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発酵を訪ねる
【後編】
360年の老舗、
笹一酒造が酒粕でつくる、
人気の甘酒とスイーツに舌鼓!
2024/02/15
発酵を訪ねる
2024/02/15
360年の歴史をもつ山梨の酒蔵「笹一酒造」は、2020年にカフェ「SASAICHI KRAND CAFE(ササイチクランドカフェ)」を併設した直営ショップ「笹一酒遊館」をリニューアル。東京から山梨への玄関口である大月に位置するこの場所には、連日のように観光バスが立ち寄り、日本酒やワインの試飲を楽しむ方や、ここでしか購入できない限定酒や酒粕スイーツを求めて訪れる方がたくさん! 館内を店長の後藤理恵さんに紹介いただきました。
「笹一酒遊館」はもともと蔵に併設していた直売所と食堂をリニューアルするかたちでオープンしました。500平米もある館内は、モダンで開放的な空間。笹一酒造の日本酒やワインのほか、山梨の名産品も並ぶショップ、試飲スペース、そして、酒粕スイーツが楽しめるカフェ「SASAICHI KRAND CAFE(ササイチクランドカフェ)」も併設しています。
「以前は、事務所の1階にちょっとした売店があったと聞いています。ここに移動してきたのが1995年頃。たくさんの観光バスが立ち寄ってくださるようになり、私たちの扱う商品数も増えてきたのが理由です。規模は今とは違いますが、地元の物産も扱うようになって、軽食コーナーもありました」
そしてさらなる進化を遂げたのが2020年。「笹一酒遊館」の店長として活躍する後藤理恵さんは、笹一酒造に就職して20年以上。地元も近く、小さい頃から笹一酒造のことは身近な存在だったそう。
「子どもの頃、家には笹一の日本酒の一升瓶がいつもあったのを覚えています。同じように地元の人にとっても笹一は馴染み深い存在だと思いますが、リニューアルしてからは、東京や神奈川などの近郊からも、若い方が多く訪れてくれるようになりましたね。場所柄、車で来られる方が多いのですが電車でも3分の場所にJR中央線の笹子駅という無人の駅があり、意外とアクセスがいいんですよ!」
「笹一酒遊館」の一角には、日本酒やワインを楽しめるバーカウンターがあります。ショップで購入するためのお酒選びとしての試飲はもちろん、いろいろな種類を少しずつ楽しめると人気です。
「さらに人気なのは『笹一吟醸ソフトクリーム』ですね。ノンアルコールなので、お酒が飲めない、お子さんやドライバーの方にも人気で、ソフトクリームだけを買いに来る方もいるほどです」
ショッピングを楽しんだあとは、“発酵文化を楽しむ”をテーマにしたカフェ「SASAICHI KRAND CAFE」へ。ここでは、日本酒造りの副産物である「酒粕」を使ったデザートや、前編で紹介した仕込みに使われている富士の天然水で淹れたコーヒーなど、酒蔵ならではのメニューが楽しめます。
「ぜひ一度は味わっていただきたいのは、甘酒です。酒造りの過程で出る酒粕で作った、濃厚な味わいが特徴です。私はもう他のどんな甘酒を飲んでも“薄い”と感じるほど! 寒い季節にはポカポカと体を温めてくれるので、個人的にも欠かせない飲み物なんです」
他には、甘酒アイスパフェやクリームあんみつ、大吟醸カステラなど、どれもが栄養たっぷりの「酒粕」を使ったスイーツたち。夏には、仕込み水にも使われている富士山の天然水でできた氷に、自家製の酒粕シロップを合わせた、期間限定の「ふわとろ酒粕かき氷」が登場します。濃厚さがやみつきになると、氷開きを心待ちにするファンのかたもたくさん。
「かき氷が終わると入れ替わりに登場するのが、酒粕ほうとうです。特に寒い季節に嬉しいメニューですよね。フード系では、笹一の酒粕を使用して育てたきのこたっぷりの、きのこうどんもおすすめです」
酒粕は日本酒を造る際、醪(もろみ)を圧縮した後に残ったいわば搾りかすのことです。水分をぎゅっと絞るため、板状のものや、ぽろぽろした状態のものが一般的ですが、笹一酒造の酒粕はしっとりねっとり。水分を無理に絞り切らないことで旨み成分が残されるため、香り高く豊かな風味が特長で、栄養もたっぷり!
「新酒の時期になると酒粕入荷のお問い合わせが入るほど、笹一の人気商品のひとつです。地元の方には、20個と30個と購入するかたも。楽しみ方はいろいろ。溶かして砂糖を入れれば簡単に甘酒がつくれますし、カフェでも出しているようにお菓子作りとの相性もよく、まだ試したことはないのですがクリームチーズの代わりになるのでは?と思っているところなんです。料理なら、お味噌汁やお鍋に加えたり、魚を漬けたりするだけという、手軽で万能な発酵食品だと思います」
2020年当時、大規模リニューアルが決まった際に、実は少し戸惑ったという後藤さん。
「とてもおしゃれになって、ユニフォームも変わり、最初はちょっぴり恥ずかしかったんです。え?帽子被るの!?と(笑)。でも、今では帽子なしでは店頭には立てないほど馴染んでいます。働いていてもとても居心地のよい空間です。現社長の斬新なアイデアと行動力には、驚かされることばかり。酒遊館がオープンしたのはコロナ禍の真っ最中だったのですが、社長はいち早く、消毒にも使える高濃度のアルコールを製造することを決めました。すると、連日行列ができるほどたくさんの方に来店いただき、店を閉めることなく営業を続けることができました。さらに、それだけではなく、お客さまからはお礼のお手紙やFAXが大量に送られてきたんです。私たちの仕事がたくさんの方の役に立ってとても嬉しかった出来事でした」
全国的に消毒液が不足するなか、何かできないかといち早く行動に出た笹一酒造。国税局に問い合わせると、歴史の長い笹一酒造は、全国で4社しか持っていないという高濃度のアルコールを製造することができる免許があることが分かり、すぐさま製造に取り掛かったのだそうです。
コロナ禍にオープンした「笹一酒遊館」でしたが、ようやく海外からのお客様も戻りつつあると言います。今後ますます発酵の魅力を知ってもらい、喜んでいただけたら嬉しいと後藤さんは言います。
「発酵って日本人にとっては古くからとても身近なものですし、体にもいいものというのはなんとなくは知ってはいるけれど、魅力はまだ伝わってない部分も多いと思うんです。酒粕のおいしさや、健康効果、活用の仕方など、若い方たちにも知ってもらえるように、まずは、おいしいと思って食べていただけるようなメニューを取りそろえ、気軽に立ち寄ってもらうことで、発酵文化に触れてもらえるきっかけになれたらと思います」