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発酵を訪ねる
神田明神前の老舗甘酒店「天野屋」。
夏季限定の甘酒かき氷で涼む。
2024/08/22
発酵を訪ねる
2024/08/22
東京・神田明神の大鳥居横に佇む「天野屋」。江戸時代に創業した老舗の看板商品は、昔ながらの製法でつくる糀と甘酒。夏が訪れると、甘酒をたっぷり使ったかき氷を目当てに、開店時間から次々と老若男女のお客さんがやってきます。創業当時から変わらない味を一家で守り続ける女将・天野史子さんにお話を伺いました。
明神さまの名前で親しまれている神田明神の鳥居横で店を構える「天野屋」。創業は江戸時代後期、1846年(弘化3年)という老舗甘酒店です。
「うちの甘酒は米と糀でつくったもの。自然の甘みが味わえますよ」と、出迎えてくれたのは女将の天野史子さん。店の奥、地下6メートルの場所にある土室(むろ)で、7代目店主と職人が糀をつくり続けています。
「初代はもともと京都・宮津のお殿様。江戸で道場師範をしていた弟が暗殺されて、仇討ちをするために江戸にやってきました。中山道が通り、人通りの多いこの場所にいれば仇を見つけられると考えたものの、結局見つからず。京都に帰るわけにもいかなくて、当時からあった土室を利用して糀をつくり、甘酒を売り始めたんです」
江戸時代、湯島周辺には 100 軒以上の糀屋が土室をつくり、糀を製造していましたが、現在は「天野屋」だけが土室を守り、伝統の糀づくりを続けているそうです。
「土室は夏は涼しく、冬は温かい。温度も湿度も自然管理で、昔のままの製法で糀をつくっています。といってもレシピはないので、職人が肌で感じて調整する。糀はとても繊細ですし、毎日見守っていないといけないので、赤ちゃんを育てるように扱っています」
5日間かけてつくった糀におかゆ状にした米を混ぜて、60℃の温度で約10時間。その後、涼しい場所に置いて、1週間程度発酵させると甘酒のでき上がり。口当たりがよく、すっきりとした甘さで評判を呼んでいます。
先代店主がつくった模型や雑貨が並ぶ喫茶部は、レトロな趣きでゆったりとした時間が流れています。3世代にわたって訪れる常連客、神田明神へのお参りがてら訪れる女性客、海外からやってくる観光客と、幅広いお客さんのくつろぎの場になっているそう。
喫茶メニューの中で、夏の名物といえるのが氷甘酒。ふわふわの氷の下にたっぷりの甘酒が満たされている、「天野屋」ならではのかき氷です。さくさくと氷を崩して甘酒と混ぜながら頬張ると、冷たい氷と米糀の甘み、香りが混ざり合って絶品。夏の暑さを忘れて、身体にやさしく染み渡ります。
もちろん甘酒も人気メニュー。栄養豊富で、夏バテ防止にもぴったりです。温かいものと冷たいものから選ぶことができ、どちらにも根強いファンがいるとのこと。自家製の田楽味噌をのせたおでんとのセットも、箸が止まらなくなる組み合わせで人気です。
喫茶に併設する売店では、お土産用の商品も販売されています。最近は自然食ブームにより、生糀を買い求める人も多いとのこと。
「味噌、甘酒、塩麹、醤油麹など、糀でいろいろ作れます。作り方がわからなければ、レシピもお渡ししますよ」と天野さん。もっと気軽に甘酒を楽しみたい人には、パック入りの甘酒もおすすめです。
「甘酒の素1、水2の割合です。水が沸騰したら、甘酒の素を加えて混ぜます。塩をほんの少し加えると、甘みが引き立っておいしくなります。すぐに飲みたい人には、ストレート甘酒がおすすめ。添加物を一切使っていないので、開発には10年もかかってしまいました。ストレート甘酒は冷凍してシャーベットにしても。お風呂上がりに食べるとおいしいです」
甘酒はそのまま飲む以外に、調味料としても使うことができます。
「昔から甘酒はお砂糖代わりに使われていました。卵焼きに入れるとふわっとしておいしいですし、肉じゃがや煮物、カレーの隠し味として入れるのもおすすめです」
一家総出で店を切り盛りし、江戸時代から土室を守ってきた「天野屋」。これからも今まで同様、店を守っていきたいと天野さんは語ってくれました。
「うちでできる範囲内で、これからも店を守っていきたい。機械を入れたり、手を広げてしまうと、味のクオリティも下がってしまいます。一度、味が変わってしまうと元に戻すのは大変。口に入るものだからこそ、気をつけていきたいですね」