米と水、雪国の里・魚沼

魚沼の母の味を召し上がれ。
食文化を未来につなぐ「山彩すもんの会」

2023/01/05

新潟県魚沼市の守門(すもん)地区にある、須原スキー場のリフトを間近に望む高台の地域交流施設「かたっこ」。ここに、野山の幸や伝統料理のすばらしさを伝えるために地元のお母さんたちが作った、山のレストランがあります。階段を上がると、山の澄んだ空気の中にふんわりといいにおいが漂ってきます。

台所から聞こえてくるのは、包丁の音と料理の出来上がりを確認する声。大きなお膳にたくさんの皿をのせ、「山彩すもんの会」代表の酒井イホ(さかいいほ)さんが現れました。
あっという間に食卓に並んだ色とりどりの「ごっつぉ(=ご馳走)」をいただきながら、守門で受け継がれる郷土料理のことや、魚沼のお母さんたちを中心に活動する山彩すもんの会の活動について、お話を伺いました。

その日にそろった食材と
メンバーで、
できるものを考える

「ご飯、おかわりあるからね」

そう言って、酒井さんが運んできてくれたお膳には、温かな湯気を立てるご飯と味噌汁、色とりどりのおかずが並んでいます。山彩すもんの会の調理担当は、全部で10人程の地元の女性たち。この日は代表の酒井さん、調理師免許を持つ志田里子(しださとこ)さん、調理場を取り仕切る大塚道子(おおつかみちこ)さんの3人がおもてなしを担当してくれました。

山彩すもんの会、代表の酒井イホさん。

お料理の構成は、季節の魚かお肉の焼き物のほか、煮物、和え物、きんぴら、酢の物、香の物と、おおよそのメニューが決まっていて、手に入る食材でおいしく提供できる物をその日のメンバーで考えていくといいます。

この日、小さな椀に盛られていた春菊とエゴマの和え物も、季節の限定メニューでした。

「普通の白和えにしようかなあと思ったんだけど、ちょうどエゴマをご近所でもらったから。ちょっと珍しいでしょ」と酒井さん。春菊の風味とエゴマの食感が楽しめる一品は、台所での自然な会話の中から生まれていたのでした。

守門の伝統料理は、
魚沼産コシヒカリと相性抜群!

この日のお膳は、秋の味覚が堪能できる、ご飯や香の物、デザートを除いた充実の8品。料理について、3人に詳しくお話を伺いました。

<山彩すもんのお膳>
・ご飯(魚沼産コシヒカリ)
・豆腐となめこ、長ねぎの味噌汁
・鮎の塩焼き
れんこん、春菊、舞茸、さつまいもの天ぷら
・ゼンマイ、車麩、シイタケ、煮卵の煮物
・春菊とエゴマの白和え
・大根煮(南蛮麹を添えて)
・かきのもと(食用菊)と大根おろしの酢の物
・大根葉のきんぴら
・香の物
・柿

ゼンマイと車麩の煮物は、魚沼地域のお正月や冠婚葬祭の定番料理。本来は身欠きニシンが入るそうですが、こちらの煮物には入っていません。「身欠きニシンは、酒井さんが苦手だから入れないの(笑)」と大塚さん。「そうそう」と志田さんがあいづちを打ち、3人はそろって笑い声を上げます。

「こうして、皆で集まって料理をすることが昔はよくあったの。だけど今は、そんな機会も少なくなっちゃって…。ここでは、お客様から予約をいただいてから料理を作るんだけど、半分は自分たちのためにやっているようなものなのよ。集まって料理をして、お客様が帰った後にお茶を飲んでおしゃべりしてね。それが楽しいの」

天ぷらや煮物に使われているのは、メンバーの家で採れた物や、直売所で販売されている地場の野菜です。山菜は山を散歩がてら採り、味噌はメンバー手作りの物を使っています。この日は、3年物だという大塚さんの自家製味噌でした。

目に鮮やかな食用菊と大根おろしの酢の物は、菊をおひたしや酢の物にして食べる新潟ならではの食文化を感じる一品です。食用菊が出回る秋から初冬にかけて、よく家庭で作られる料理なのだそう。さっぱりとして癖がなく、上品な味わいです。

また、大根にかかっている南蛮麹は、香味野菜の「神楽南蛮」を米麹と食塩で発酵させた地元の保存食。雪深いこの地方ならではの保存性が高い発酵食品で、薬味にしたり、煮物などにかけたりつけたりと、さまざまな使い方をします。

私たちにとっていつもの料理、
当たり前のものを後世に
伝えていきたい

「山彩すもんの会で提供する料理は、すべて地元で昔から食べられてきたもので、何も特別なものはない」と酒井さんたちは言います。

守門の食材に昔ながらの工夫を凝らした郷土料理は、地元の人にとっては当たり前のもの。だからこそ、人が少なくなれば伝承もできず、やがて途絶えてしまう可能性もあります。
そこで、郷土料理の魅力を広め、後世に伝えていくために、10年以上前に立ち上がったのが山彩すもんの会です。当時はメンバーもそれぞれ仕事を持っていたため、合間を縫って集まり、東京にある新潟県のアンテナショップや、道の駅 新潟ふるさと村などに出向き、守門の料理を紹介する活動を行っていたそうです。
そして、これらの活動と並行しながら、「かたっこ」でも観光客や地元の人たちに料理を振舞うように。予約を受けて、ごっつぉを作るほか、5~10月までは月に2回、同様の料理をバイキングでも提供しています。

「バイキングっていうのをやってみたかったの」といたずらっぽく笑う3人は、創設当時からのメンバー。ずっといっしょに活動してきました。現在も、休みの日には町にできた新しいお店へ視察を兼ねて食事に行くなど、おいしい食事づくり、居心地の良い環境づくりへの意欲は衰えません。

一方で、最近は体力的に厳しいと感じる場面も増えたといいます。「かたっこ」があるのは、スキー場に程近い豪雪地帯。さらに、レストランは建物の3階にあります。基本、お母さんたちは車で通っていますが、持ってきた食材を厨房へ運ぶのにかなりの体力を消耗します。

「予約の人数が多いときなんかは、食材の量も多くなるんです。そうすると、やっぱり大変だよね」

メンバーが年齢を重ねていく中で、どのように会の活動を継続していくか――未来への懸念が大きくなる中、最近新しいメンバーが加わったそうで、「若手が入った」とうれしそうに3人は教えてくれました。

「若手といっても60代だけど、この中ではかなりの若手でしょ(笑)。すでに郷土料理を作ったことがない世代と聞いて驚いたけれど、どんどん吸収してくれるから教えていて楽しいですよ」

目まぐるしいスピードで変わっていく時代。しかし、変わらない地域の味を。山彩すもんの会のメンバーたちは、今日も華やかな割烹着と三角巾をして、「かたっこ」の厨房に立っています。

山のレストラン 山彩すもん

住所:
新潟県魚沼市須原768 須原公園内交流促進センター  「かたっこ」内「かたっこ」内
TEL:
090-2762-4941
営業時間:
完全予約制