日本の朝ごはん
たまり漬の老舗が営む
「汁飯香の店 隠居うわさわ」の豊かな朝食
2023/04/20
日本の朝ごはん
2023/04/20
「汁飯香の店 隠居うわさわ」は、日光名物として知られる「たまり漬」の創始者、上澤(うわさわ)梅太郎の名前を冠する老舗、上澤梅太郎商店が手がける朝ごはん専門店として2020年にオープン。広々とした日本庭園の一角に建つのは、江戸生まれの職人たちが150年前に建てた隠居所。歴史のあるこの場所でいただけるのは、炊き立てのごはんと味噌汁、そして自家製のお漬物。上澤家のなんでもない日の朝ごはんを再現したというメニューは、かつての日本人が当たり前としていた、とても豊かな朝食でした。
日光街道沿にある上澤梅太郎商店を出て、右手に延びる白壁に沿って少し歩くと、ひらひらと暖簾がはためく瓦屋根の門が見えてきます。「汁飯香の店 隠居うわさわ」の入り口です。大きな暖簾をくぐると目の前に広がるのは、四季折々に姿を変える日本庭園。
「まもなく桜の季節ですね。秋には紅葉、冬には雪化粧と、一年を通して楽しむことができます」と、次期当主の上澤佑基(うわさわゆうき)さんが案内してくれました。
「おじゃまします」と靴を脱いで入る様は、飲食店というよりも、まるでおばあちゃんの家にでも来たかのよう。しばらく使われていなかったという建物ですが、店をオープンするにあたり、リフォームが必要だったのは厨房くらいだそう。150年の歴史をほぼそのまま生かした空間は、古くても隅々まで手入れが行き届き、代々大切にされてきたことが手に取るように分かります。
「ここ一帯は日光街道の宿場町として江戸時代から栄えてきた土地なんです。昔は、近隣にも味噌や醤油蔵などがあり、同じように庭や隠居所を持つ家もあったのですが、現在残っているのはうちだけになってしまいましたね」
縁側の外には日本庭園が広がり、時間がゆっくりと流れます。まるで桃源郷のようなこの場所でいただけるのが、おかみがつくる朝ごはんです。
「特別贅沢なものはありません。いつも我が家で食べているものばかり。土鍋で炊いたごはんと日光の大豆で仕込んだ日光味噌のお味噌汁、そして地元の野菜でつくったたまり漬けが基本です」
「汁飯香の店 隠居うわさわ」の朝ごはんの主役は、加熱することなく仕込むことで食感を大切にした「たまり漬」。そして、注文をいただいてから炊き上げる土鍋のごはんもこだわりです。
「棚田で作られている地元のお米を土鍋で炊いています。ちょっとお時間はいただきますが、一番おいしい炊き立てをお出ししています。蓋を開けた瞬間は、みなさん笑顔になりますよ」
漬物の魅力や日本食の魅力を伝える場所として、朝ごはん専門の『汁飯香の店 隠居うわさわ』はオープンしました。もともとのきっかけは、会社全体のブランドをリニューアルしていくなかで生まれた『うわさわの朝食』というコンセプト。
「漬物、味噌、醤油メーカーとして、商品が一番輝くシーンっていつだろうと考えたら、朝飯だろうって」
しかし、はじめは朝ごはん専門店をオープンさせることに、なかなか踏ん切りがつかなかったそうです。
「具体的な壁がたくさんありました。スタッフはどうしよう、メニューはどうしよう、どこに店をオープンしたらいいかなど。飲食店は未経験でしたから考えることは山ほどありました。そうしているうちに、どんどん時間だけが経っていったんです」
そんななか、2017年から2018年にかけて、周辺にたくさんあった漬物屋がバタバタと潰れていくのを目の当たりにした上澤さん。一方で日光鬼怒川の観光客は増加とともに、周辺には民泊も増えてきたことをきっかけに、多くの人に漬物の魅力を広めていかなくてはいけないと、挑戦することを決意したといいます。
「メニューは特別贅沢なものではなく、我が家の食卓に並んでいたような普通の朝ごはんです。本来の日本食を食べる機会って、ほとんどなくなっているんですよね。観光地ですから海外の方にも、寿司や天ぷらだけでなく、日本人が古くから食べてきた普通のものを知ってもらいたい気持ちもありますし、日本の若い世代には、脈々と続いてきた伝統を受け継いでいかなくてはいけないと思っています」