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発酵を訪ねる
日本酒の魅力を浜松町から
世界へ発信。
「SAKE Scene 〼福(ますふく)」で
発酵フレンチと熱燗のマリアージュ。
2024/05/09
発酵を訪ねる
2024/05/09
東京・浜松町の下町情緒が残る一角に、日本酒の魅力を熱燗で伝える「SAKE Scene 〼福(ますふく)」があります。ユニークなのは発酵を取り入れたフランス料理と合わせること。なぜ「熱燗」×「フレンチ」というスタイルに辿り着いたのか、店主の簗塲(やなば)友何里さんにお話を伺いました。
羽田国際空港と都心をモノレールでむすぶ浜松町駅は、海外からのツーリストも多い日本の玄関口とも言える場所。そんな国際色豊かなエリアの賑やかな表通りから一本路地に入った落ち着いた場所に「SAKE Scene 〼福(ますふく)」はあります。
「この場所にお店を構えたのは、日本酒を海外の人々に紹介するのにぴったりな場所だと思ったからです」と、教えてくれたのは店主の簗塲友何里さん。“発酵フレンチ”というキーワードは、日本人にとっても魅力的ですが、どのようなきっかけで日本酒とフレンチが出会ったのでしょうか?
「フランス料理を採用した理由はふたつあります。ひとつは、自国に帰ってからも日常的に日本酒を楽しんでもらいたいという思い。というのも、海外の方にとっては日本食の敷居は高く、わたしも留学経験がありますが、どこの国に行っても日本食は高級料理。日本酒も同じように気軽なものではありません。日本で提供するのだから、和食と日本酒を提供したらいいと思われるかもですが、海外の方に馴染みのある洋食にも日本酒が合うことを知っていただき、ワインの代わりに日本酒にしようかな、と日常的な選択肢のひとつに加えてもらえるのが目標。そして、なぜその洋食のなかフランス料理にしたのかというと、フランス料理の姿勢が日本酒づくりと似ていると思ったからです。フランス料理はディナーの仕込みを3日前からすることもあるなど、手間暇がかかるもの。シンプルな食材を使って奥深いソースをつくる様子を見ていると、米と麹と水からつくる日本酒と、重なる部分があるんです」
そこにさらにプラスされたのが発酵。ところが、最初は普通のフランス料理だったのだそう。
「開店当初に来てくださったフランス在住の方に、この料理ならおいしいワインが飲みたくなっちゃうと言われたんです。さらにその方に、日本酒と合わせるなら日本の発酵食をつなぎにするといいのでは?と、アドバイスをいただいて。なるほどと思い、シェフになるべく発酵食材を使ったメニュー開発をお願いしました。フランス料理にもチーズやビネガーなど、発酵食材はたくさんありますが、白味噌や酒粕など、日本の発酵食材を調味料として使うことで日本酒にぴったりのメニューが完成しました」
さらに、日本酒を熱燗で提供するのも特長のひとつ。
「〼福の日本酒は、ほとんどが熱燗に向いてるものばかり。熱燗にすることで、お米の香りが際立つんですよね。温度が徐々に下がることで味わいの変化も楽しめるので、日本酒の魅力をより楽しんでいただける飲み方だと思います」
「〼福をオープンする前は、貿易関係の会社に勤めていました。もともと海外が好きで、日本と海外を橋渡しできるような仕事に興味があって。日本酒にたどり着く前はワインが好きで、ワインエキスパートの資格も取得しました。あるとき、ワインの勉強で訪れたブルゴーニュで、ガイドさんと会話しているときに、海外のものを日本に紹介するのではなく、日本のものを海外に発信しようとひらめいたんです。そうしてたどり着いたのが、日本酒の輸出業でした」
簗塲さんが日本酒に注目した当時は、まだ海外における日本酒の価値も認知度も高くはなかったそう。いきなり日本酒の輸出をしてもうまくいかないと考えた簗場さんは、輸出業を開業するための準備と並行して店づくりをスタート。
「どうしたら日本酒の魅力を知ってもらえるかと考えたときに、食事をしながら楽しんでもらうことが大切だと思いました。日常のなかに日本酒の文化を根付かせないと、輸出だけをしても意味がないと思ったんです。そのためには、食事と合わせて楽しむ体験する場所が必要だと思い、2016年に〼福をオープンしました」
日本酒と発酵フレンチ、どのようにメニューを組み立てているのでしょうか?
「フランス料理は伝統的なメニューが多いので、ワインとのペアリングをヒントにしました。濃厚なソースにどっしりした赤ワインを合わせる、アルザスの郷土料理には軽く爽やかな白ワインを合わせるなど、日本酒の個性をワインに見立てて料理に合わせています。海外の方に日本酒を解説するのにも、ワインに例えると分かりやすいと喜んでいただけるんですよ」
また、大きなりんごを丸ごと使った「酒粕りんご飴」は、手土産としても人気。レモン風味の酒粕シトロンパウダーを仕上げにまぶし、見た目にも楽しい一皿です。
「コロナ禍で、アルコールの提供ができなくなったときに、娘からアイデアをもらって誕生したメニューです。りんご飴といえば、姫りんごが一般的かもしれませんが、サンふじを1個まるごと使っています。酸味とシャキシャキした食感が、飴と相性がよく、食後のデザートとしての満足感も。酒粕パウダーをまぶすことで日本酒との親和性も生まれます」
簗塲さんが日本酒に携わるようになり蔵元を訪れて以来、ずっと注目しているのは「酒粕」なのだといいます。
「酒粕は料理にも欠かせませんが、オンラインショップでは酒粕フィナンシェと酒粕ジェラートを販売しています。蔵元の方と話していたときに、副産物の酒粕の処理に困っているという話を聞いたのがきっかけでした。栄養たっぷりの発酵食品である酒粕は、味わいに深みを与えたり、旨みをプラスしたりするすばらしい食材ですが、一方で、日常に取り入れる難しさも消費者の立場として理解ができるんです。そこで、もっと気軽に食べてほしいと考えたのがスイーツ。酒粕フィナンシェは3種類の酒粕を使っているのですが、食べ比べてみると、味わいはまったく違うんですよね。マルシェなどで食べ比べをしていただくと、誰もが驚くほど。それがきっかけで、酒粕に興味を持っていただけたらと思っています。保存はどうしたらいいの?どうやって使ったらいい?そもそも、どこで手に入る?など、まだまだ身近な食材ではないという現状ですが、私は蔵元と消費者の間に立ち、例えば蔵元さんごとに、それぞれの酒粕の特徴を生かしたメニューを提案したり、商品づくりのお手伝いして発信もしていけたらと。最近では、食材としてだけではなく、保湿力にも注目し、コスメへの展開も考えているところなんです」
日本酒を世界へ発信しながら、酒粕の魅力を広めたいと話す簗塲さん。その思いの根底にあるのは、日本酒の価値を高めながら、酒粕も有効活用して酒蔵を応援したいという思いでした。