日本の朝ごはん

豆腐マイスター・工藤詩織さんが伝えたい。
知られざる豆腐の魅力

2022/06/16

豆腐マイスター・工藤詩織さんが伝えたい。知られざる豆腐の魅力
豆腐マイスター・工藤詩織さんが伝えたい。知られざる豆腐の魅力

昔から日本人にとっては、身近な食べ物である豆腐。みそ汁の具や冷奴、鍋物など、日本の食卓には欠かせない存在といっても過言ではありません。一方で、あまりにも身近だからこそ、味わいの違いや原料となる大豆の産地などについて、「あまり気にしたことがない」という人も多いのではないでしょうか。
「豆腐屋さんのある町を残したい」と、豆腐の食文化を発信し続ける豆腐マイスターの工藤詩織(くどうしおり)さんに、豆腐の魅力についてお話を伺いました。

豆腐の食文化は世界をつなぐ

幼少期から豆腐が大好きだったという工藤さん。豆腐好きが高じて学生時代に豆腐マイスターの資格を取得し、現在は全国各地の豆腐店を巡りながら、ワークショップやイベント、執筆活動などを行っています。

ワークショップでは、手書きの資料をもとに、豆腐の魅力をわかりやすく伝えることを心掛けているという工藤さん。

「子供のころは偏食がちで、中でも白米が苦手だったので、ご飯の代わりに豆腐やおからを食べていました。父が健康を気にしていたので、近所の豆腐屋さんに毎日豆腐を買いに行っていたんです。朝起きると、冷蔵庫の中には必ず出来立ての豆腐や豆乳が入っていました。
大豆とにがりと水だけで作られる豆腐は、豆そのものの味がダイレクトに表れます。ほかの大豆食品もよく食べていましたが、やっぱり豆腐が一番好きでしたね」

大学では異文化コミュニケーションを学び、留学も経験。さらに、日本語教師を目指して勉強していたとき、さまざまな国の留学生と接する中で、豆腐は世界中のどんな人でも食べられることに気づいたそうです。

「イスラム教徒やベジタリアンの人も、豆腐ならいっしょに食べられます。それまで『好きだから』という理由だけで食べていた豆腐が、国や宗教、世代を超えて人と人をつなぐ架け橋になりうるのだと感じました。そこで、あらためて豆腐について学びたいと考え、豆腐マイスターの資格を取得したんです。
資格を取って豆腐のことを深く知ってみたら、食べるのがもっと楽しくなりました。その楽しさを多くの人に伝えたい、共有したいという思いが、現在の活動につながっています」

豆腐も大豆も地域によって特性が違う

豆腐の原料となる大豆は、地域性のとても強い作物です。一口に国産大豆といってもたくさんの品種があり、それらは奨励品種と在来種の2つに大きく分けられます。奨励品種とは、その名のとおり国が奨励するもので、各地域の気候風土との相性や加工の適性を認められた8090種。
一方、在来種は各地域で代々作られてきた大豆で、300種類以上もあるといいます。一般的に目にする黄白色の豆から緑や黒、赤っぽいものまで見た目もさまざまあり、「さとういらず」「秘伝」「借金なし」など名前もユニークです。

「使う大豆が違えば、もちろん豆腐の味も変わります。日常で食べるなら癖のない奨励品種、気分に合わせたいなら個性豊かな在来種と選んでみるのも楽しいですよ。特に、いわゆる町の豆腐屋さんは、大豆選びにもこだわっている店が多いので、その土地ならではの豆腐を味わうことができるはずです」

大豆は形や色もさまざま。工藤さんは、研究用に保管しているという。

また、豆腐の食感や食べ方にも、地域性が色濃く表れると工藤さんはいいます。

「例えば、雪深い北陸地方の山間では、縄で縛って運んでも崩れないくらいの硬い豆腐が作られています。また、硬い豆腐としてよく知られている沖縄の島豆腐は、元々海水を使っていたことから、塩を加えて作るのが特徴です。
反対に、やわらかい豆腐といえば、京都の豆腐でしょうか。出汁文化が発展してきた京都では、にがりではなくすまし粉を使った豆腐が主流で、料理の味を邪魔しないスルッとした喉越しが好まれています」

個性豊かな町の豆腐店を
応援し続けていきたい

かつては当たり前のように町にあった豆腐店は、時代の流れとともに年々減り続けています。工藤さんによれば、経営難や後継者不足などの問題から、年間約500軒もの豆腐店が姿を消しているそうです。

「豆腐屋さんの豆腐には、十人十色の魅力があります。豆腐は材料がシンプルで、調味料で味を調えることもできないので、一つひとつの工程が非常に繊細な作業になります。だからこそ豆腐屋さんも、大豆選びからすりつぶし方、豆乳の濃さなどにとことんこだわり、『自分が考えるおいしい豆腐』を作り上げているんです。
メーカーが製造する豆腐をインフラと考えるなら、豆腐屋さんの豆腐はエンターテインメントでしょうか。毎日同じ豆腐を食べるよりも、『今日はどの豆腐にしようかな』と選べる未来のほうが、きっと楽しいと思うんですよね。そのためにも、豆腐屋さんのある町を残したいし、生涯をかけて豆腐づくりに情熱を注ぐ人たちを応援したいと思っています。豆腐屋さんの数は確かに減ってはいるものの、若い人や他業種からの参入などによって、新規店も年間100軒くらいオープンしているんですよ」

工藤さんお気に入りは、徳島県で作られているという「充填こいまろ。」。

豆腐が
よりおいしくなる食べ方とは?

そのままでも加熱してもおいしく、すりつぶしてほかの材料と混ぜて調理することもできる豆腐。そんな豆腐のおすすめの食べ方について、工藤さんに教えてもらいました。

「そのまま食べるなら、ぜひ冷蔵庫から出して20分程置き、室温に戻してから味わってみてください。冷えた状態で食べるよりも、豆腐の甘みや旨みが格段に際立ちます。そうやって、豆腐そのものの味を知ってから、『この甘さなら塩で食べてみよう』『香りは強いけれどサッパリしているから薬味を足そう』など、組み合わせを考えてみてはいかがでしょうか。
私も、豆腐によっていろいろな食べ方をしています。例えば、硬めの豆腐を刺身のように薄く切ってわさび醤油で食べたり、豆腐ステーキにして山椒をかけたり、トマトやオリーブオイル、サルサソースなどで洋風仕立てにすることもあります」

「豆腐屋さんに足を運ぶ人をもっともっと増やしたい」と語る工藤さん。町の豆腐屋さんに対するハードルを下げるために、一般の小売店や飲食店などでも地域の豆腐にふれられるような機会を増やしていくとともに、食以外の切り口にも注目し、豆腐をモチーフにした雑貨ブランドも立ち上げたそうです。

豆腐をモチーフとした雑貨ブランド「豆冨(まめとみ)」の手ぬぐいと、著書「まいにち豆腐レシピ」(池田書店)。

「将来は、全国各地の豆腐を一堂に集め、いろいろな味を選べる場所を作るのが夢です。豆腐の多様な姿を多くの人に楽しんでもらえるように、これからも積極的に活動を続けていきたいですね」

工藤詩織(くどうしおり)さん

工藤詩織(くどうしおり)さん

工藤詩織(くどうしおり)さん

豆腐マイスター。幼少期より無類の豆腐好き。大学で異文化コミュニケーションを学ぶ中で「食文化としての豆腐」の魅力に目覚め、豆腐マイスターの資格を取得。国内外で、手作り豆腐ワークショップや食育イベントなどの活動を開始する。2018年からは「往来(おうらい)」を屋号に、全国各地を往き来して豆腐文化を発掘・発信し、イベントプロデュース・企画・デザイン・取材・執筆など、豆腐の魅力を広めるために活動中。

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