美(うま)し国の食巡礼
日本食の良さをあらためて知る。
「和ヴィソン」で楽しむ発酵体験
2022/10/27
日本食の良さをあらためて知る。「和ヴィソン」で楽しむ発酵体験
美(うま)し国の食巡礼
2022/10/27
三重県のほぼ中央に位置する多気町にある商業施設「VISON」は、日本の豊かな食文化の発信拠点です。
「味わう」「買う」といった一般的な体験に加え、物づくりの工程を実際に見たり、実践したりすることで日本の伝統的な食の魅力を伝えています。
今回は、和食の魅力がつまったエリア、和ヴィソンにある「無添加商店 尾粂 三重VISON店」「美醂 VIRIN de ISE」「MIKURA Vinegary」「蔵乃屋」の4店舗でできる発酵体験についてご紹介します。
1871年(明治4年)創業の「尾粂(おくめ)」は、東京・築地で最も長い歴史を誇る水産企業。旬に獲れた高品質な魚を使った干物や漬け魚、だしなどは、どれも無添加、天日干しにこだわった製法で、昔ながらの味を変わらず提供しています。
地方初出店となる「無添加商店 尾粂 三重VISON店」では、店舗内右手のカウンターに並んだ24種類の素材の中から、好きな素材を選ぶだけで、オーダーメイドのだしパックを作ることができるのです。
尾粂のオーダーメイドだしパックは、2パック60袋入りから。「ベースだし」「サブだし」「アクセントだし」「隠し味だし」をそれぞれ1種類選択し、オリジナルの味をその場で作ってもらうことができます。
1. オーダーシートに記入する
オーダーシートには、素材の特徴とグラムあたりの値段、うま味成分ごとの分類が記載されています。
2. 素材を選ぶ
尾粂のだしのおすすめ黄金比は、「ベース(イノシン酸):サブ(イノシン酸):アクセント(グルタミン酸):隠し味(グアニル酸など)=4:3:2:1」。
ベース、サブ、アクセント、隠し味の好みのだしを、カテゴリーから1種類ずつ選択していきます。
<だしのうま味成分表>
・ベース(168g)…かつお本枯節、かつお荒節、宗田かつお節、まぐろ節、さば節、むろあじ節
・サブ(126g)…片口煮干し、平子煮干し、うるめ煮干し、あご煮干し、焼きあご、あじ煮干し、エソ煮干し、かます煮干し、のどぐろ煮干し
・アクセント(84g)…利尻昆布、真昆布、日高昆布、羅臼昆布
・隠し味(42g)…どんこ椎茸、香信椎茸、ほたて貝柱、鶏節、するめ
もちろん、スタッフに相談しながら選ぶことも可能。だしの知識、素材の知識が豊富なスタッフが、好みの味などを聞きながら丁寧にアドバイスしてくれます。
「普段あまり見かけない、さば節やまぐろ節、のどぐろ煮干しなどを選ぶ方が多いですね。何をお選びいただいても、黄金比でブレンドすれば必ずおいしくなります」(同店店長・乾祐麻さん)
3. その場でブレンドし、オリジナルだしパックが完成
選んだ素材はブレンドされ、30袋のだしが入ったオリジナルだしパックになります。パッケージに名前を書けば、「我が家だけのだし」が完成!
「調合の割合データを保存していますので、再度同じ物を購入したいときはオンラインからのご購入も可能です。家名が入るので、結婚式の引出物としてもご活用いただくケースも多いんですよ」
だしパックをブレンドしてもらっているあいだは、尾粂5代目が厳選した全国の無添加食品が並ぶ店内で買い物を楽しむのもおすすめ。これらの商品は、併設の「食事処 おくめ」で食べることもできます。
煮物や照り焼き、蕎麦つゆと、さまざまな和食に使われる、みりん。身近で生活に根付いた調味料である一方、その使い方や役割については意外と知られていないという声も多いようです。
「美醂 VIRIN de ISE」は、国内指定産地のもち米、手作りの米麹、本格焼酎の3つを原料とする「三州三河みりん」で有名な角谷文治郎商店のお店です。1910年(明治43年)の創業以来、みりん醸造一筋に歩んできた同商店は、現社長の角谷利夫(すみやとしお)さんで3代目です。
店内では、多気町産の米を使い、三河の伝統製法で造ったみりんを仕込む様子を見学することができます。
「当店のみりんは、三河の伝統製法である『米一升、みりん一升』の原則に従って造られています。みりんは酒類に分類されるため、醸造用糖類や醸造用アルコールを米の分量に対して一定量まで加えて良いとされていますが、私たちはそれをしていません。原材料はもち米と米麹、本格焼酎のみ。だから、お米本来の自然な甘さ・旨み・香りの三拍子そろった特別な味わいが楽しめるのです」(角谷社長)
規模こそ本社の5分の1の量だそうですが、ここVISONでもみりんは通年仕込んでいます。
「たくさんのもち米を、大型の蒸し器である甑(こしき)で蒸して冷まし、米麹、焼酎と混ぜ合わせるともろみになります。これをタンクに入れ、乾燥を抑えてまんべんなく糖化が進むようにオールのような櫂(かい)で混ぜながら仕込んでいくのです」
数ヵ月熟成されたもろみは圧搾し、さらに貯蔵タンクで熟成。長期間の熟成を経てコクが深まり、まろやかな味わいになったみりんはようやく市場へ並びます。
「美醂 VIRIN de ISE」では、多気町産の米を使用した「美醂」を実際に味わうことができます。試飲すると、すっきりとした甘さの中に深いコクが感じられ、まるで新感覚のお酒!思わず飲み干してしまうおいしさです。
「今後は、見学だけでなく体験メニューも準備し、みりんのことをより深く知っていただきたいと思っています。もち米を蒸してタンクに仕込むまでなら1泊2日でできますから、VISONの宿泊とセットで楽しんでいただけたらいいですね」
先にご紹介したみりん同様、酢も造り方や使い方があまり知られていない調味料のひとつかもしれません。「MIKURA Vinegary」の入り口と店内の醗酵室には、大きな木桶があり、この木桶で酢が造られているのを知ることができます。
「MIKURA Vinegary」の本拠地、三重県南牟婁郡御浜町の蔵には、醗酵室に5台の木桶が並んでいるのだそう。造るたびに種酢を残すことで、酢酸菌の培養が続き次の発酵を繰り返します。
「多気蔵」と呼ばれるVISON店の蔵は、醗酵室の中に大桶が3台並んでおり、店内からガラス越しに発酵の様子を眺めることが可能です。発酵のプロセスを想像するだけで、静かな木桶の中で微生物が活発にうごめく様子が見えるような気がするから不思議です。
表面発酵の酒粕赤酢「朱音」や酒粕白酢「月下」のほか、静置発酵の玄米黒酢「玄(しずか)」、寿司酢など、木桶の優しさの中で育まれた熟成した香りとコクのある味わいが魅力の多彩な商品が並んでいます。
また、伝統製法を守りつつ親しみやすさを出した、お酢に三重県産のゆずやレモンなどの果実をブレンドした「&vinegar」シリーズも人気。特に珍しい「&vinegarいちじく」は、女性や親子連れを中心に購入されていくそうです。
同店の魅力は、お酢の新しい使い方を発見できること。試飲したお酢を使った料理を教えてもらえるほか、カウンターに並んだアレンジのお酢から好みの味を探すことも可能です。この日は、同じく和ヴィソンにある「削節本舗 伊勢和」のかつお節を「月下」「玄」にそれぞれ一夜漬けした物や、「無添加商店 尾粂 三重VISON店」のむろあじを漬けた黒酢が置かれていました。
アレンジのお酢は、酸っぱさが苦手な人にもおすすめの商品。店内ではソフトクリームやサラダ、ドリンクなども提供されているので、これまでの常識にとらわれないお酢の魅力を発見できるかもしれません。
「蔵乃屋」は、東京・豊洲市場に本店を置く、味噌専門の販売店です。店内では、全国各地のご当地味噌を100gから量り売りで購入することができます。「信州蔵みそ」や「伊予麦みそ」「江戸甘みそ」など、30銘柄もの味噌が、まるでジェラート屋さんのようにガラスのショーケースに美しく並んでいます。
「気になる味噌があっても、普通のパックでは量が多すぎて気軽に購入しにくいという声をよく聞きます。蔵乃屋の味噌はどれも100gから試せるので、ちょっと家庭の味を変えてみたいとき、もっと自分たちの舌に合う味を探したいときにおすすめです」(マルコメ株式会社 店舗事業課 兼 広報宣伝課・小出友和)
店内には味噌コンシェルジュがいるので、相談しながら選ぶこともできます。どれも「だしいらず」でおいしい無添加の味噌であることも、蔵乃屋のこだわりです。
また、対面の量り売りに加えて、実体験を通じて味噌を知るコンテンツも提供。「見て・ふれて・味わって、味噌のことをもっと知ろう」をテーマに、味噌仕込み体験を毎日実施しています。
味噌仕込み体験は、毎日13時と15時の2回実施しています。各30分程度で、1.4kg分(味噌汁約90杯分)の手づくり味噌を仕込むことができ、幼いお子さんでも体験できるので、ファミリー層に人気です。
1. 店頭にて申込み後、味噌について学ぶ
蔵乃屋店頭で先着順、各回定員6組までが申込みできます。空きがあれば当日の予約も可能。味噌ができるまでのわかりやすい解説動画を視聴します。
2. 味噌仕込み用のセットを確認
味噌づくりに使う材料は、蒸かした大豆、水、塩、米麹の4つです。
3. 袋に入った大豆をつぶす
蒸かしたての大豆を、袋の上から丁寧につぶしていきます。くるくると袋を動かしながら、手のひらに体重をかけて押しつぶしていくのがコツです。
4. 米麹と塩、水を加え、さらにつぶす
大豆や麹の粒が残った状態のものは、麹味噌や粒味噌と呼ばれます。滑らかな味噌にしたい場合は、ひたすら押しつぶすのがポイント。
5. 最後に種味噌を加える
発酵・熟成を促進するため、種味噌を加えます。種味噌は、生味噌が基本です。
6. 箱に詰めて、仕込み日と仕上がり予定日をラベルに記載
空気を抜き、袋の口をぎゅっと締めて、箱に詰めます。輪ゴムをしっかりかけたら、仕込み日と仕上がり日を記入したラベルを貼って完成です。
自宅に持ち帰り、熟成が進むと結び目付近にもろみが溜まったり、炭酸ガスが溜まって袋がパンパンに膨らんだりするので、取り換え用の袋もついてきます。自宅へ戻ったら涼しい所へ保管し、発酵の様子を見守りましょう。
普段の食事に何気なく取り入れている「だし」「みりん」「酢」「味噌」。和ヴィソンに並ぶ蔵では、身近にある日本の伝統的な発酵食材について食べ、学び、体験して深く知ることができます。
慣れ親しんだ日本の味を支える調味料ができるまでの工程に目を向け、和食の豊かな味わいを再認識してみてはいかがでしょうか。