発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」

Vol.1 食卓に世界を呼び込む!
料理研究家・ヤミーさんの偏愛発酵調味料

2023/02/16

食にかかわるプロに、お気に入りの「推したい発酵食」を教えてもらう新コーナーが始動!
第1回は、世界各地のおいしい味を手軽な3ステップで紹介する、料理研究家のヤミー(やみー)さんが登場します。ヤミーさんの毎日に欠かせない調味料を並べてみたら、アレもコレも発酵していた!? 

発酵調味料についてのおしゃべりは、いつしかヤミーさんの料理研究家としての原点にもつながって……。簡単で抜群においしい、推し美食レシピもご紹介します。

アジア料理のおいしさは
発酵調味料が支えている

醤油をナンプラーに代えるだけでも、アジア飯な雰囲気に!
「我が家では、卵焼きや雑炊、お吸い物なんかにもよくナンプラーを使います」

ヤミーさんのキッチンには、世界各地の調味料がぎっしり!

「キッチンにしまいきれなくて、実は部屋のあちこちに調味料が進出。メーカーごとに味の違いを比べたりするのも大好きだから、たとえばバルサミコ酢だけでも4〜5本あります(笑)」

そんな調味料フリークのヤミーさんのコレクションのなかでも、かなりのボリュームを占めるのがアジア圏の発酵調味料だと言います。

「ヨーロッパの料理は塩で味を決めるものが多いのに対して、アジアの料理には発酵調味料が多く使われます。醤油にみそ、酢もみんな発酵調味料ですよね。日本では大豆から作る醤油、東南アジアでは魚を塩漬けにして発酵させた魚醤、小えびが原料のえびみそも種類がたくさん! 発酵のうまみを多用するのは、アジア料理に共通の特徴だなと感じます。だからアジア料理を作っていると、どこの国の料理もけっこうナンプラーで代用できちゃうな、とも思うんです」

たとえば、タイのナンプラー、ベトナムのニョクマム、日本のしょっつる……地域によって呼び名や使われる魚介、発酵期間や塩分濃度は異なるものの、「魚介を発酵させて作る醤油」というベースは同じです。

「それぞれに個性があるけれど、重要な要素を抽出してくるとイコールで結ばれる。それを発見したとき、提案したいレシピができてくるんですよね。『あ、これは日本で手に入るアレで代用できるぞ!』って。だから旅先での食事でも、私はやっぱり調味料に目が向いてしまいます」

世界は発酵調味料で
つながっている

調味料に着目して各地の料理を味わうと、意外な発見もあるそう。

「魚醤ってアジアだけのものかと思っていたら、イタリアにもコラトゥーラという魚醤があることを知って。その昔、ローマ時代には、ガルムという魚醤が使われていたそうです。日本独自のものというイメージのある納豆だって、タイの北部でも作るし、インドネシアには納豆を固めたようなテンペがある。アフリカでもアフリカ納豆と呼ばれる発酵食品があるんですよ。セネガルでは「ネテトウ」と言って、みそや出汁のようなうまみのある調味料として使われています。

こんなふうに調味料を軸に世界の料理を見てみると、古代から人が行き来して、文化の混ざり合いがあったんだろうなって思いを馳せたくなったりして。世界はつながっているんだな、と感じます」

ポルトガルのアレンテージョ地方の名物料理、豚肉とあさりのアレンテージョ。

「ポルトガルでは、パプリカの塩漬けを発酵させてペースト状にしたマッサという調味料があります。唐辛子を発酵させた調味料は日本や中国にもありますが、パプリカを発酵させるのはこの地域ならではの珍しいもの。私はこのマッサで豚肉をマリネして、あさりと一緒にいためる郷土料理、アレンテージョが大好き。豚肉、あさり、マッサのうまみの三重奏がすごいんです」

ヤミーさんの偏愛!
発酵調味料3選

ナンプラーは「メガシェフ」のものを愛用。

世界で愛されるさまざまな発酵調味料から、あえて3つだけ選ぶとしたら? ヤミーさんが推すのは、ナンプラー、バルサミコ酢、そしてギーというラインアップ。選出の理由を伺いましょう。

「ナンプラーは、なんといっても使い勝手がいい。手に入りやすいし、価格も手頃。いつもの料理も、醤油をナンプラーに代えるだけで雰囲気が変わりますよ。日本の醤油よりも塩分濃度が高いので、置き換えるときは醤油の1/2量くらいにするとちょうどいいです。火を通すと香りがマイルドになって、うまみが引き立ちます。スープに使えば、出汁をとらなくても十分においしい!」

バルサミコ酢は、メーカーによって味も香り、そして価格も大きく異なります。100mlで1万円オーバーのものも。

「バルサミコ酢は、イタリアのエミリア・ロマーニャ州モデナ市の特産品で、濃縮したぶどう果汁を発酵させた濃いカラメル色が特徴です。伝統的な作り方のものは、12年以上の熟成期間が必須! 今では、ほかの地域、国でも作られていますが、この伝統製法の「トラディッツィオナーレ」は、エミリア・ロマーニャ州のモデナまたはレッジョ・エミリアで作られたものだけに認められているんです。その昔は、この地域を治めていたエステ家のみしか作り方を知らなかったという、幻の調味料だったんですよ。

バルサミコ酢は、ほかの酢よりも甘みとうまみが強く、酸味がマイルド。サラダにそのままかけるだけでもおいしいですよ。野菜に直接、バルサミコ酢、オリーブ油を回しかけて、塩、こしょうをぱらりで完成! チーズやフルーツにかけてもいいし、水や炭酸水で割って飲むのもおすすめです」

インドを中心に作られるバターオイル。生乳を発酵させ、精製して作られる。無発酵タイプも。

「美容と健康にいいとセレブの間でブームになったバターコーヒーは、ギーをコーヒーに入れたものです。私は、ギーのトーストが大好きで、毎朝のように食べてる(笑)。加熱したときになんともいえない発酵乳のいい香りが広がるから、塗ってから焼くのがポイントです。ギーを使ったクッキーやビスケットも最高。バターよりも少ない分量で十分にミルキーでいい香り、サクサクに焼き上がります」

ナンプラーのうまみが決め手!
カイジャオごはん

ジュワッとした食感のタイのオムレツ「カイジャオ」をのっけた、タイ風オムライス。

ヤミーさんが愛するナンプラーを使った、シンプルで飽きのこないタイ料理を1つご紹介。忙しい日のランチにもぴったり、5分でチャチャッと出来上がります。

  • [材料](1人分)
    2個
    ナンプラー小さじ1/2
    サラダ油大さじ3
    ごはん1人分
    シラチャーチリソース(※)
    トマトケチャップ適宜
  • [作り方]
    1.ボウルに卵を割り入れてよくときほぐし、ナンプラーを加えて混ぜる。
    2.フライパンにサラダ油を入れて中火にかけ、十分に熱くなったところで(1)を流し入れる。
    3.菜箸で2〜3回大きく混ぜ、たまにゆすりながら焼き、ほぼ火が通ってきたら裏返す。両面に焼き色がついたら、皿にごはんととも盛り、好みでシラチャーチリソースやトマトケチャップをかける。

    ※タイ生まれのにんにくが効いたチリソース。

「多めの油でジュワーっと揚げ焼きにするのがポイントです。ナンプラーのうまみで、卵だけなのに満足感のある複雑なおいしさ。ごはんがどんどん進みます。あと1品ほしいなというときにも、卵さえあれば簡単にできちゃうカイジャオはえらい! タイでは、ひき肉や野菜を入れたアレンジもよく作られます」

次回は、料理研究家のほりえさわこさんにお話を伺います。
「廃棄される規格外野菜をおいしく加工して販売する料理ユニット『農家のだいどこ』プロジェクトでも一緒に活動するさわこさん。どんな発酵美食を推してくれるのか、楽しみです」

料理研究家

ヤミー(やみー)さん

料理研究家

ヤミー(やみー)さん

世界の料理を日本で作りやすいレシピにして発信する、料理研究家。テレビや雑誌、企業のレシピ開発で活躍するるほか、日本一のカルディマニアとしても知られる。『ヤミーさんのおうちで世界一周レシピ』『ワンボウルクッキング』(ともに主婦の友社)など著書多数。主宰する少人数制料理教室『Yummy’s Cooking Studio』(https://www.manabi-abc.com/p/15/)はオンライン受講も可能。
https://ameblo.jp/3stepcooking/