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発酵を訪ねる
「佐原商家町ホテル NIPPONIA」で発酵フレンチを食す、極上の過ごし方
2022/11/18
発酵を訪ねる
2022/11/18
江戸情緒を色濃く残す水郷の町・千葉県香取市佐原。
この地で生まれ育ったという香田彬彦(こうだよしひこ)さんは、「佐原商家町ホテル NIPPONIA」総支配人として、歴史的建造物を活かした地域再生の先頭に立っています。
重要伝統的建造物群保存地区であり、観光客で賑わうこのエリアで、食で佐原を感じる発酵フレンチレストラン「LE UN(ルアン)」のこと、そして佐原という町への想いについてお話を伺いました。
「北総の小江戸」とも呼ばれる佐原。水運で発展した歴史をたどるように、小野川をゆっくりと舟が進んでいきます。川沿いには江戸から大正にかけての商家や土蔵が立ち並び、まるで利根川水運の河港として繁栄を極めた時代にタイムスリップしたかのような錯覚に陥るから不思議です。
忠敬橋に出て小野川を背にして大通りを直進すると、呉服店、古書店、金物店と、趣ある建物と昔ながらの売り物が目に入ります。さらに、「最上白味醂(さいじょうしろみりん)」で知られる馬場本店酒造の先を左折すると、酒蔵をリノベーションした佐原商家町ホテル NIPPONIAのフロント棟である「KAGURA棟」が見えてきます。
「KAGURA棟は、元々馬場本店酒造さんの酒蔵だったんですよ。KAGURA棟でチェックインを済ませたお客様には、市の花である花菖蒲の名を冠した4つの棟のいずれかにお泊りいただいています」
フロントはホテルの一角にあるのが一般的ですが、KAGURA棟に併設されているのはレストランのLE UNのみ。4棟の宿泊棟は、KAGURA棟から小野川までの町並みの中に点在しているのです。
「SEIGAKU棟」「YATA棟」「GOKO棟」「AOI棟」と名付けられた宿泊棟は、製綿業や質商を営んでいた商家の母屋や土蔵、昭和初期の料亭、米蔵などをリノベーションしたもの。佐原の町を走る公道が、まるでホテルの廊下の役割をなし、旅人は佐原の町の住民が家へ帰るように、それぞれの宿泊棟へと向かいます。
部屋は全部で13部屋。歴史建築の希少性、広さ、快適性によってグレードが分かれ、どれも特徴的な設えと趣を楽しめます。例えば、米俵をうず高く積み上げていた米蔵は、天井が高く解放感ある造り。家財が保管されていた蔵は、2階のベッドルームまで昔ながらの木造の階段を上ります。
「私たちのテーマは、『暮らすように泊まる』こと。佐原の町と、お泊りいただく建物の歴史を肌で感じて、ここでしか過ごせない時間を存分に楽しんでいただきたいです。建物は往時の趣を、できる限り残してリノベーションしているので、現代建築に比べると防音性、断熱性は劣りますが、それも古民家ならではの味わいとして体感してください」
「泊まる」とセットではもちろん、「食べる」単独でのリピーターも多いのが、KAGURA棟にあるレストランのLE UNです。
三方を海に囲まれ、肥沃な土地を持つ千葉県は、農産物も海産物も豊富にとれる食材の宝庫。LE UNでは、地元・佐原の野菜にこだわり、海産物は千葉県の漁港から仕入れて、地産地消を実践しています。その味に魅せられて、東京から2ヵ月に1度のペースで通うゲストもいるそうで、「料理そのものにファンがついている」と香田さんは話します。
日本の歴史を味わう旅にふさわしく、アクセントに使う発酵食品は酒粕や糀など、日本古来の発酵にこだわっているそうです。地元の生醤油でビーツを煮込んだり、千葉名産の落花生に赤味噌を足してソースにしたりといった使い方のほか、糀を甘酒や塩糀にし、調味料として使用することが多いとのこと。
千葉県産の和梨を使ったシャーベット状のスイーツであるグラニテには、米処でもある佐原のコシヒカリ、甘酒、ヨーグルト、酢橘を使うなど、さりげなく発酵が取り入れられています。
「おいしいが前提ですが、せっかくですのでこの場所、この建物の中でしか食べられない料理を味わってほしいという思いが根底にあります。素材の味を引き上げるために発酵・醸造を取り入れたフレンチにしており、メニューは季節ごとに変えています。
旬の食材の仕入れはもちろん、農家におすすめの食材を聞いてメニューを組み立てることもあります。みずから収穫にも参加し、やはり佐原の野菜を知った上で、メニューには取り入れたいですから」と、天羽英実(あまうひでみ)料理長は教えてくれました。
どの料理にも共通しているのは、「ここでしか食べられない」ということ。佐原にしかない建物の中で、佐原でしか味わえない料理を口にすることは、唯一無二の体験価値だといっていいでしょう。
香田支配人は、LE UNの楽しみ方をこう話します。
「都内と同じおいしさでは、佐原のNIPPONIAで食べる意味がなくなってしまいます。佐原に来たからこそ食べられる料理を、ぜひ楽しんでいただきたいですね。この蔵のオーナーである馬場本店酒造さんの最上白味醂を使ったカクテルも絶品です。アルコール抜きのものもあるので、混じり気のない澄んだ甘みをぜひ味わってみてください」
佐原商家町ホテル NIPPONIAができてから、地元の小中高生たちから「取材させてほしい」と依頼を受けることが増えたと香田さん。
昔から地元に当たり前にあった建物や、建物にまつわる歴史の価値に気づき、それを大切に守りながら町を育てるNIPPONIAの取り組みに興味を持ってくれることがとてもうれしいといいます。
「子供たちのうち誰か一人でも、いつかNIPPONIAで働こうと思ってくれたら幸せですね。まずは、佐原にまだまだ眠っている観光資源を活用し、たくさんの人に佐原を好きになってもらいたいです。将来的には、佐原から千葉、千葉から関東へ、『今よりもっと胸を張れる地元』を作るお手伝いができたらと思っています」