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発酵を訪ねる
“食”を超えた体験を。
緑の庭に抱かれた薪火料理の店「Maruta」。
2023/10/26
発酵を訪ねる
2023/10/26
東京・調布で薪火料理を提供する一軒家レストラン「Maruta(マルタ)」。庭で収穫するハーブや果実、近隣の野山で収穫してきた野草など、地域に根付いた食材を使った一皿に欠かせないもののひとつに、自家製の発酵食がありました。
「Maruta」は、京王線調布駅とJR中央線三鷹駅のほぼ中間、都内屈指の植物公園、深大寺植物公園のほど近くにある“自然と共に紡ぐ暮らし”をテーマに生まれた「深大寺ガーデン」の一角にあります。
「深大寺ガーデン」は東京で100年以上の歴史を持つ造園業を前身とする、緑化事業のパイオニア「グリーン・ワイズ」が手がけるプロジェクトで、レストランと2棟の居住棟が中庭を共有するかたちで構成されています。
そんな自然に囲まれた「Maruta」で提供されるのは、地域の生産者や、裏庭などで収穫したオーガニックな食材で構成される、完全予約制のコース料理です。コンセプトは “ローカルファースト”。
料理を手がける石松一樹シェフは、2018年にオープンした「Maruta」の立ち上げから参画。都内フランス料理店で研鑽を積んだのち、オーガニック先進国でもあるオーストラリアへ渡り、食の都として世界から注目を集めるメルボルンの郊外で「Farm to Table(農場から食卓へ)」を実践するレストランで経験を積んだキャリアの持ち主です。
「ルールや伝統できっちりしているフランス料理の世界を出て、メルボルンのレストランに行ったことで、自分の世界がぐんと広がりました。オーストラリアって、いわゆる伝統的な料理がないんですよね。その分、料理に対する姿勢が自由なんです。
Marutaでも、裏庭の植物を料理に使ったりもしますが、メルボルンのレストランはもっとずっと広い農場に併設していて、自分たちで野菜を育てていたんです。そこで学んだことのひとつに、野菜を育てることの難しさがありました。綺麗な形に揃えるなんて、至難の難。Marutaにも天気の影響などで一般の市場に出荷できなかった野菜を、近隣農家の方が持ってきてくださったりすることもありますが、それまでだったら捨てられていたような野菜や皮などを、活用できないかな?と考えるようになりました」
丹精込めて作られた野菜を活かすための方法。保存食作りはひとつの手段だったといいます。「Maruta」の入口にある大きなセラーのなかには、ずらりと保存食の瓶が並んでいます。石松シェフは、食材を無駄なくおいしくいただく方法を、スタッフの皆さんと一緒に考えながら、実験的に挑戦してきたそうです。
「味噌や醤油、漬物など、日本は発酵食がたくさんありますが、身近すぎたゆえに、特別に興味を抱くことはありませんでした。その意識が変わったのが、料理に対して固定観念のないメルボルンでの経験。たとえば、味噌ひとつとっても、すごく熱心に研究するんですよね。“日本では味噌を大豆で作るらしいけれど、じゃがいもで作ったらどうなるか?”などです。そういう面白がって挑戦するチャレンジ精神みたいな感覚にとても影響を受けました。とりあえずやってみよう、やってみたらどうなるかな?と。もちろん、この料理にこういう味が欲しいからと目指して仕込む場合もありますが、実験的な部分も大きいですね」
今回、私たちのために石松シェフが作ってくれる一皿は、発酵じゃがいものソースでいただく薪火の焼きなすです。
「じゃがいもは乳酸発酵させることで、単体にはなかった香りや味わいが生まれます。漬物に近い感覚ですね。今回はソースに使いますが、炒めても美味しいですよ。チーズのような味わいになることを発見したときは驚きました」
焼きたての香ばしい香りをまとったジューシーな焼きなすに合わせていただくのは、まるでグリーンカレーのような味わいのソース。チーズのようなもっちりと濃厚なじゃがいものピューレを、柚子胡椒のピリリとした風味とココナッツを感じさせるカラスザンショウが味を引き締めて、牛肉の生ハムが満足感をプラス。新しい発見がたくさんのひと皿でした。
「保存食や発酵食作りに関しては、スタッフみんながアイデアを出しながら挑戦しているんです。僕より詳しかったりも(笑)」と石松シェフ。
発酵に対して知識のあるスタッフの三浦真央子さんもそのひとり。
「もともと別の業界でPRの仕事をしていたのですが、大学時代に飲食表象論を学ぶなかで、フランスと日本のワインについて研究したことがあって。そのときから、発酵って面白いなと思っていたのですが、自然と共生しながらこれまでになかったような取り組みをしているMaruraに惹かれて入社し、麹作りを始めました。キッチンに勝手に保温機を持ち込んでいます(笑)。米麹だけでなく、豆麹や麦麹などいろいろ試作しているところです」
「食べることだけにとどまらない価値を生み出したい」と石松シェフがいうように、「Maruta」はレストランの枠を超え、訪れる人や近隣で暮らす人、生産者や働く人、自然や環境、動植物までもつなげ、新しい循環が生まれる場所でした。