美(うま)し国の食巡礼

守り、伝え、作り、育む。
過去と未来をつなぐ商業施設、VISONとは?

2022/06/23

三重県のほぼ中央に位置する、多気郡多気町。気は命を意味することから、「多くの気を育む場所」ともいわれる人口1万4,000人程のこの町の山間に、溶け込むように誕生したのが、日本の豊かな食文化をテーマにした大型商業施設「VISON(ヴィソン)」です。

放置すれば荒れ、やがて二酸化炭素を吸収する力も弱まる山林を自然に寄り添う形で開発。正しく山を育て、地域に価値を生み、住む人の暮らしを潤す。訪れた人が歩き、見て、ふれて、味わうことで、町が息づく――。

そこには、現代の体験価値にフォーカスした商業施設とは一線を画し、過去からの連続性として今と未来を静かに紡ぐ「美しい村」がありました。

伊勢神宮のように、
地域とともに生きる場に

約1.19平方キロメートルという広大な土地に誕生したVISONにある店舗は、独立した家のように、または昔ながらの表長屋のように、山の形に添って配置され、村を形作っています。多くの建物には、ふんだんに木材を使用。これは伊勢神宮の式年遷宮をロールモデルに、木を張り替えながら継続していく想定で、定期借地で短期的に終わることを前提とした事業とは根本から考え方が異なります。
人々が山を切り拓いて家を建て、住まいと土地を代々受け継いで生きてきたように、VISONもここで働く人や訪れる人の手によって受け継がれていくサステナブルな場所を目指しているのです。

ヴィソン多気株式会社、広報の圓座彩加(えんざあやか)さん。

「定期的なメンテナンスによって、地元の林業の発展や、新たな雇用の創出にもつながればと思っています」と話すのは、VISONを運営するヴィソン多気株式会社で広報を務める圓座彩加(えんざあやか)さん。三重県の中心部に位置するVISONに立ち寄ってもらうことによって、県全体の観光振興につながることも期待しているといいます。

「三重の観光の代表格であるお伊勢参りには日帰りで訪れる人が多く、周辺の伊勢志摩や鳥羽まで足を伸ばす人は少ないのが現状です。ここVISONを起点に、三重県の各地へ立ち寄るような人の流れが生まれ、観光拠点としての役割を果たせたらうれしいですね」

独自性あるエリアが集い、
ひとつの村を形成する

VISONは、さまざまなテーマを持った複数のエリアで構成されています。
エリア内の店舗はいずれも、ヴィソン多気株式会社代表・立花哲也氏がみずから出店を交渉し、中には何年もかけて実現したところも少なくないといいます。いずれも、サステナブルな経営を目指す理念に共感してくれた企業やブランドだけで構成されており、ナショナルチェーンはひとつもありません。

「お店やエリアの案内看板は小さめに、風景が引き立つようにしています。電線を地中化しているので、元々の景観を乱すことなく、自然と共存して暮らす昔ながらの村の雰囲気を味わっていただけると思います」

それでは、VISONを構成する、代表的なエリアを見ていきましょう。

和ヴィソン

和ヴィソンは、昆布、味噌、みりん、出汁、酒、酢、醤油など、和食に欠かせない伝統食材の工房と専門店が並ぶエリアです。飲食や買い物を楽しむだけでなく、オリジナルの出汁づくりや味噌づくりなど、体験を通して和食の良さを学ぶこともできます。
味噌、酢、みりん、鰹節、昆布、醤油…の各店舗は、発酵文化を表現する印象的な蔵造りとなっています。

アトリエ ヴィソン

アトリエ ヴィソンは、「KATACHI museum / museum shop」をはじめ、陶芸工房やギャラリーショップなど、食にまつわる道具を知り、購入できるエリアです。
陶芸家・造形作家の内田鋼一氏がプロデュースした「KATACHI museum / museum shop」は、伊勢神宮など神社仏閣でも左官として活躍する、職人の手による日本最大級の土壁造りが特徴です。雨が多いという気候を逆手に、建物には雨どいをつけず、「雨が染み込み経年変化していく様子もひとつのアート」との考え方にもとづいて建てられており、屋根から滴る雨も趣があります。

スウィーツ ヴィレッジ

パティスリーカフェとベーカリーショップを展開する、パティシエ・辻口博啓氏がプロデュースするスウィーツヴィレッジ。パティスリーカフェの隣の温室では、国産カカオを栽培する「カカオハウス」や「イチゴハウス」も併設し、VISONならではのオリジナル事業も期待されています。

マルシェ ヴィソン

マルシェ ヴィソンは、フランスのミシュランガイド1つ星シェフ・手島竜司氏監修の産直市場です。三重周辺の新鮮な海の幸・山の幸が所狭しと並べられており、連日、本場フランスさながらの賑わいを見せています。

サンセバスチャン通り

サンセバスチャン通りには、多気町と「美食を通じた友好の証」を締結した、スペインのサンセバスチャンのコンセプトを踏襲する店舗が集結しています。ファッションやキャンプグッズを扱う店舗もあり、異国の雰囲気を感じながら買い物を楽しむ人たちでいつも賑わうエリアです。

本草エリア

三重大学とロート製薬の共同研究・発信の場である本草研究所や薬草園、VISON独自の「本草七十二候」にもとづいて配合された薬草湯が楽しめる温浴施設があります。日々の生活で弱った五感が自然のエネルギーによって補われ、研ぎ澄まされていく、気の力に満ちたエリアです。

ホテルエリア

宿泊は、斜面を利用して建てられた眺望抜群のテラス付きホテルと草木の中に溶け込むように建つヴィラ、サンセバスチャン通りの賑わいを身近に感じる旅籠の2種類から選べます。

アメニティは、イタリアのオーガニックなヘアケア・ボディケアブランドの物を採用しているほか、歯ブラシやヘアブラシ、カミソリなどの包装には紙、本体には藁を使用。ふれた感触にやわらかさと温かみがあり、VISONの根底に流れる環境との共存への強い思いを感じます。
歩き回って疲れた体にうれしいティーセットは、三重県産の「かぶせ茶」「和紅茶」などが用意されています。

農園エリア

敷地約9,000平方メートルのオーガニック農園に、地産地消の先駆者的存在・奥田政行氏監修のレストラン「NOUNIYELL」を併設。目の前に広がる山々の稜線を眺めながらいただく料理には、農園の野菜、三重県を代表する野菜がたっぷり使われています。人間も自然の循環の一部であることをあらためて実感し、「食べることは生きること」の意味を腹落ちさせてくれる空間です。

100年先まで残したいものが、
美(うま)し国・三重県にある

2021年のオープンから1年が経ち、VISONの住民たちのあいだにも新しい絆が生まれています。

「店舗のオーナーや作り手同士が連携し、VISONオリジナルのコラボ商品も誕生しています。良い物はお互いで認め合い、よりすばらしい商品へと変化する様子は、『これまでにないような取り組みにチャレンジしながら、私たちが大切に育てていく場所』という、VISONのコンセプトが体現できているのではないでしょうか」

和ヴィソンにある三州三河みりんの醸造元「角谷文治郎商店」は、
醤油蔵の直売店「伊勢醤油本舗」の醤油と
「MIKURA Vinegary」の酢でVISONオリジナルポン酢を販売。
また、酒蔵「福和蔵」のお酒と深海魚を扱う「第十八甚昇丸」といっしょにガスエビの塩辛を、
「本草研究所RINNE」とはみりんグラノーラといったコラボ商品を誕生させている。

ともすれば消えてしまいかねない日本の伝統的な食文化や食材、そして人間の本来の暮らしの記憶、自然が与えてくれる力のすばらしさ…。これらを一度に体感できるVISONは、目まぐるしく変化する時代のスピードとともに、生まれては消えていく商業施設とは一線を画し、三重県の新しい村のひとつとして、確かな歴史を刻み始めています。

VISON(ヴィソン)

「三重故郷創生プロジェクト」(株式会社アクアイグニス、イオンタウン株式会社、ファーストブラザーズ株式会社、ロート製薬株式会社の4社からなる合同会社)のノウハウを集結させ、三重県・多気町・地元大学とともに産学官連携で事業に取り組んでいる商業リゾート施設プロジェクト。東京ドーム24個分(約1.19平方キロメートル)の広大な敷地に、「食」をテーマとした専門性の高い店舗が出店する大型複合商業施設。

https://vison.jp