発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」
Vol.10 お酢の効果的な活用法を発信!
お酢に魅せられた岩間明子さんのおすすめは“ちょい足し酢”
2024/01/25
Vol.10 お酢の効果的な活用法を発信!お酢に魅せられた岩間明子さんのおすすめは“ちょい足し酢”
発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」
2024/01/25
食にかかわるプロに、お気に入りの「推したい発酵食」を教えてもらう本連載。10回目のゲストは、ビネガー・発酵食研究家の岩間明子(いわまあきこ)さんです。お酢を使ったレシピ開発や料理教室のほか、全国のお酢の醸造所を巡るお酢旅に、さらには大学の研究室への入室と、お酢への愛と探究心はノンストップ! お酢は、さまざまな健康効果が期待できることでも知られています。めくるめくお酢の魅力を、岩間さんとともにひもときます。
歯科衛生士の資格を持ち、歯科材料製造のメーカーに勤務する企業人でもある岩間明子さん。料理の道をめざしたのは、新婚当初のくやしい経験がひとつのきっかけだったそう。
「新婚のころ、夫に唯一褒めてもらえたのが、なます。これだけは毎日でも食べたいと言ってもらえたものの、ほかの料理にはかなり辛辣な反応で……(笑)。くやしさから独学で料理の勉強を始め、ヤミーさんの料理教室の講師になったのが転機です。ある友人の『調味料では何が好き?』という質問をきっかけに、自分がお酢好きであることに気づいたんですよね。世界のお酢文化や活用法を教えていただき、どんどん料理とお酢の世界にのめりこんでいきました」
振り返ると昔から酸っぱいものが好きで、子どものころの好物は小鯛の笹漬け。家で最もよく使う調味料も、お酢だったといいます。
「お酢好きを自覚してからは、もう蓋がパッカン!と開いた感じ。全国各地のおいしいお酢を求めて旅をし、レシピを考え、お酢の醸造法について学び……。そうしているうちに、発酵食全般に関しても関心が高まり、味噌や塩麹も手作りするようになっていきました」
「お酢のもとは、お酒。お酒のアルコールを酢酸菌が食べ、代謝してできるのがお酢です。ですから、お酒が造られているところには、お酢もある。ヨーロッパではワインビネガーやアップルビネガー、中国では餅米のお酒を原料にした黒酢、タイではココナッツのお酢など、世界各地にお酢の文化はあるんですね。でも、米酢、ワインビネガー、さまざまな果実酢と、種類豊富なお酢が造られているのは、世界広しといえども日本だけ」
岩間さんは、各地の醸造所をめぐり、その土地ならではなお酢との出会い、お酢造りのストーリーを発信することをライフワークにしています。
「お酢は、その土地のものを生かしながら造られていることも魅力。たとえば形がふぞろいな果物や砕けてしまったお米も、おいしいお酢になります。SDGsな食品ともいえるかもしれませんね。小さな醸造所のお酢は、なかなか流通にのらずに、その土地だけで楽しまれているものも。旅をしたときには、その土地のお酢を探してみるのもおもしろいと思います」
瓶詰め後、加熱殺菌されることで、お酢のなかの酢酸菌は死滅します。しかし、酢酸菌が生み出した「酢酸」の効果は変わりません。さらに、お酢は年月を経るにつれて熟成され、味わいがまろやかになっていくといいます。
「熟成されたお酢はツンとしたにおいがなく、まろやか。色も熟成するにしたがって、濃くなります。3年、5年と樽に入れて熟成してから瓶詰めするものも。お酢を選ぶときは、熟成期間をチェックしてみるのもいいですね」
お酢への興味は尽きず、岩間さんは会社員と料理研究家の顔に加え、研究生の顔をもつことに。2023年から東京農業大学の調味食品科学研究室の研究生として、週に1度、大学に通う生活をスタートしています。酢酸菌の働きやお酢の効果については、新たに報告されるデータや論文も多いそう。
「お酢にはさまざまな効果があることがわかっています。特に今、注目が集まっているのが、健康への効果ですね。疲労回復や食欲増進作用があることは、きっと多くのかたが経験的にも実感しているところでしょう。お酢の主成分である酢酸には、ほかにも脂肪の吸収を抑えたり、血圧を下げたり、血流をアップしたりと、体へのうれしい効果がたくさん! 最近の研究では、美肌効果(黒酢、バルサミコ酢」と免疫機能アップまたは二日酔い予防効果(酢酸菌入りのお酢)などへの効果も報告されているんですよ」
お酢の健康効果を得るためには、毎日大さじ1杯のお酢を習慣にするのがポイント!
「米酢、果実酢、ワインビネガーなど、さまざまなお酢がありますが、健康効果は共通です。原料は違っても、酢酸菌の力によって発酵している点はかわりません。また、たとえばりんご酢なら、酢酸の効果に加えてりんごの栄養も、柿酢なら柿の栄養成分も含まれます。選ぶときのポイントは成分表示。米だけ、りんごだけ、ぶどうだけと、シンプルなものがおすすめです。また、酸味の強さは、酸度が参考になります。お酢の酸度はだいたい4〜7%。料理に合わせて使い分けるのもいいですね」
岩間さんの研究テーマのひとつが、「卓上酢」。醤油差しのように、食卓にいつも置かれる調味料として定着したら、お酢がもっと身近になるはず。さまざまな食材や調理法に合う、クセのないお酢の研究を進めています。
「毎日コツコツ、無理なくお酢を摂り続けるにはどうしたらいいかと考えたとき、ぜひ広めたいと思ったのが『卓上酢』の提案なんです。お酢で味変を楽しみながら、健康効果も取り入れられたら一石二鳥!」
「お酢は、ラーメン、あんかけ焼きそば、海老チリ、麻婆豆腐などの中華料理や、イタリア料理にもよく合います。異なる酸味とのかけ合わせは、旨みの相乗効果をもたらしてくれるので、たとえばナポリタンにお酢をちょっと垂らすだけでもぐっと旨みが深くなりますよ。冷凍食品やお惣菜活用の日にもおすすめのお酢活用法です。また、私のおすすめは、焼き魚。塩を振ってパリッと焼いた焼き魚をお酢でいただくと、魚本来の旨みがふわっと広がって絶品です。減塩にもつながります」
岩間家では、調理の際にもお酢が大活躍。とくに作り置きメニューには、お酢が欠かせないといいます。
「お酢には強い殺菌作用があるため、日持ちをよくしてくれます。きんぴらや煮物などに、しょうゆや酒、甘麹などの調味料といっしょにお酢も加え、加熱します。火を通すと、酸味はほとんど気になりません。また、お酢には、肉や魚のくさみを消す働きも。魚の下ごしらえのほか、ハンバーグをこねるときにも200gのひき肉に対して小さじ1程度の酢を加えて。特売のお肉がグレードアップしますよ」
酢酸は熱にも強く、沸騰してもその効果は落ちないそう。
「酢酸の効果が半減する温度は、118度。煮たり、焼いたりする調理なら問題ありません。酸味を楽しむ料理はもちろん、下ごしらえや日持ちアップに少量の酢をしのばせる使い方もおすすめです」
酢の活用法は無限大! お菓子作りにもいい仕事をしてくれます。お酢を使ったりんごのコンポートで、ちょっとおしゃれなアップルパイはいかが?
「お酢には、食材の変色を防ぎ、色よく仕上げる働きもあります。よくコンポートにはレモン汁が使われますが、りんご×りんご酢ならその相性のよさは折り紙付き! ほどよい酸味をまとわせて、りんごの甘みを引き立ててくれます。このコンポートは、お湯で割って飲んでもいいし、ヨーグルトにかけても美味!」
焼きたてのアップルパイには、冷たいアイスクリームを添えて。アイスクリームにもお酢をかけるのが岩間さん流です。
「お手頃価格のアイスクリームが、高級な味わいに変身。お酢が脂肪の吸収を抑えてくれると思うと、罪悪感もなし、かな(笑)」
次回、岩間さんからのバトンを受け取るのは、料理家の金子文恵さん。毎年、欠かさず仕込む「手前みそ」のお話を伺います。どうぞお楽しみに!
ビネガー・発酵料理研究家
ビネガー・発酵料理研究家
酸っぱいおいしさに取り憑かれ、ビネガー・発酵料理研究家に。お酢の魅力を伝えるべく「全国お酢旅」を続け、訪れた酢醸造所は40社を超える。お酢のおいしい活用法を発信する料理教室やワークショップも人気。2023年4月より東京農業大学応用生物科学部の長身食品科学研究室の研究生に。歯科衛生士の資格も持ち、パラレルキャリアを続行中。インスタグラム/@akikonoosu