発酵を訪ねる

【後編】江戸の昔に思いを馳せていただく、
「箱根甘酒茶屋」滋味深き甘酒。

2023/08/31

【後編】江戸の昔に思いを馳せていただく、「箱根甘酒茶屋」の滋味深き甘酒。
【後編】江戸の昔に思いを馳せていただく、「箱根甘酒茶屋」の滋味深き甘酒。

箱根旧街道で、400年もの間、多くの旅人たちのために門戸を開き続ける唯一の茶屋「箱根甘酒茶屋」。(前編はこちら。)代々受け継がれてきた甘酒を代表する、旅人たちに愛されてきた品々について、13代当主の山本聡さんにお話を伺いました。

変わらぬ製法で、
変わらぬ想いを込めた一杯。

「箱根甘酒茶屋」の甘酒は、ほんのり感じる優しい塩味が特徴的です。付け合わせは、地元の山菜を使ったふきのとうの醤油漬け。どちらも昔ながらの製法で提供されています。

13代当主の山本聡さん。

「うちの甘酒の隠し味は、“坂”なんです。本当に疲れたときに、体が欲する味なんです。ようやくひと休みできて、甘酒を口の中に含み、ゆっくりと咀嚼して、さあ、これから栄養を体の隅々まで届けますよ!…と、そういう気持ちで飲むと、本当に染み渡る飲み物だと思うんですよね。だから、まったく同じ甘酒でも、冷房の効いたマンションの一室で飲むのとは、ぜんぜん違うものになるんです」

甘酒は、米と米麹でつくる創業以来の味わい。

砂糖は使用せずに、お米と麹だけで生まれる優しい甘味。濃厚でありながらきめ細やかなさらりとした飲み口で、
疲れた体に染み渡る滋味深さがある。

「箱根の八里超え」と称され、その過酷さで知られる箱根旧街道。江戸時代には大名行列が往来し、関所越えの前後に旅の疲れを癒すためにいくつもの茶屋があり、甘酒が振る舞われていたというのも納得です。

酸味と甘味が絶妙なしそジュースも、疲れた体を癒す一杯。柔らかなつきたての食感でぺろりと食べられる力餅は
うぐいすのほかにいそべも人気。

「箱根甘酒茶屋」は日本遺産にも認定された文化財のひとつにもなっている。江戸時代には箱根八里間で
13軒もの茶屋があったと記されている。

ここでできることを、
これからも。

山本さんが、13代目を継いだのは2022年。小田原で生まれ育った山本さんですが、子どものころから茶屋は遊び場だったといいます。祖母や先代である父の姿を見ながら成長した山本さんは、長く受け継がれてきた家業を自分が継いでもいいのかと悩んだ時期もあったそう。

「若者ならではの反発心ですかね(笑)。いつかは継ぐだろうという思いは心のどこかにはあっても、先代が元気なうちは好きなことをやらせてもらおうと。学校を卒業してから家を出て、ご縁のあった京都の料亭に修行に行きました。そこは裏千家の茶道にゆかりのある料亭で、食材をシンプルに料理すること、季節感を大切にすることなど、本当にたくさんのことを学びました。でも、13年経って戻ってきたときに、学んだ技術をこの場所で披露するのはちょっと違うと思ったんです。ここは私の店であって、私の店ではない。お客さまの店なんですよね。バスが運休してしまう冬も、嵐の日でも空けているのは、私の都合では閉められないと思う気持ちです。店を受け継いだということは、お客さまそれぞれにある思いごと守っていくことだと思うんです」

日本家屋独特の薄暗い室内から庭を眺める。昔の人も同じような風景を見ていたのだろうか。

江戸時代に最盛期を迎え多くの人が往来した東海道ですが、明治になり国道1号が開通。人の流れが減ったうえに戦争も重なり、甘酒を提供していた茶屋は次々に店じまいを余儀なくされました。そんななかで唯一残った「箱根甘酒茶屋」。

「茶屋だけでは生活ができなかったという祖父母の時代を乗り越え、おかげさまで近年はたくさんの方が足を運んでくださっています。昔も今も変わることなく、365日毎朝7時に店を開けています」

箱根越えのもう一踏ん張りの英気を養うための、旅人たちの寄りどころだった「箱根甘酒茶屋」は、400年を超えて今なお、人々の喉を潤すだけではなく、店主の温かな気持ちが心も癒してくれる場所でした。

箱根 甘酒茶屋

箱根 甘酒茶屋

住所:
神奈川県足柄下郡箱根町畑宿 二子山 395-28
TEL:
0460-83-6418
営業日:
年中無休(7:00〜17:30 L.O.17:00)
URL:
https://www.amasake-chaya.jp/

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