発酵を訪ねる

“変わらないために、変わり続ける”。
「発酵するカフェ 麹中」の
健康定食に込められた独自の「発酵論」

2023/01/26

多くのビジネスマンや学生が往来する東京都文京区の本郷三丁目。駅付近の喧騒から一歩裏道に入れば、古くからの商店、旅館などが点在し、ゆったりとした風情に包まれています。
この地で2017年にオープンした「発酵するカフェ 麹中」は、人気のランチのほか、物販やオンラインショップなど、単なるカフェの枠にとらわれない、多様なコンテンツを持つ店舗。今回は、オーナー・崎谷浩一郎(さきたにこういちろう)さんから「麹中」の成り立ちや「発酵」にかける想いを伺いました。

発酵の概念に魅せられ、
カフェというカタチでアウトプット

「この界隈は、江戸時代後期から明治時代初期の頃、そこかしこに味噌屋の麹室があったそうですね」とは、崎谷さん。それが「発酵」をテーマにしたカフェを開いた理由かと聞いてみれば、「実は、そうでもないんですよ。むしろ店名から思いついて、そこから広げていったようなノリで」と、笑います。

「もともと設計事務所をやっていて、“人が集う場づくり”にすごく興味があったんです。その中で、暮らしに不可欠で、地域性も出る“食”という分野は“場づくり”と相性がいいだろうと考えました」。

そう語る崎谷さんが飲食店の開業を目指したのが2017年の初め頃。「建築の『工事中』にかけて『麴中』という店名を最初に考えました」。そこから「発酵」というテーマに着目した崎谷さんは、インプットを重ねていくにつれその魅力に引き込まれていきます。

「麹中」オーナーの崎谷浩一郎さん。

「腐敗と発酵って、紙一重。何も手をかけずにモノを放置しておいたら微生物や菌の働きによって腐り、体に良くない。けれど、腐らないような変化を続ければ、それは発酵と呼ばれ、人の体にも良い影響を与える。“変化し続けることで、保つ”。この発酵の概念って、人の営みの色んな場面に通ずる考え方で、すごく面白いな、と思ったんです」。

「発酵するカフェ 麹中」は、発酵専門店にあらず

こうして、201711月に「発酵するカフェ 麹中」をオープンした崎谷さん。「『麹中』は、発酵食材ばかりを並べた“発酵専門店”ではありません。食事や空間など、すべてにおいて発酵の概念を取り入れ、生活を豊かにしていく。それがコンセプトなんです」と、語ります。

「料理についても、日々、変化に意識を向けることを重要視しています。人の体を作っている細胞や細菌は、常に変化している。料理も主菜から副菜まで色々な食材をバランスよく、変化を意識しながら取り込んでいけば、心も体もアップデートされます。心身のバランスを保つために、変化し続ける。これって、“発酵”の考え方と同じだと思うんです」。

人気No.1のサラダプレート。

カフェの人気メニューは、日々、スタッフ同士で相談して考案。日替わりで主菜、副菜が変わるランチです。「発酵定食」や「日替わりセット」、「サラダプレート」、「選べる玄米サラダセット」など、見目麗しい品々が品書きに並びます。

食材は、千葉県我孫子市「自然野菜のら」や広島県三原市「おこめん工房」のグルテンフリーの米麺。新潟県佐渡市「重助」の減農薬コシヒカリの5分づき米。さらに、甘酒、糠漬け、調味料として使う塩麹や醤油麹は自家製です。「できる限り人が手塩にかけた食材や調味料を取り入れたい」という、崎谷さんの想いが込められています。

心も“発酵”させて豊かな人生を。
願いを込めたコンテンツの数々

「麹中」の食材は、ほぼ全て崎谷さんやカフェスタッフが生産者と直接やりとりをして仕入れています。

「設計をやっているからか、モノの完成までのプロセスを知ることがすごく好きなんです。関わっている人とか、その想いとか。完成品だけでは見えにくい、プロセスや手法にリスペクトを抱きますね」と、崎谷さんは語ります。

店内販売の品々。

店頭に目を向ければ、野菜を直売する「旅するモバイル屋台02963(おふくろさん)」が。また、植栽の脇に置かれた「旅するコンポストhacorin(はこりん)」で作られた野菜を店内メニューで使用することも。さらに「クラフトコーラキット」、「スパイスチャイキット」、「捨てない弁当箱」など、食材や調理キット、グッズなどを店内販売やオンラインショップ「ツギハギ商店 麹中」で販売するなど、店舗で、自宅で、「麹中」のメニューや食材、その裏に隠れたストーリーを味わえるコンテンツが目白押しです。

「旅するモバイル屋台02963」は販売もしている。

「健康って、体だけじゃなくて心も連動していると思うんです。例えば食事をするとき、おいしいことはもちろん、“楽しい”というのも重要で。そのひとつの仕掛けとして、口にした食材の裏にあるストーリーまで知ってもらう。そこまで味わって、楽しんで、豊かな気持ちになれば、心も元気になると思うんです」。

ただ食事をするだけでなく、心の変化も意識する。これもまた、崎谷さんの考える“発酵論”。

「“変わらないために、変わり続ける”。先人たちの知恵が詰まった発酵の技術って、人生を豊かに過ごすためのヒントだと思うんです。時代は目まぐるしく変わり、技術は日々進歩している一方で、古くからの伝統やモノづくりと現代人の生活は分断されつつある。連続する時間の中で、精神と物質の分断が加速してしまうと、どんどん心がすり減っていってしまう。良いものは継承しつつ、変化を恐れずポジティブに受け入れることが、人の営みで大事なことだと思うんです。だから、今後も『麴中』で“発酵”を続けて、人が豊かに生きていける多様な場づくりを続けていきたいですね」。

発酵するカフェ 麹中

住所:
東京都文京区本郷2-35-10本郷瀬川ビル1F
営業時間:
11:00~16:00(ランチメニューは11:30~14:00)
  *17:30~20:30(L.O.20:00)*2023年1月現在、一時休止中
11:00~16:00(ランチメニューは11:30~14:00)
*17:30~20:30(L.O.20:00)*2023年1月現在、一時休止中
定休日:
月、土、日、祝(ディナーは木、金、土、日、祝)
URL:
https://kusukichi.jp/koujichu/