おいしく長寿。魅惑の発酵王国NAGANO
【後編】おいしいビールは
どうやって造られるの?
ヤッホーブルーイング・
佐久醸造所リポート
2024/05/30
【後編】おいしいビールはどうやって造られるの?ヤッホーブルーイング・佐久醸造所リポート
おいしく長寿。魅惑の発酵王国NAGANO
2024/05/30
味、香り、色、度数などバラエティあふれるスタイルのクラフトビールを製造しているヤッホーブルーイング。それらのビールは、実際にはどのようにして造られているのでしょうか。広報ユニットの中村翡翠(なかむら ひすい)さんに案内していただき、佐久醸造所でのビール造りについて紹介します。ビール製造工程は大きく分けて、「仕込み」「発酵」「熟成」「充填(パッケージング)」の4つで、それぞれの部屋が設けられています。各部屋を回ってビールができるまでを見ていきましょう。誌上醸造所見学のスタートです! まずは原材料から教えていただきます。
色の濃さの違いが見比べられる3種類の麦芽(モルト)。左からペールモルト・チョコレートモルト・キャラメルモルト、ホップ(マグナム、カスケード)、後列左からエール酵母、水。
「ビールに使われる基本的な原材料は、麦芽(モルト)、ホップ、酵母、水の4つです。それぞれに種類があり、組み合わせ次第でさまざまな色や味わい、香りが生まれます。さらに原材料を使うタイミングや温度、分量のバランスを変えることでも仕上がりが違います。このブレンド具合がエールビールのバラエティ感を生んでいるのです」
ビールの4つの原材料
<麦芽(モルト)>
ヤッホーブルーイングで主に使う麦芽は約15種類。麦芽は焙煎度合いなどにより、ビールにさまざまな色合いを与えるだけでなく、コク(味の濃さ、深さ、豊かさ)に大きく影響します。
<ホップ>
ホップはアサ科のつる性の植物で、ビール造りに用いられるのは雌株(めかぶ)にある「毬花(まりはな)」という部分。ホップが苦み成分だとは知られていますが、柑橘類、花、青草のような香りをつける働きがあり、エールビールの華やかで個性的な香り形成に重要な役割を果たします。また泡持ちをよくしたり、殺菌効果を高めたりする働きもあります。
<酵母>
ビールの元となる「麦汁(ばくじゅう)」を微生物の一種である「酵母」によって発酵させることでビールになります。ビールのアルコール感、シュワシュワっとした発泡感は酵母の働きによるもの。ビール酵母には、発酵終了後に酵母が下に沈殿する「ラガー酵母」(下面発酵酵母)と、酵母が上に浮いてくる「エール酵母」(上面発酵酵母)があります。エールビールを製造するヤッホーブルーイングでは、エール酵母を使用しています。
<水>
水はビール造りに欠かせない原材料の一つ。ヤッホーブルーイングでは、地元の浅間山水系のミネラルたっぷりの硬水を使用。エールビール造りには硬水が向いていると言われていますが、ヤッホーブルーイングではこの硬水を生かしてビール開発を行ってきました。
「材料の説明が終わったところで、製造工程の説明をいたします。仕込み室から見ていきましょう」
3つのタンクで、麦芽からビールのもととなる
麦汁を造る「仕込み室」
「まずは、マッシュタンで細かく粉砕された麦芽に湯を加え、麦のお粥(マッシュ)を作ります。タンクの中では、麦芽の酵素が働いてでんぷんを糖へと変える『糖化』が活発に行われます。次にマッシュをロイタータンに移してろ過することで麦汁になります。麦汁を味見するとジュースのように甘いです。その後、ホップを加えて煮沸したものをワールプールタンク(沈殿槽)に移します。ワールプールでは遠心力でホップのカスを沈殿させ、よりきれいな麦汁だけを取り出します。ちなみに、ロイタータンでろ過した後に残る麦芽のカスは、良い肥料になるので、近隣の農家さんにお配りしています。お礼に大根とか野菜をいただくこともあるのですが、すごくおいしいですよ」
澄んだ麦汁にエール酵母を加えて、
発酵を見守る「発酵室」
「ここは麦汁に酵母を入れて発酵させる発酵室です。ここには一次発酵させるタンクと、二次発酵させるタンクの2種類があります。タンクの中では麦汁に含まれる糖分を酵母がもりもり食べて発酵しています。発酵することで生成されるのがアルコールと二酸化炭素。この段階で味見をするとだいぶビールらしい味になっています。蒸し熱い仕込み室とは違って、ここは過ごしやすい室温。その理由は酵母の活動が活発になる温度(約20度)に保たれているから。発酵は2週間ほどかけて行われます」
貯酒することでビールはおいしくなる
ビール造りの仕上げ「熟成室」
「発酵を終えたビールは、若ビールと呼ばれ、まだまだとげとげしい味。貯酒(ちょしゅ)といって丸いタンクの中で熟成させて、まとまりのある味に仕上げていきます。ここでは約5度に冷やした状態で10日〜2週間ぐらい貯蔵します。熟成が終わったビールは、酵母や不要な成分が取り除かれ、美しい色のビールが誕生します」
冷やすのはこれ以上発酵が進んでしまわないようにするため。冷たいタンクの並ぶ熟成室はかなり寒く感じました。酵母という生きた菌を扱う工場では、いろいろな温度帯の部屋があるのですね。酵母から造られるビールもまた生き物なのだと実感しました。
新鮮なビールをすみやかに充填する、
「パッケージング室」
「ビールは不要なものを混入しないように蓋が閉じられます。蓋の閉じ方にもこだわりがあり、缶には缶胴と缶蓋がありますが、缶胴にビールを詰めたら蓋を乗せ、外側を巻き締めという方法でぐるりと巻いていくことで、接着剤は使わずに密閉しています。ヤッホーブルーイングでは充填は1分間に約160缶の速さで行います。その後、検査して合格したものを出荷しています」
以上、原材料とビール製造工程をリポートしました。クラフトビールはしっかりとした管理の元、手間と時間をかけて丁寧に造られ、皆さんの元に届くのですね。
醸造所の中のミニ醸造所
自由にビールの試作ができる「パイロットエリア」
佐久醸造所の中には醸造所の設備をコンパクトにした機材が並んだパイロットエリアと呼ばれる一室がありました。ここは何をする場所でしょうか。
「ここでは社員の誰もが自由にビールを造れるんです。造ったビールは、家に持ち帰って楽しむこともできます。もちろん開発担当者が試作する時に利用したり、皆で味見をしたり。部署の隔たりなくビールトークに花を咲かせて、社員同士のコミュニケーションの場にもなっています」
ビールが大好きな社員が集まっているからこそ、個性あふれるおいしいビールがラインアップされるのかもしれませんね。
佐久醸造所の入り口ロビーでは、素敵なガーランド風の飾りが出迎えてくれます。でもこれ、よく見ると社員カードをユニットごとに吊るしたもの。各カードは社員とニックネーム入りで、「パクチー」「忍忍」といった面白いニックネームがたくさん。さらにユニット名も「ヤッホー広め隊(広報)」「よなよな丸 操舵室(社長室)」と自由なネーミングで、社内に垣根がないフラットな社風が感じられます。ヤッホーブルーイングでは、お互いをニックネームで呼び合う「ニックネーム制」を採用しているそうです。これによって社員同士の距離感がぐっと縮まり、コミュニケーションも円滑になるのだとか。ヤッホーブルーイングのクラフトビールといえば、バラエティあふれる味わいのラインアップはもちろん、「水曜日のネコ」「インドの青鬼」「正気のサタン」……など、独特のネーミングも際立っています。創造的な物造りの源は、こんなのびのびとした個性的な社風にあるのかもしれません。
今後もヤッホーブルーイングのユニークで新しいラインアップから目が離せませんね。
ヤッホー広め隊(広報ユニット)所属。趣味は読書やパン作り。好きなエールビールはIPA、ケルシュ、セゾンなど。
長野県軽井沢町に本社をおくクラフトビールメーカー(ブルワリー)。1997年よりクラフトビールの製造・販売を開始する。創業者は星野リゾートの星野佳路氏。現在は井手直行社長のもと、クラフトビールメーカーとしては業界最大手、ビール業界全体では大手5社に次ぐ第6位の規模を誇っている。