ヘルシーフード探訪

体にも環境にもやさしく。
旅するような楽しさがつまったMEALSの台湾素食弁当

2022/06/09

体にも環境にもやさしく。 旅するような楽しさがつまったMEALSの台湾素食弁当
体にも環境にもやさしく。 旅するような楽しさがつまったMEALSの台湾素食弁当

ある時、訪れた海辺の街で気になるチラシを見つけました。そこに並んでいたのは<弁当 台湾式健康素食><野菜中心>などの文字。台湾素食(スーシー)といえば、台湾の精進料理、ベジタリアンフードのようなものだと聞いたことがあります。かわいいパイナップルのイラストにも惹かれ、後日このお弁当をお願いすることにしたのがMEALS(ミールス)の台湾素食弁当と出会ったきっかけです。お弁当はとてもおいしく、見た目に楽しく、そして植物性の食材だけでつくられていることを忘れるほどしっかりと食べごたえがありました。以来、このお弁当に関心を持ち、MEALSを主宰する上田悠さんにお話を伺うことにしました。

駅弁でも選ぶことができる
台湾の人々の生活に根付いた素食

台湾素食(スーシー)とは仏教文化に基づいた食習慣ということですが、台湾ではどのように親しまれているのでしょうか。まずは台湾素食についてMEALS(ミールス)の上田悠さんに聞きました。

さまざまな菜食料理が並ぶ台北の素食食堂(写真提供:MEALS)

「台湾の街なかには、素食の専門店がたくさんあります。素食は、日本でいう精進料理ですから、そうしたお店に行くと僧侶の姿をよく目にします。ただお店には、そうした仏教の修行中の方だけでなく、日常の食事に菜食を選んでいる人、普段は肉料理を食べるけれど、たまに素食を選ぶ人など、さまざまな人が訪れていますね。
また、台湾の駅では日本と同じように駅弁が販売されているのですが、それらの中にも素食弁当があり、気軽に手に取ることができるんです。はじめて台湾に行ったのは2011年頃だったと思うのですが、このお弁当に出会ったときはとても感動しました。素朴で、おいしくて。ごく自然に人々の生活のなかに素食があるのだと感じましたね」

台湾鉄道の駅弁「素食便當」(写真提供:MEALS)

自身も菜食中心の食生活をおくる上田さんは、日常に根付いた素食に感銘を受けたといいますが、MEALSでつくるお弁当は決して伝統的な素食ではなく、上田さんオリジナルの要素も多いとのこと。そこには、上田さんのご経歴が関係するようです。お話は、上田さんの歩んできた道のりにうつっていきました。

豪州の
パーマカルチャーに触れて
菜食中心の食生活に試行錯誤

「もともと旅行が大好きで、学生の頃からさまざまなところを旅していました。同時に私が関心を持っていたのが、温暖化や海洋汚染などの環境問題でした。そんな流れもあって、20歳の頃、WWOOF(農業体験と交流のNGO。有機農家で働き、食事や宿泊場所などを提供してもらう制度)を利用してオーストラリアに行くことにしたんです。山間部で生活するヒッピーコミュニティやパーマカルチャー循環型の生活様式を取り入れている小さい村など、自然とともに生きる人々のコミュニティを何カ所か回りながら滞在しました」

環境を守るために自分に何ができるだろうか。そんな思いを抱いていた上田さんにとって、彼らの生活から学ぶことはとても大きかったそうです。

工業型畜産は、温室効果ガスの排出や森林伐採、大量の穀物を必要とする食物問題など、多くの環境問題に関係しています。そのためヒッピーカルチャーやパーマカルチャービレッジなどで自然とともに生きる人々には、菜食の食生活を選ぶ人が多くいます。そんな彼らについて上田さんは、「決して菜食で生きることそのものを目標としているわけではなく、自然とともに生きる中で、無理のないごく当たり前の選択として、自然から恵みをいただく食生活をおくっている感じがしました」といいます。

1年後、日本に戻った上田さんは、オーストラリアでの経験を日常に活かそうと試行錯誤します。菜食中心の食生活を続けたいと考えたのです。

ワイルドな自然が広がるオーストラリアのパーマカルチャービレッジ。
上田さんが滞在したGordonさんの家の裏にはフルーツがたわわに実る(写真提供:MEALS)

滞在したパーマカルチャービレッジのコミュニティキッチン(写真提供:MEALS)

「オーストラリアから帰った私が思ったのは、いきなりパーマカルチャービレッジのようなものをつくることはできないけれど、『自分の生活を変えることならできる』ということでした。非力な自分であっても、誰にも迷惑をかけることなくできることだと思ったんです。ただ、実家はごくごく一般的な家庭ですし、私はぜんぜん自分で料理をしてこなかったので最初はわからないことだらけでした」

当時は、今ほどベジタリアンやビーガンという言葉が一般的でなく、動物性の食材を食べない人は“特別なこと”をしている人というイメージが今以上に大きい時代でした。
また滞在していたビレッジとの環境の違いから戸惑うことも多かったそうです。

「オーストラリアでは、畑に行けば野菜、庭にはハーブがあって、ゴミが出たらコンポストにして、できた堆肥を畑に使うという暮らしでした。でもいざ日本で一から自分でやろうと思うと、庭は小さいし、菜食だからといってサラダばかりを食べるわけにはいかないし、いつも納豆とごはんだけというのも違う…、どうしていいかわからなくて。ゴミが出るのがすごく嫌だったから、わけも分からず実家の庭に穴を掘って生ゴミを捨てて親にすごく怒られたり(笑)。私にはいろんな知識や技術が足りないってことに気がついたんです」

エキゾチックパワーを借りて
菜食料理をさらに楽しく、
ワクワクするものに

さまざまな疑問が芽生えた上田さんが頼ったのが、地元の自然食の食材店でした。やがてこのお店でアルバイトを始め、その後この食材店とゆかりの深いオーガニック料理教室でアシスタントとして働くことになります。

「あるのは気持ちだけで、料理について何も知りませんでしたから、基礎的なことはすべて、この教室の先生から教えてもらいました」と上田さん。アシスタント、講師としてオーガニック料理教室に8年ほど勤め、2017年に独立。MEALSを立ち上げました。

「MEALSでは、台湾やインドなど、旅を通して知ったエスニックやエキゾチックな要素を取り入れた菜食料理をやってみたいと思いました。
屋号のMEALSは、南インドのカレーの定食であるミールスが由来です。伝統的にベジタリアンが多い南インドのミールスには、さまざまな野菜が用いられ、それぞれ素材にあった味つけがされています。凝りすぎず、加熱しすぎず、さっとつくられていて、甘味、辛味、酸味、塩味、揚げ物、生ものなどなど、さまざまな感覚を満たす料理が一つの皿にのっています。それらを好きなように混ぜながら食べるんです。こっちを食べたらこういう味、ここを混ぜるとこういう味と、一皿でいろいろな感覚を感じることができる。これは理想的な料理のあり方だと思いました。そして、自分が料理の仕事をするなら、ミールスのような感覚を呼び覚ましてくれる料理をつくりたいと思い、MEALSを屋号にしました」

インド最南端の町、カンニヤークマリの食堂のミールス(写真提供:MEALS)

インドや台湾は、世界でもベジタリアンの人口比率が高い国として知られています。それらの国々では、菜食中心の食生活は特別なことではなく、ごく自然に菜食料理を選ぶことができます。上田さんは、そうした環境に刺激を受けました。もちろん日本にも歴史的に野菜を中心とした食生活が長くあり、豆腐や納豆が日常に根付いていたり精進料理があるなど、優れた菜食文化があります。上田さんは、こうした日本の食文化に敬意を払いながらも自分自身の役割についてこう語ります。

「普段から菜食の食生活の人がいつもと違った気分で食べられるものや、菜食に興味のなかった人がおもしろそうと感じるものをつくりたい。エキゾチックパワーを借りることで、新たな魅力を加えられたらと考えています。旅行をしたときのワクワクした感じや、未知のものを食べた時の脳がハッてなる感じ、菜食のなかにそういう楽しさを取り入れられたらと思うんです」

旬の野菜を取り入れること
それこそが自然と触れ合うこと

今回、取材にあたりいただいた素食弁当にも、上田さんのそんな思いがしっかりと詰まっていました。

「お肉っぽく見えるのは、大豆ミートです。台湾素食では定番の食材だと思います。大豆ミートは、醤油やみりんなどを用いて甘辛のガツンとした味付けがぴったりです。素食には、五葷(ごくん)といわれる、にんにくやネギ、玉ねぎ、らっきょう、ニラ、あさつきなどを用いません。そのため、こうした野菜の香りを利用せず、自家製のラー油を加えたり、オーガニックの五香粉(台湾料理によく用いられるスパイス)などで香りをプラスするなどして、味わいに変化をもたせています。
ほかにも、豆腐のそぼろや、旬の野菜としらたきの春巻きなどを入れています。また、カリフラワーの梅醤和えや人参のラペなど、台湾素食とはあまり関連のないものも詰めました。味や調理法などさまざまなものをひとつのお弁当の中に入れたいと思っていて、いいバランスになるよう工夫していますね」

お弁当は毎回内容が異なります。また、予約時にお弁当の中身を告知することもありません。そこには、上田さんの食材に対する考え方が関わっています。

「MEALSのお弁当で一番大切にしているのは旬の野菜を使うことです。基本は近隣の無農薬農園や、葉山・三浦の地物野菜を仕入れています。地元で収穫された旬の野菜を食べることは、環境においても味や栄養の面においても、とても理にかなっています。ですから、野菜の旬を無視して一年中ある定番の野菜や、遠くから輸送されてきた野菜を用いることはしません。そのためお弁当の中身を前もって伝えることはできないんです。今この時期の旬の野菜をどう使うのか、その都度考えながらつくっています。野菜の旬って意外に短いんですよ。先週ふきのとうがあったから今週もあるかと思ったら、全部花が開いていたり、大根がとても柔らかいからとメニューを考えたら、翌週には固くなってすっかり違っているなんてこともよくあることです。でもそうして旬の野菜を取り入れることが楽しいし、私にとってはそれこそが自然と触れ合っているということなんです」

いつも試行錯誤があると上田さん。同時にその時々、中身がわからないお弁当を楽しみに予約してくださるお客様に本当に感謝しているそうです。

体にやさしく環境にやさしく、わくわくする楽しさがあり、さまざまな味わいにすっかりお腹も心も満たされるMEALSの台湾素食弁当。そんな料理を届けるために上田さんの日々探求の旅はこれからも続いていきます。

上田 悠 (うえだ はるか)さん

MEALS代表

上田 悠 (うえだ はるか)さん

MEALS代表

上田 悠 (うえだ はるか)さん

神奈川県葉山町出身。山とスキーを愛する父親の影響で旅好きに。
世界のことを理解するには政治と宗教であると考え、大学では政治とイスラム文化を学び、同時にバックパック旅行に熱中する。在学中にオーストラリアにて一年間、WWOOFでパーマカルチャービレッジやコミュニティを巡り滞在。パーマカルチャーデザインコース(PDC)修了。葉山のオーガニック料理教室「白崎茶会」のアシスタント、講師を経て、独立。「MEALS」として葉山を拠点に、主に野菜料理のケータリング、お弁当販売、レシピ提供などを行う。台湾の菜食料理「素食」と南インドの「ベジタリアンミールス」にインスパイアされながら、野菜の美味しさを活かした菜食料理の可能性を開拓している。台湾素食弁当は逗子の陰陽洞で毎月第二・第四金曜日に予約販売中。
https://mealsnaturalfood.com/

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