美(うま)し国の食巡礼

内田鋼一氏が手掛ける
「KATACHI museum」から見えるもの

2022/07/22

内田鋼一氏が手掛ける「KATACHI museum」から見えるもの
内田鋼一氏が手掛ける「KATACHI museum」から見えるもの

先史時代に人類が生活していたことを示す証拠に、貝塚や土器があることはよく知られています。残された道具や食事の痕跡から、大昔の人がそこで何を食べ、どんな暮らしをしていたのかを想像することにロマンを感じるという人は多いのではないでしょうか。
陶芸家で造形作家の内田鋼一(うちだこういち)氏が世界中から集めた「食べるための道具」がそろう「KATACHI museum」は、そんな大人の想像力を刺激する、一風変わったミュージアムです。
食事という共通点を持つ道具の魅力や、「KATACHI museum」に込めた思いについて、内田氏にお話を伺いました。

土地に溶け込む、
土壁の建物が
朽ちていく様子もアート

日本の豊かな食文化をテーマにした大型商業施設「VISON(ヴィソン)」。広大な敷地内の「アトリエ ヴィソン」と呼ばれるエリアに、内田氏がプロデュースした「KATACHI museum」はあります。
土壁で覆われた外観は、VISON内のほかのエリアにある三重県産の杉を中心に木材をふんだんに使っている建物とは一線を画す独特のたたずまい。建物そのものと、そこに内包する作品への興味がふつふつとわき上がります。

継ぎ目が一切ない日本最大級の土壁を作ったのは、伊勢神宮をはじめとした神社仏閣の建立に活躍する左官たち。雨が染み込んで朽ちていく様子もひとつのアートであるとの考えから、建物には継ぎ目がなく、雨どいもありません。
手塗りの苦労を思わせる広大な壁は、オープンからこれまでの短いあいだにも、降り注ぐ雨風や日差しを受け止めて少しずつ味わいを増してきました。

陶芸家・造形作家の内田鋼一氏。

「建物は、気候の変化や時間の流れを映して、土地になじんでいくもの。その変化の一つひとつを楽しんでもらえたら」と内田氏。傷んではがれたら塗り直し、時代が変わっても長く生き続けるサステナブルな建物を目指している点で、「KATACHI museum」もVISONと志を同じくしているのです。

「食」にまつわる道具だけを
セレクトしたミュージアム

「KATACHI museum」に展示されているのは、国や地域を問わず、すべて食にまつわる道具ばかり。どれも、長年にわたって海外を飛び回ってきた内田氏が、私財を投じて収集してきた貴重なコレクションです。

内田氏はこれまでにも、自身が集めた四日市の焼き物・萬古焼(ばんこやき)の知名度向上を目指し、私設のデザインミュージアム「BANKO archive design museum」を立ち上げるなどの活動をしてきました。

「元々、萬古焼に興味があったわけではないんです。地元の骨董市などで萬古焼を手に入れたことがきっかけで、特徴ある焼き物でありながら美濃や瀬戸といった著名な焼き物の影に隠れていることを知り、萬古焼をアーカイブするミュージアムを立ち上げました。常設展示のほか、年に2回は企画展を行っています」

萬古焼は、現在三重県の四日市市と菰野町を中心に生産されている。

萬古焼のおもしろさは、著名な窯場に囲まれた立地上、ほかの窯場が作らない物を作ってきた点にあるといいます。皿や鉢は萬古焼特有の色合いで、陶製のキユーピー人形や貯金箱といったポップな作品も少なくないそうです。

「一般的には山奥にあるとされる窯場が海に近い町にあって、輸出を前提に『海外向けのジャポニズム』を意識して作られた焼き物が多いのも特徴ですね。明治以降、人形や玩具を多く手掛けていた歴史があるようです」

食にまつわる店が集まるVISONを単なる商業施設にとどまらせないよう、知的好奇心を刺激する文化施設を作るという構想が膨らむ中で内田氏に声がかかったのは、こうした活動の積み重ねがあったからです。発酵料理で知られるデンマーク・コペンハーゲンのレストラン「noma(ノーマ)」が日本に出店した際に、テーブルウェアのひとつとして内田氏の作品が使われるなど、食との親和性が高いことも理由でしょう。

「食文化がテーマのVISONで何かやるなら、私が好きで集めてきたコレクションの中から、食の道具だけを並べたミュージアムにしてはどうかと思いました。国も時代もばらばらで、食の道具という一点のみに共通点があるアイテムを置くことで、道具の使い方や、使っていた人の暮らしを想像できるような空間を作りたいと思ったのです」

食の道具を起点に、
食の背景に思いを馳せてほしい

内田氏が持つ独特の審美眼で選定されたアイテムは、希少な物から海外の蚤の市でふと惹かれて購入した物まで、大きさも形も、市場価値もさまざまです。見る人が先入観に縛られることがないよう、作品に詳しい説明は加えていません。
アンティークのキャビネットなどを活用し、作品そのものが持つ素材感、存在感が伝わる展示方法をとっていることも、見学者のイマジネーションを刺激する工夫のひとつです。作品を見学する順路も決められていないので、誰もが自由に、みずからの感性で作品の向こうにある「いつかの、誰かの人生」に思いを馳せることができます。

「パッと見ただけでは何だかわからない作品も、食というキーワードがあれば使い方が思い浮かびます。遠く離れた国で同じ時期に同じような道具が使われていたり、時代が変わっても変わらぬ道具があったりと、見る角度を変えるたびに新しい発見があるのもおもしろいのではないでしょうか。時代や国が変わっても、人がいれば食がある。VISONで食を楽しみ、このミュージアムで食の背景に思いを巡らせてもらえたらうれしいですね」

内田鋼一(うちだこういち)さん

内田鋼一(うちだこういち)さん

内田鋼一(うちだこういち)さん

陶芸家・造形作家。1969年、愛知県に生まれる。世界各国の窯業地を巡りながらその土地の土や窯で焼き物の制作、研究を重ね、1992年に三重県四日市にて独立。2015年にBANKO archive design museumを設立。

KATACHI museum

KATACHI museum

住所:
三重県多気郡多気町ヴィソン672番1 アトリエ4
TEL:
0598-67-0725
営業時間:
10:00~17:00
定休日:
なし
URL:
https://vison.jp/shop/detail.php?id=43

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