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発酵に恋して。
発酵食品と野菜のおいしくて効果的な食べ方。
最年少の「野菜ソムリエプロ」緒方湊さんに聞く
“日本の野菜×発酵×和食”の魅力
2024/03/14
発酵に恋して。
2024/03/14
史上最年少の10歳で「野菜ソムリエプロ」になり、高校生になった今では自宅の菜園で野菜を育てながら、日本各地の野菜の魅力を多方面に発信し続ける、緒方湊(おがたみなと)さん。
「食べること、和食や和の発酵調味料も大好き」という緒方さんが、活動の原点や野菜の新たな可能性、野菜不足を手軽に解消できる発酵食品と野菜のおすすめの食べ方などを教えてくれました。また、『行くぜっ! にっぽんの和食』ユネスコ無形文化遺産登録10周年記念キャンペーンの応援団に就任した意気込みも伺います。
自分を「かなりの食いしん坊」と評する、緒方さん。幼いころから、特に野菜のおいしさに目覚めました。
「もっとおいしい野菜を食べてみたいという好奇心がとにかく強くて、日本各地の伝統野菜を探し求めるようになりました。両親もいろいろな場所に連れて行ってくれましたが、何の野菜が食べてみたいかで旅の目的地を決めていたほどです(笑)」
小1のときには近所に畑を借り、野菜を自ら栽培、収穫するように。「スーパーなどで売っている野菜は、基本的に食べる部分しか残っていないですよね。葉っぱとか花とかはどうなっているか、見てみたいと思ったのがきっかけでした」
知識や経験を積み重ねながら、畑のインストラクターさんに勧められて「日本農業検定」を受験し、合格。「それ以来、資格取得がブームになった僕に、両親が『野菜ソムリエ』という資格があることを教えてくれ、目指すことにしました」。最年少記録を大幅に塗り替え、8歳で「野菜ソムリエ」、10歳にして難関「野菜ソムリエプロ」の称号を得たのです。
“野菜のプロ”として、今では、デパートなど日本各地の珍しい野菜を扱う売り場のバイヤーから、仕入れの意見を求められるまでに。メディアや講演などで野菜の魅力を伝える側に立っても、「おいしい野菜をもっと食べたい、知りたい」という緒方さんの軸はブレません。
「取り上げた野菜を『食べたい!』と思ってくれるのが、一番。もちろん、野菜の栄養の話なども大事ですが、それだけじゃ興味は続かないことも自分が身をもって知っています。今後はもっと、自分の暮らしから得た、『こういう野菜もおいしい』『こんなふうに食べるとおいしいよ』などの実践的な提案を発信していきたいです」
小6のときに家の庭に菜園を作り始め、中1で近所の畑から場所を移し、自宅の菜園で栽培を行うようになりました。多いときは、20種類ぐらいの野菜を育てます。
「畑を借りていた6年間で、インストラクターさんに栽培について一から教えてもらい、ある程度の基礎が身につきました。今度は、自分の興味のある種類を育ててみたいなと思って。全部で3畝あり、野菜を育てる土は、米ぬかや石灰などを肥料として加えて作っています」
食べてみたいものを育てているという緒方さん。「最近、見た目とおいしさに驚いたのは、赤紫色のとうもろこし『お祝いコーン』です。品種改良で新しくできた品種。実だけでなく、種や葉、ひげも赤紫色で、アントシアニンが豊富。甘さがあり、生でも食べられますし、ゆでるともちもち感があっておいしいですよ」
栽培した中で印象深いのは、札幌大球という、大きいもので20kgぐらいはある特大のキャベツ。「育てたら、たったの2kgにしかなりませんでした。気候、風の吹き方、土質なども含めて、その土地の条件で栽培するのが一番適しているのでしょう。でも、ギネス記録を持つ桜島大根は、神奈川・三浦の農家さんなんですよね。自分で育ててみて、農家さんの技量ってすごいなとあらためて思うようになりました」
緒方さんが今、注目している野菜の活用法は、“干し野菜”。食生活の改善やSDGs、災害への備えなど、さまざまな問題を解決する糸口になるというから、驚きです。
「野菜が余ったら、天日に干しておくだけで簡単にできます。フードロスを防ぐ方法として優れていますし、ストックしておけば、手軽に何種類もの野菜を料理に使うこともできます。また、野菜をとりづらく、栄養不足に陥りがちな災害時の食事に活用できるのもいいですね」
しかも、干すと水分が抜けて旨味が凝縮され、栄養価が高まります。「もやしはシャキシャキとした食感が強くなり、きのこやきゅうりは歯応えが出ておいしいんです。野菜はお湯や水でもどすだけで、生の野菜と同じように調理ができますし、皮むきや切る手間と煮込み時間も減って、むしろ時短につながります」
なるべく手をかけないで、野菜本来の味を楽しみたいという緒方さん。数十ある品種の中から味の違いを感じ取れるほど、繊細な味覚の持ち主ですが、野菜と同様に幼いころからシンプルな和食に惹かれるそうです。
「日本各地にさまざまな発酵食品があるのもおもしろくて、食べ比べてみたりします。酢もみりんも好きですが、味噌に一番興味があって、デパートの売り場などで見かけてはいろいろ試していますよ。なかでも白味噌は、野菜や肉、魚を味噌漬けなどにするとおいしくて好きですね」
緒方さんが大好きな野菜と発酵食品の効果的な食べ方として教えてくれたのが、「干し野菜の味噌汁」です。お湯が沸いたら、好きな干し野菜をそのまま入れて、十分もどったら味噌を溶いて、できあがり。
「簡単でしょう? しかも、干し野菜から旨味が豊富に出るので、だしを使わなくてもすごくおいしいですし、減塩効果もあります。濃い味を好む傾向がある東北地方でも今、減塩のために干し野菜の味噌汁を活用する試みがあるんですよ」
味噌汁に入れたのは、ごぼうやにんじん、白菜、きのこなど8種類ほど。干し野菜から出た甘味と旨味が、辛口の仙台味噌とよく合います。
「種類も量も豊富に、野菜を気軽にたっぷりとれて、野菜不足を解消できるのも、干し野菜の魅力のひとつです」
さまざまな干し野菜が入っていることで、食感も楽しく、食べ応えのある一品に。
和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたのが、2013年12月。あれから10周年を迎えたことを記念して、『行くぜっ!にっぽんの和食』キャンペーンが展開されています。緒方さんは、日本人が誇る食文化である和食の魅力を次の世代に伝える「和食応援団」のひとりに選ばれました。
「自分たちの国にこれだけ魅力的な食があるのに、和食離れが起きている現実はもったいないことです。和食というと、敷居が高そうなイメージがありますが、寿司も天ぷらも実は江戸時代のファストフードでした。すべての食事を和食にすることは難しくても、身近な選択肢のひとつになってほしい。僕と同じ若い世代にも気負わずに取り入れてもらえるように、和食のよさをもっと伝えていきたいと思っています」
2008年生まれ。8歳で「野菜ソムリエ」、10歳で「野菜ソムリエプロ」に最年少記録で合格。農研機構広報アンバサダーやいばらき大使(茨城県)などを務め、テレビなどのメディア出演、新聞などでの連載、農業関連のイベントやセミナー講演などで活躍中。『行くぜっ! にっぽんの和食』ユネスコ無形文化遺産登録10周年記念キャンペーンの応援団に就任。著書に『野菜がおいしくなるクイズ』(飛鳥新社)。
緒方さんの公式サイト『みなとの野菜大辞典』
https://www.hyponex.co.jp/yasai_daijiten/
『行くぜっ!にっぽんの和食』ユネスコ無形文化遺産登録10周年記念キャンペーンHP
https://www.washoku10th.jp