発酵を訪ねる
特別な贈り物にも最適。
大麦麹で豚肉を発酵させた肉醤油&サラミ
2024/08/01
発酵を訪ねる
2024/08/01
東京都町田市の住宅街にある手作りハム・ソーセージの専門店「クロイツェル」。ドイツの伝統的な製法で手間暇かけて作られるハムやソーセージを求めて、次々と常連客が訪れるお店です。
店主の吉岡学さんはこれまでにない商品を町田から国内外へ発信したいと、日本古来の発酵技術を用いた肉加工品を次々と開発。肉の日である4月29日に通販販売を開始したばかりの新商品「肉醤油」と「焼酎麹発酵サラミ」についてお話を伺いました。
豚肉を発酵・熟成させ、豚特有の甘い味わいと大麦の香ばしい香りが漂う調味料「肉醤油」。食材の旨みを引き出す万能醤油は、8年越しの研究によって誕生しました。
「クロイツェル」代表の吉岡さんはもともと東京農業大学醸造学科(現在の応用生物科学部 醸造科学科)で発酵や醸造について学び、製薬会社勤務を経て脱サラ。2代目として店を引き継ぎました。
日本の発酵技術を使った肉加工品を作りたいと思案していた時に、見本市で大学時代の同級生であり、宮崎の醤油・味噌専門メーカー「ケンコー食品工業」代表の吉田努さんに再会。
「醤油や味噌に使う麹は肉を分解する力が強いはずだから、肉と合わせると旨みが出るのではと言われて当初は熟成肉を作り始めたんです。同時期に都産技研 食品技術センターから銘柄豚のTOKYO Xを使った商品が作れないかと相談を受け、どこもやっていないものを作ろうと試行錯誤していた時に思いついたのが、平安時代に食べられていた肉醤(ししびしお)。肉と麹を発酵させて作った、醤油のルーツのひとつと言われているものです。この肉醤に着想を得て、『肉醤油』を作ることにしました」
豚肉に合う麹を探して、米麹、豆麹、ふすま麹、小麦麹、大麦麹などを検討。ケンコー食品工業、都産技研 食品技術センターと3者連携しながら、共同研究を行いました。
「豆麹や小麦麹で作ると普通の醤油っぽい味になって、肉らしさが出ませんでした。米麹なら合うはずと研究を進めたものの、3年目になってようやく、おいしくないと気づいてしまって(笑)」と失敗の連続。そしてたどり着いたのが大麦麹。豚肉を大麦麹で発酵・熟成させることでコクや旨みが出て、甘い香りも引き立つ「肉醤油」が出来上がったのです。
「肉醤油」は食材の旨みを引き出す調味料として、いつもの料理をワンランクアップしてくれるそう。炒め物や鍋料理に加えることで旨みやコクがアップ。餃子や豆腐につけたり、焼きおにぎりに塗ったり、マヨネーズと合わせて野菜スティックにディップにしたりと、使い方はさまざまです。
「豚肉の生姜焼きを作ってもおいしいですし、トッピングに使うのもおすすめ。もともと肉醤は平安時代の貴族が蒸した野菜につけて食べていたと言われているので、蒸した根菜やきのこにつけて、平安時代にこうやって食べていたんだなと思いを馳せるのも楽しいですよ」
もう一つの新商品は、世界で初めて焼酎麹で豚肉を発酵させた「焼酎麹発酵サラミ」。埼玉県産の三元豚に、新島の焼酎「嶋自慢」の大麦麹、塩、新島産の島唐辛子などの香辛料を加えて発酵させ、スモークチップで燻製にした一品です。
こちらも大学時代の同級生で、新島にある老舗蔵元「新島酒蒸留所」の代表・宮原淳さんとコラボレーションして生まれたアイテム。新島にある酒蔵を見学した際、「焼酎を醸造するための大麦麹でサラミを作ればおいしくなるのでは」と着目。サラミは通常、乳酸菌で発酵熟成させますが、焼酎用の大麦麹は酸度が高いため、代用できると考えたのです。
「作ってみたらおいしくて、試作を続けました。サラミには焼酎『嶋自慢』に使っている大麦麹だけでなく、焼酎自体も入れているので、焼酎との相性は抜群です。スモーキーなスコッチやウイスキーとも合うと思いますが、ぜひ『嶋自慢』と一緒に食べてほしいですね」
サラミをスライスしてそのまま食べると、肉の甘みと島唐辛子のほのかな辛みと共に、スモーキーな風味が口いっぱいに広がります。食べ始めると止まらなくなる味わいです。時間が経つごとに熟成が進んでいくため、味の変化も楽しめます。
「出来上がって真空パックをしても麹が生きているので、ゆっくりと肉を分解し続けて、旨みが増えていく。最初はフレッシュで肉の風味が強いのですが、徐々にコクが出ておいしくなっていきます」
クロイツェルのショーケースには常時50種ほどの商品が並んでいますが、今後はさらに発酵系のアイテムを増やしていくことが目標だという吉岡さん。
「発酵っておもしろいんですよ。思った通りの味にならなかったり、研究結果がわかるのが数年後だったり、失敗の連続だけど楽しい。それに発酵のいいところはおいしくなるだけでなく、健康の面でも喜んでもらえること。麹の酵素によって肉の繊維が分解されるので柔らかくなって食べやすく、消化吸収にも優れる。年配の方でも楽しんでもらえると思います」
そして日本の発酵技術を用いた商品を国内外に向けて発信できればと願っています。
「ドイツやフランスでパテやソーセージの勉強をしてきましたが、ある時にふと、肉に関しては海外から技術を教えてもらうばかりで、日本から発信できるものって何があるんだろうと思ったんです。日本の発酵技術は進んでいるのに、肉を発酵させることはほとんどなかったので、もったいないなって。日本伝統の発酵に最新技術を組み合わせた肉加工品を生み出して、東京・町田から発信していきたいです」