発酵に恋して。
子育てママが手がけるワンデーカフェ
米粉&発酵ランチが人気の「cafe more hapi」
2023/12/14
発酵に恋して。
2023/12/14
東京・小平市の緑豊かな緑道沿いで、週1日オープンしている米粉と発酵をテーマにしたワンデーカフェ「cafe more hapi(カフェ モア ハピ)」。手がけているのは、米粉発酵レシピ研究家の山口さきさんです。食育が注目されているなかで米粉や発酵食品に出会ったきっかけも、子育てを通して食材そのものに注目したこと。子育てママの山口さんが料理教室からスタートし、カフェのオープンに込めた想いとは。
都心から30分ほどの場所に位置する緑豊かなのどかな街、東京都小平市。駅の近くから伸びる緑道は「小平グリーンロード」と呼ばれる散歩道です。その道沿いに「シェアキッチンさくら」があります。もともとは地元の工務店ウッドシップ株式会社の展示場。平日のみ、“出店の夢を支援する場”として、地域の女性に貸し出されているスペースです。ここで、2023年9月から毎週水曜日にオープンしているお店が、山口さんが手がける米粉&発酵ランチの「cafe more hapi(カフェ モア ハピ)」。
その時期、その時々で入手できる季節の食材から作られるメニューはたったひとつ。米粉&発酵ランチプレートです。
「子どもを学校に送り出してから、朝9時より仕込みが始まります。その日に使うすべての材料を自転車に乗せてカフェに来るので、大荷物なんですよ!前も後ろもパンパンです(笑)。カフェをオープンするときに大切にしたのは、地域のみなさんに喜んでいただけるようなメニューにすることでした。料理教室では、ママや子どもたちがメインなのですが、散歩道沿いのお店では、ご年配の方から若い男性まで幅広い方にお越しいただきたかったので、一番に考えたのは物足りなくならないように、ということでした。そして、野菜はできるだけ地元の美味しい野菜を使うこと。こだわっているのは、味付けのポイントになる発酵調味料を使い分けることです。みりんとお酒を合わせて発酵したもの、醤油麹、塩麹、甘酒、みりん粕など、いろいろな調味料があることを知ってもらいたいという思いもあって、ひとつのプレートのなかに、いろいろな発酵調味料を使うことを意識しています」
それでは、今日のメニューをプレートの中央下から反時計回りにぐるりと、山口さんにご紹介いただきましょう!
「レモンを乗せたお肉は『塩麹タンドリーチキン』です。塩麹に30分ほど漬けるだけでも美味しく柔らかく仕上がるのが発酵のちからですね。醤油とヨーグルトも使用して、とってもジューシー。我が家でも子どもたちが大好きなおかずのひとつです。器に入っているスープは『じゃがいもと玉ねぎのポタージュ』で、隠し素材はお豆腐です。生クリームを使うことなく、豆乳よりもクリーミーな味わいに仕上がるうえ、食べ応えもアップ! 味付けには、塩麹と醤油麹を使っています。ライスの上に乗っているのは『にんじんのみりん炒め』と『かぶとラディッシュの醤油麹炒め』。にんじんの味付けは、みりんとお酒を合わせた発酵調味料なのですが、さっと炒めるだけで味わい深く、風味も豊かに仕上がります。かぶとラディッシュは薄切りにして、ごま油とニンニクのすりおろし、醤油麹と甘酒で味をつけて炒めてしそを加えて和えました。甘酒は砂糖よりもまろやかな甘味になるんです。どちらも本当にさっと炒めて和えるだけ。体にいいのはもちろんですが、手軽さが発酵調味料の魅力ですね。フレッシュサラダのキャベツは北海道産、ほかはすべて地元のファーマーズマーケットで仕入れた野菜を使っています。『れんこんとさつまいものみりん粕和え』も子どもたちに人気のメニューのひとつ。蒸したあとに、バターと醤油麹とみりん粕で和えています。みりん粕は酒粕よりも癖がなく甘味があって、お菓子にも使える調味料。お砂糖の代わりのイメージですね。最後に、本日のデザートは『米粉のチョコソース』です。とろみづけに米粉を使っています。ヨーグルトの上にかけていただきます」
ワンプレートのなかには、発酵調味料をまんべんなく使用したメニューと、変幻自在に米粉を活用する山口さん。そこには、発酵食や米粉の魅力をもっと知ってもらいたいという想いがありました。
「麹や米粉は体にいいことを知ってはいるけど、どのように取り入れたらいいかわからないという方や、敷居が高いと感じられている方がまだ多いと思うんです。ワンプレートにさまざまな発酵調味料を使ったメニューを盛り付けることで、目にも楽しいだけでなく、家庭でも手軽に作ることができると知ってもらえたらと。発酵調味料は最も手軽に取り入れられる発酵食品。さらに健康にいいだけでなく、料理がもっと美味しくなるということも知ってもらえたらと思っています」
山口さんのプロフィールには、米粉発酵レシピ研究家という肩書きがあります。そもそも米粉や発酵食に注目したきっかけは何だったのでしょうか?
「実は、『米粉発酵レシピ研究家』という資格があるわけでもなく、自分で考えたんですよね。米粉も発酵も両方とも好きなので。もともと食に関心はありました。大学では栄養学を学び、就職先も食品関係の会社でした。結婚して夫の転勤で静岡に引っ越したのが、ひとつめの転機でした。新しい土地で、自分にできる新しいことを始めようと思ったときに、やはり日々の生活で大切な食に携わりたいと思ったんです。当時、上の子がまだ2歳で、イヤイヤ期の真っ最中。自分の時間もないけれど、手作りのものを食べさせたいと思ったところ、1時間でできる小麦のパン教室を見つけました。さらに、教室では学びながら自分でも教えられる資格を得ることができたので、その流れで、自宅やカルチャー教室でパン作りを教え始めるようになったんです。ちなみに、なぜたった1時間でできるのかというと、発酵時間が長いから。夜に冷蔵庫で8時間ぐらいかけてゆっくりと発酵させ、朝に焼くという感じです。時間はないけれど子どもには手作りのパンを食べさせたいと思っている子育てママに、ぴったりのレシピなんですよね」
そして、2020年4月、東京に戻ってきた山口さんにふたつめの転機が訪れます。それは、コロナ禍により対面のレッスンができなくなったことでした。
「緊急事態宣言もあり、対面でレッスンができなくなったために、講座のスタイルを見直すことにしたんです。せっかくならもう少し教えられる幅や深さも広げていきたいなと思いました。パン教室で、発酵や米粉を取り入れることはありましたし、静岡に住んでいた頃に、個人的に発酵の料理教室に通ってもいたので、もっとしっかりと勉強して自分の中に発酵を落とし込もうと、学びを深めていきました。振り返ってみると、最初に発酵に注目したのは、子どもが生まれてから、食の大切さをより考えるようになったことでした。体にいいものを食べさせてあげることで、からだとこころを整えてあげたいと思ったんです。小麦のパンから米粉に変えたのは、自分自身のためでもありました。小麦は大好きなのですが、消化が悪いと感じることがあったんです。胃もたれをしたり、腸が重いと感じたり。そんなときに、米粉がいいと聞き、試してみたところ、長年悩んでいた便秘がすっきりしたんですよね。これはいいかもしれないと、レッスンで取り入れる前に、毎日の食事を通して家族で実験をすることに(笑)。下の子は私と似た体質で便秘気味、逆に上の子はお腹がちょっと緩くなりやすかったのですが、米粉や発酵食を積極的に取り入れてみたら、家族みんなの腸が整ったんです。おまけに、肌の調子も良くなり、手荒れも軽減され、心身の変化を実感しました」
コロナ禍の逆境をチャンスにして、自身の学びを深めた山口さん。発酵食と米粉のもつチカラと可能性を確信し、新しい発信方法を模索します。
「それまでの対面のレッスンから、オンラインサロンにシフトチェンジしました。もともとパン教室がスタートだったこともあり、なまえは『わくわく米粉ラボ』。レッスン内容は、米粉のパンはもちろんですが、米粉を使ったおやつのレシピのほか、発酵食も教えています。いずれも、子育て中のママが簡単に取り入れられるシンプルなレシピばかりですが、もっといろいろ学びたいという声もあり、応用クラスを開講しました。教室の幅も広がっています」
対面でのレッスンができるようになってからも、山口さんは対面レッスンを復活させずにオンラインレッスンを継続することに。そこにはこんな想いがあったそうです。
「オンラインならではの魅力があったんですよね。どこからでも参加できますし、子育てしながら片手間でも大丈夫。アーカイブを残すので、自分のタイミングで学べるところにメリットがありました。だからレッスンはオンラインで継続しようと決めたんです。一方で、対面のレッスンのなかで、私が好きな時間は試食のときだったということにも気がつきました。そんななかで、小平というこの場所に引っ越しすることになり、対面レッスンで楽しかった、わいわいと過ごした試食時間を、カフェのような場所で再現できたらと思いました。まだ子どもが小さいので、週1日くらいのレンタルスペースを探していたところ、この場所に出会ったんです」
オンラインレッスンとカフェ。ふたつの場所で子育てをしながら米粉と発酵の魅力を伝える山口さん。その原動力は、同じようにお子さんをもつママたちの力になりたいから、そして、暮らしの舞台である地域に貢献したいからだといいます。実は、ミセスユニバースジャパンのファイナリストにもなった山口さんがコンテストに応募したのも同じ動機だったそう。
「ミセスユニバースジャパンの代表の講演を聞く機会があったのですが、『あなたの挑戦があなたも周りも幸せにする』を理念として掲げていることを知りました。コンテストにはまったく興味がなかったのですが、これまでも挑戦することを大切にしてきた私に合っているなと思い、扉を叩いたのです。このお店は売り上げの一部を寄付するチャリティーカフェなのですが、きっかけは、コンテストの活動のなかで参加した、地域貢献や社会貢献でした。子ども食堂、ビーチクリーンにも携わらせていただきながら、未来につながる素敵な部分を、カフェにも繋げていきたいと思ったんです。これからの夢は、東京に腰を据えてというよりは、オンラインサロンで繋がっているメンバーがいる地域にも出向いて、活動を盛り上げていきたいです。カフェを開くまでは、何事もひとりでやることが多かったのですが、この場所ができて、ボランティアで手伝ってくださる方がいたり、地元の方にも支えられて、コミュニティがとても広がったんです。おかげで、できることの幅も可能性もぐんと広がりました。これからも、発酵や米粉の魅力を伝えながら、たくさんの方と一緒に幸せを共有していけたらと思います」