発酵を訪ねる
Z世代にもぬかの魅力を発信!
健康に楽しむネオ居酒屋「ebisu NUCA factory.」
2023/07/27
発酵を訪ねる
2023/07/27
恵比寿駅東口方面を出て、個性的な個人店が軒を連ねる一角に、「ebisu NUCA factory.」はあります。恵比寿で「ぬか」が堪能できると聞き訪ねてみると、ずらりと並ぶぬか床の棚がお出迎え。いやがおうにも期待が高まります。なぜ「ぬか」をテーマにしたのか、店長の西島茂樹(にしじましげき)さんにお話を伺いました。
明治時代よりビールを製造販売してきた恵比寿。工場で醸造されたビールを運搬する馬車が往来したことから「ビール坂」と名付けられた坂道があります。その麓に2020年12月、「ebisu NUKA factory.」がオープンしました。打ちっ放しのコンクリートを基調にしたインダストリアルな店内は、まるでカフェのような雰囲気。この場所で「ぬか」をテーマにしたのは「恵比寿に名物をつくりたかった」というオーナーの想いがあったそうです。
「博多だったら明太子、仙台だったら牛タン、そんな風に地域に名物ってありますよね。ところが、恵比寿ってそれがないんです。とにかく人は集まるけれど、名物がない場所。オーナーはもともと恵比寿で飲食店を経営していたのですが、何かつくれないかなと考えていたころにブームだった腸活がヒントになったそうです。『ぬか』に着目したのは、お店でも簡単に作れること、そして周りの飲食店のみなさんにも広めてもらえるような、取り入れやすさです」
そう話す店長の西島さんは、以前は「恵比寿横丁」という人気の飲み屋街で自分のお店を経営していたという経歴の持ち主。もともと知り合いだったオーナーの挑戦に興味を抱き、当初は経営側のバックヤードで参画。前店長の独立のタイミングで、数ヶ月まえより店頭に立つようになったそう。そこでZ世代からバブル世代の全ての世代から愛されるお店を目指して2023年5月に「ネオ居酒屋」を掲げてリニューアルしました。
「実は店がオープンする前には、オーナーが持っているカラオケスナックのキッチンを間借りして、祖母から受け継いだ西島家代々のぬか床を使った自家製ぬか漬け居酒屋を開いていたこともあります。2020年にこの店がオープンしてからは経営サイドに移りましたが、今回僕が店長を引き継ぐ際に考えたのは、もっと気軽にいろいろな世代の人に来てもらえる店にすることでした。特にぬか漬けを知らないようなZ世代にも腸活や日本の文化を広められたらと、メニューを考えています」
「ぬか漬けと聞くと、野菜の漬物を想像されるかと思いますが、実は魚も肉も漬けられるんです」
そう西島さんが話すように、「ebisu NUCA factory.」のメニューを見ると、「ししゃも」「へしこ」「ハラミ」「モモ」と、確かにあらゆる食材がぬか漬けにされています。
「漬けるだけでなくぬかを調味料として使用するなどさまざまですが、メニューは全てぬかを使ったものです。そんななかでもやはりメインはぬか漬け。ぬか床は、野菜用、魚用、肉用と使い分けていて、味付けもそれぞれ異なるのですが、漬け時間はどれも24時間に設定。昔ながらの古漬けとは違うので、ぬか漬け独特の風味が苦手な方でも美味しくいただけますし、アルバイトのスタッフでも簡単に管理ができるのもポイント。ぬか漬けって、誰もが手軽にできる調理方法なんですよ。ぜんぜん難しくないんです」
一般的なぬか床は1日1回混ぜるなどの管理が必要で、漬け終わるまでは10日〜20日はかかるイメージでしたが、24時間OKとは驚きです。ただ、短時間で美味しく漬けるためには、ひと工夫が必要だといいます。
「野菜なら、塩揉みや下茹する下準備をすることで、漬かりやすくなります。お肉はもうひと手間。ウチではグラスフェッドビーフのサーロインを使っているのですが、いわゆるサシがたくさん入った国産牛と違って、身が引き締まっていている赤身が特徴です。柔らかさを出すのに、まずはぬかに漬けて周りを発酵させることで柔らかくします。さらに、53度で4時間かけてじっくりと低温調理することでさらに柔らかな仕上がりに。脂身たっぷりの肉に比べるとパンチは少ないかもしれませんが、ヘルシーな食を求める方も多いので、罪悪感少なく楽しんでいただけると思います」
ぬか漬けするだけでも食材の美味しさがアップしますが、西島さんはより美味しくなる調理法を研究するとともに、歴史や効能、発酵食品に至るまで、幅広く学んだそうです。さらに、店で食べていただくだけではなく、もっと広く「ぬか」の魅力を知ってほしいと始めたというブログ「ぬかライフ」(https://nuka-life.com/)では、惜しげもなくレシピも大公開! りんごや柿などの思いがけない食材の漬け方のコツから、ジップロックで作るぬか漬け、かつお節を入れて旨みをアップさせるぬか床作りまで読み応えもたっぷりです。
「店頭に立つようになって忙しくなり、なかなか記事をアップできてないのですが、もしよかったら読んでみてください!」
「ebisu NUCA factory.」が単なるぬか漬け居酒屋に留まらないのは、ガラス張りのぬか庫室内に自分のぬか床をキープすることができる「MYぬか床管理サービス」です。近隣の飲食店や個人向けに提供しているサービスで、当初の目標であった恵比寿をぬかの発信地にするための普及活動にも一役買っています。
「毎週月曜日に公式ラインで、今週漬ける食材を発信しています。チェックしていただいて、ぬか漬けを引き取りたい前日の朝9時までに連絡いただくというシステムになっています。店内で食べることもできるので、予約日に合わせてご注文もいただけます。仕込みはお店に全て任せていただいてもいいですし、一緒に漬ける儀式をしていただくことも可能ですよ」
「ぬか漬けは、本当に簡単で失敗もしにくい」と教えてくれた西島さんに、家で挑戦するコツをお聞きしました。
「最初の食材としておすすめなのは、クセがなくてぬか床の味わいも楽しめる大根ですね。皮があるきゅうりよりも漬かりやすいんです。大根は皮を剥いて食べやすいサイズに切り、塩揉みしてから漬けてください。1日でおいしいぬか漬けが完成します。そしてもうひとつおすすめの食材はお魚。実はとても簡単で、サーモンが人気ですね。スーパーでお刺身用の切り身を買ってきて、そのまま漬けるだけ。仕上げに焼いてもいいですが、そのままお刺身のようにして食べていただけます。注意点は、野菜とお魚のぬか床は分けること。もし、ぬか床がひとつしかなければ、小さい入れ物に必要な分だけ分けてください。全部を漬け込む必要はなくて、半身にぬか床を塗って置くだけでも発酵を楽しむことができますよ」
3年前には、ぬか漬けにこんなに詳しくなるとは思わなかったと笑う西島さん。
「勉強していくうちに、途中で急に面白くなったんですよね。ぬか漬け自体は祖母が漬けていたこともあって身近ではありましたが、特別に好きな存在でもなく、どちらかというと苦手でしたから。でも苦手だったからこそ、どうしたら美味しく食べれるかなと研究しているうちに、楽しくなっちゃった(笑)」
そんな魅力たっぷりのぬか漬けを、もっと気軽に楽しんでほしいという思いで最近始めたのが「せんチョットべろ」セット。1300円で焼酎とその日のおつまみがセットになっているお得なメニューは、ふらりと1人で訪れて、お酒を楽しみながら腸活もできちゃいます。
「お客さまは、普段から健康を意識されている女性の方も多いのですが、いつも頑張っているなかで、お酒を楽しみながら罪悪感が少なくチートデーができる!と喜んでいただいています。会社帰りにちょっと立ち寄ってもらったり、予約している店の前に時間があれば食前酒として気軽に楽しんでもらっても嬉しいですね」