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美(うま)し国の食巡礼
味噌・醤油醸造から地ビール製造へ!
挑戦を続ける「伊勢角屋麦酒」
2022/09/16
味噌・醤油醸造から地ビール製造へ!挑戦を続ける「伊勢角屋麦酒」
美(うま)し国の食巡礼
2022/09/16
世界のビールコンペティション受賞の常連で、世界中にファンがいる「伊勢角屋麦酒」。クラフトビール好きなら、その名を一度は耳にしたことのあるという人も多いのではないでしょうか。
三重県伊勢市にある「伊勢角屋麦酒 内宮前店」では、醸造業界のオスカーとも呼ばれる「International Brewing Awards」で2年連続金賞に輝いた実績を持つ伊勢角屋麦酒のビールと、鳥羽産の牡蠣や国産うなぎを使った創作料理を楽しめる直営店です。伊勢神宮内宮へと続く、江戸時代の町並みを再現したおはらい町の一角にあり、趣ある和風建築の中で極上のビールと非日常感を味わうことができます。
今回は、伊勢角屋麦酒の魅力と取り組みについて、醸造所で作り手としての経験も持つ谷水和輝(たにみずかずき)さんにお話を伺いました。
伊勢角屋麦酒 内宮前店は、どこか懐かしい木造の店構えに、金文字で店名と屋号をあしらった看板が目印です。看板の真下にはテイクアウト専用カウンターがあり、ビールを注ぐタップがずらりと並び、名物の牡蠣フライ串と好みのビールをオーダーして、食べ歩きを笑顔で楽しむ人たちの光景が広がっています。
「昔の伊勢の町並みを再現したおはらい町は、『非日常を感じられる場所』です。当店も、いつもとは少し違うひと時を楽しんでいただけるような店づくりを心掛けています」
釘を使わない木組み製法で建てられた店舗は、開業に合わせてゼロから設計したもの。おはらい町の再建に尽力し、おかげ横丁を立ち上げた当時の赤福社長から飲食店出店の打診を受けた際に、昔ながらの伊勢の町並みになじむよう建築したのだそうです。
店内では、裏手を流れる五十鈴川に向かって、囲炉裏のある畳敷きの小上がりと土間のテーブル席が広がり、豊かな自然を眺めながらゆっくりとした時間を過ごすことができます。
テラス席も人気で、アルコールとは無縁の高校生たちが、学校帰りに牡蠣フライ串でおなかを満たしながらおしゃべりに興じていることもあるそうで、年代を問わず地元の人に愛されるお店であることがわかります。
ここからは、伊勢角屋麦酒のビールづくりの歴史についてご紹介しましょう。
伊勢角屋麦酒は、伊勢に来る旅人を迎える茶店であった、1575年創業の餅屋が始まりです。1923年から味噌・醤油の醸造業も営んできた有限会社二軒茶屋餅角屋本店として法人化後、1997年に21代目当主の鈴木成宗さんが新規事業としてクラフトビール「伊勢角屋麦酒」の醸造と販売をスタートさせました。現在では東海地方最大のクラフトビールメーカーとして、業界を牽引する存在へと成長しています。
「伊勢から世界へ」「世界のビールファンを唸らせる」を合言葉に、2000年にはJapan Beer Cupで金賞を受賞。以降、日本企業初のAIBA(Australian International Beer Awards)金賞やビール界のオスカーと呼ばれるIBA(The International Brewing Awards)といった、多くの大会で受賞しています。
この伊勢角屋麦酒の味を支えるのは、自社で分析から検査、酵母培養まで行うことができる最新鋭の機器と、専門知識豊富なスタッフの存在。硬度を調整した水を使った「きれいなビール」を基本とし、職人の経験や勘を反映した科学的分析と、テイストチェックシートにもとづく人力でのチェックを徹底することで、高い品質を維持しているそうです。
日本独自のビール文化の共創を目指して異業種にも門戸を開き、挑戦を続ける伊勢角屋麦酒には、国内外の熱狂的なビールファンたちが熱い視線を注いでいます。プロに勝るとも劣らない知識と確かな舌を誇るファンたちと接する中で、谷水さんをはじめとしたスタッフも学ぶことが多いといいます。
「お客様にご満足いただけるよう、常に知識をブラッシュアップし、わかりやすく商品を紹介する努力をしています」と谷水さん。伊勢角屋麦酒が誇る、クラフトビールの一部について教えていただきました。
・神都麦酒(しんとびーる)
伊勢角屋麦酒 内宮前店の看板ビール。明治時代、伊勢の河崎にあった幻ともいわれるビールを再現しているそうで、原材料には古代米を使用。ほのかに米の香りや風味を感じられる爽やかなペールエールで、クラフトビール初心者にもおすすめです。
・伊勢ピルスナー
ドイツ系ピルスナービール。上品な苦味があり、「これぞラガービール!」と思わせる本格派の味わいが魅力です。2~5℃の低温で、手間をかけて熟成させることで、クリアな味を実現しています。ほのかな柑橘の香りを楽しみながら、じっくりと味わいたい一杯です。
・ペールエール
伊勢角屋麦酒の象徴的存在となるフラッグシップビール。ビール界のオスカーともいわれるThe International Brewing Awardsで、2大会連続最高賞のゴールドを受賞しました。飲み応えがあるのにさっぱりと飽きのこない王道ビールです。
・IPA
フルーティな香りと、しっかりした苦味が印象的なIPAビール。どのタイミングで飲んでも、誰もが「おいしい」と言ってしまうクラフトビールを追求して生まれた一杯というだけあり、バランスの良い味わいです。
・ヘイジーIPA
白い濁りのある黄金色で、2018年に定義された新しいビアスタイルとして注目されている「Juicy or Hazy India Pale Ale」。ジューシーな味わいは残しながら、スッキリ飲みやすいのが魅力です。
・ヒメホワイト
ベルギースタイルのホワイトエール。薄黄色の優しい色合いで、口当たりもやわらか。オレンジピールの代わりに柚子の皮を使った和テイストがおもしろい、女性人気の高いビールです。
「どのビールを選ぶか決められない方や、クラフトビールに慣れていないという方には、4種類のクラフトビールを少しずつ味わえる飲み比べセットで好みの味を探すのもおすすめです。
お酒が苦手な方や車の運転がある方は、ビール風味の炭酸水であるホップスパークリングと合わせて、牡蠣のネギ塩焼き、牡蠣のレモンペッパー焼き、牡蠣の西京味噌焼きの3種類を盛り合わせた変わり焼き牡蠣や、自社製の味噌を使った土手鍋定食など、鳥羽産の牡蠣を使った料理をお楽しみいただけます」
伊勢角屋麦酒 内宮前店で、多くの人が笑顔でひと時を過ごせるのは、日本人の心のふるさととも呼ばれる、伊勢ならではのおもてなしが行き届いているからでしょう。さらに、谷水さんはこう続けます。
「伊勢角屋麦酒では、極めて醸造難度の高いアイスボックと呼ばれる手法でビールを醸し、オーク樽で長期熟成させた幻の凍結ビールに挑むなど、常に新しい挑戦を続けています。
私自身、近く作り手側に再び異動が決まっているので、クラフトビールの世界をさらに広げるお手伝いができたらうれしいです。そして近い将来、一人の作り手として、世界大会で金賞を取れる新しいビールを生み出したいと思っています」