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発酵人
「おじさん」だからできることを!
エンタメ発酵ブランド「8cco」
2022/11/10
発酵人
2022/11/10
コロンとしたフォルムの「8」のロゴに、カラフルでポップなラベルの包み紙。そして、「薬膳」「醗酵」「恋」というキャッチフレーズ…。発酵ブランド「8cco(ハッコ)」の商品には、手に取る人をわくわくさせる色やデザイン、ワードがたくさん詰め込まれています。思わずSNSで発信したくなるような愛らしいブランドを生み出したのは、自称「3人のおじさん」たち。
長年培ってきた発酵や醸造の技術を活かして、表舞台で輝く発酵食品を――。
おいしさと健康を届けたい一心でたどり着いたという、エンタメ発酵ブランド「8cco」への思いと、話題の商品である醗酵ドリンクの素について、代表の柴沼秀篤(しばぬまひであつ)さんにお話を伺いました。
エンタメ発酵ブランド「8cco」を手掛ける、きのか蔵株式会社代表の柴沼秀篤さんは、創業300年以上の歴史を持つ蔵元、柴沼醤油醸造株式会社(茨城県土浦市)の18代目。杉の木樽で職人が手仕込みする醬油の香りに囲まれて育ちました。
しかし、「幼い頃は、醤油屋にだけはなりたくなかった」という柴沼さん。「家は長男が継ぐもの」という慣習に幼い頃は反発していた時期もあったそうです。しかしそんな柴沼さんの心が動いたのは、東京農業大学を卒業し、大手食品メーカーに勤務して7年が過ぎた頃でした。
「希少となった木桶製法を受け継ぎ、日本の食文化を守り続けてきた家業が危機に陥ったとき、本気で支えられるのは自分だけだと思い直しました。それで、家業を継ぐことを決めたんです」
家業に戻った柴沼さんでしたが、数ではなく質で勝負する同社にとって、醤油の価値が下がり続けていることは大きな打撃でした。醤油が量販店でミネラルウォーター同然の価格で販売されていること、醤油の醸造を生業とする会社が年々減り続けていることに危機感を覚え、伝統に胡坐をかかない商売の在り方を模索するように。職人の技を数値化して商品の改良に活かしたり、日本食ブームの巻き起こる海外に輸出をしたりと、老舗の経営に新たな息吹を吹き込んでいきます。
「海外では日本のウイスキーやワインがとても評価されていて、その技術力にあらためて注目が集まっています。日本の伝統製法で造った醤油も同様に、クオリティが非常に高いと驚くほどの反響をもらいました。現在、世界62ヵ国に向けて、柴沼醤油醸造の醤油を販売しています」
海外展開の成功で順調に業容を拡大する中、新型コロナウイルス感染症が拡大。未曽有の事態で海外に行くこともままならなくなり、柴沼さんは再び足元を見つめ直しました。伝統を守りつつ、常に革新を求めて活動してきた柴沼さんらしく、醤油以外の商品展開とECへの進出を模索し始めたのです。
柴沼醤油醸造で培ってきたノウハウと技術を活かすとはいえ、まったく新しい商品を生み出すからには新しい会社を作ったほうが良い。そう決意し、ウェブの知見と品質管理の知見を持つ人材を探し始めたときに再会したのが、中学校の同級生だった現・きのか蔵株式会社の広報を務める小松慎さんでした。
「食品の展示会で、小松くんがたまたまうちのブースに来て、僕の昔の友人だと言って名刺を置いていってくれたんです。懐かしくて連絡して見たら、EC関係の会社に在籍しているっていうじゃないですか。ぜひ話が聞きたいと飲みに行ってアドバイスをもらっているうちに、同級生でいっしょにやりたいねという話になったのが始まりです」
さらにもう一人、岐阜の蜂蜜屋を継いでいた同級生の小林勝海さんに連絡をとったところ、品質管理としての参画が決定。ここに中学時代の同級生だった幼い3人が、さまざまな経験を経て成長し「3人のおじさん」となってそろい、きのか蔵株式会社は本格的なスタートを切りました。
「スタートしてすぐ、今の商品ラインナップが生まれたのならかっこいい話なんですが、実は2回ほど失敗していて(笑)。ブランド名が決まって、3人それぞれに強みもある。すぐに結果を出したいという気持ちが先走り、とりあえず今の知見で作れて売れそうな物をと、ドレッシングや醤油もろみなどの調味料を作ったんです。おしゃれにブランディングしたつもりでしたが、これがめちゃくちゃコケました」
ECでも売れず、物産展に並べてもらい商品説明をしながら販売をしても売れ残る日々…。3人は話し合い、「あまりに安直すぎた」と結論を出します。3人で事業をやることに舞い上がり、お客様の顔が見えていなかったのではないか。いくら良い物でも、ストーリーがなければ売れない。
あらためてコンセプトを立て直し、廃棄野菜を使った冷凍野菜スープの商品化にこぎつけたものの、それも販売数は伸び悩んだそうです。
「ブランドをゼロから見直すか、事業そのものを断念するかというところまで追い込まれて、初めてお互いに本音で意見をぶつけ合いました。多くの議論を経て、最後にもう一度だけ、背水の陣でこの事業に賭けてみようと決めたんです。自分たちがやりたいこと、自分たちでなければできないことは何か。何より、お客さんが喜んでくれることは何か。徹底して突き詰めた結果、健康にも美容にも優れた効果が期待できる発酵をもっと親しみやすく、新しい形で届けようと決めました」
より消費者に寄り添ったモノづくりをするため、健康知識が豊富なフリーアナウンサーで農ジャーナリストでもある名越涼さんをプロデューサーとして招聘。同じ轍は踏むまいと、商品の枠を規定せず徹底的に発酵の可能性を洗い出し、健康効果や美容効果の期待できる素材と掛け合わせたときに可能性を最大化できる商品を、ゼロから組み立てていきました。
「健康は我慢ではなく、おいしさやおもしろさ、楽しみの先にあってほしい。それを発酵で形にしたい。ブレストを重ねて行き着いたのが、おいしいけど不健康なものとして敬遠されがちな炭酸飲料と発酵を組み合わせた醗酵コーラの素と、醗酵ジンジャーエールの素でした」
商品の最大の特徴は、発酵原料に加えて、コーラは多様な薬膳のスパイスを、ジンジャーエールはハーブを使っていること。おいしさを損なわず、かつ健康・美容に期待できる効果を最大化できるよう、試行錯誤を繰り返して開発したといいます。砂糖を一切使わず、蜂蜜で甘みを出しているのもこだわりのひとつです。
「これらの商品は、炭酸で割ったり、ミルクで割ったり、時にはお酒で割ったりすることで、生活のさまざまなシーンで楽しむことができます。仕事や運動前のエナジードリンク代わりに、くつろぎの時間に、サウナ上がりに…。お客様一人ひとりのライフスタイルパートナーとして、いろいろな形で味わっていただきたいですね」
かつては不健康の代名詞のような炭酸飲料が、「8cco」の手によって健康的で罪悪感のない飲み物に生まれ変わりました。現在では、飲食業界をはじめとするさまざまな業界とのコラボレーション企画が進んでいるのだそう。「健康×新しい×楽しい」という共通点から、2021年3月に開催されたテニスとスカッシュの要素を持ったラケットスポーツであるパデルの大会「全日本パデル選手権」にも協賛しました。
「最後の挑戦として挑んだ醗酵ドリンクの素。これからも作り手の思いを乗せて羽ばたき、幅広い世代に新たな発酵の可能性を伝えてくれることを願っています」