹介してもらいました。
それから間もなく、ビーチの植物と米麹で初めて味噌を造ったんです。この経験以降、発酵のプロセスが大好きになりました。また、自分でもよく発酵食品を食べるようになり、とても体調が良くなったように感じました。よく眠れるようになっただけでなく、精神的にも肉体的にもパフォーマンスが上がり、自分を肯定して満足できるようになったんです。

パナマで初めて作ったという麹味噌。

大野:デンマークという国は、発酵食品との関わりは深いですよね。

「Noma(ノーマ)」「Alchemist(アルシミスト)」「Amass(アマス)」といった、世界でもトップクラスのレストランがあり、それぞれが発酵に関する専用のノウハウを持っています。
デンマークの消費者は発酵食品に対する期待が高く、斬新な発酵食品を歓迎する風潮もありますので、ここで学び経験を積むことが自分にとってふさわしいと思いました。デンマーク国内の発酵食品生産者一人ひとりの活動をマッピングし、ハイライトすることから始め、それが今の会社につながっています。

より気軽に親しんでもらうため、
味噌ボールを開発

大野:デンマークにおける味噌の認知度は高いと感じますか?

テンペ、コンブチャ、ビネガーなどの発酵食品に関しては、小規模な生産者はたくさんいますが、麹を用いた発酵はまだ新しい分野だと感じています。
2020年3月のロックダウンの期間中、自宅でさまざまな味噌づくりに取り組み、大学の起業家コースの友人や家族に配って市場調査をしました。味噌を手にした人が最初に聞くのは、「これ、どうしたらいいの?どうやって使えばいいんだ?」だったんです。

私はすぐに、人々に味噌を広めるためには、知識がなくても簡単に料理に使えるようにする必要があることに気づきました。そこで開発したのが、ヨーロッパ初のヘルシーインスタントスープ、味噌ボールです。
カップに味噌ボールを入れ、お湯を注いで混ぜるだけで簡単に味噌汁を飲むことができます。デンマークに住む日本人に「故郷の味」と言ってもらえたときはうれしかったですね。

大野:味噌ボールはすべて手作りだそうですね。

竹製の蒸し器、圧力鍋、植物の栽培箱を改造した麹菌の培養器などを使い、生産のプロセスは半自動化しています。でも、味噌を混ぜたり、樽に詰めたりするのはすべて手作業ですね。
豆の煮汁(アクアファバ)はすべて麹と塩と混ぜて発酵させ、「リサイクル旨みソース」と呼んで再利用するなど、ゴミをゼロにする「ゼロ・ウェイスト」にもこだわっています。

また、さまざまな豆を使って、できるだけ多くの味噌を造ることにも挑戦中です。黄色エンドウ豆、ひよこ豆、黒豆といった豆と、トマト、マッシュルーム、海藻、黒にんにく、バラなどのフレーバーを使って、今までに15種類以上の白味噌を開発しました。
シェフや食品メーカーの方々は、味噌ボールをそのまま調味料として使うこともあります。彼らの活用方法を見て、ヒントをもらうことも多いですね。

見た目もとても美しい、マックさんの味噌ボール。

マック氏が販売している味噌がこちら。

大野:今では企業やレストランへの販売が多いと伺いました。もっと一般の方にも広まっていくといいですね。

消費者への直接販売には、自分のウェブショップを使っていますが、まだ味噌や味噌の使い方について疑問を持っている方が多いと感じます。なので、ワークショップなどで味噌の用途を説明したり、味噌を使った料理を味わってもらったりすることもあります。
実際に味わうと、味噌の豊かな風味に驚く方が多いですね。より大きなインパクトを与えるために、もっと市場に浸透させていきたいです。麹や味噌づくりには未開拓の分野がたくさんあるので、デンマークの人たちに少しずつ紹介しながら、甘酒やたまりなども届けていくつもりです。

現地での試飲会の様子。

デンマークで作られる「新しい味噌」に期待

遠く離れたデンマークで味噌に魅せられ、味噌を広めるための活動に取り組んでいる人がいる――なんだか不思議な気がする一方で、とてもうれしい気持ちになるレポートでした。
マックさんが造る「新しい味噌」、そして味噌ボールがデンマークの食文化に根付く日を楽しみにしたいですね。

大野南香(おおのみなか)

大野南香(おおのみなか)

大野南香(おおのみなか)

1999年生まれ、愛知県出身。東京大学 医学部 健康総合科学科卒業後、2021年よりデンマーク・コペンハーゲン大学院食品科学修士課程を履修中。趣味はヨガ、玄米と味噌汁に夢中。

マック・クロール

マック・クロール

マック・クロール

ニュージーランドでシェフとして働いたのち、アメリカ、パナマ、スウェーデン、ポーランドなどで経験を積んでいたところ、2016年に発酵技術に魅了される。2018年にデンマークに拠点を移し、コペンハーゲン大学食品科学修士課程を修了後、2021年からは白味噌の製造を専門とする「mac.ferments」を創業。手軽に味噌汁が楽しめる「味噌ボール」を開発・販売中。

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