受け継がれた技と新風が交わる食の舞台、新島へ

vol.3 食卓を彩る
オリーブグリーンの器が生まれる場所、
「新島ガラスアートセンター」へ

2024/10/24

vol.3  食卓を彩るオリーブグリーンの器が生まれる場所、「新島ガラスアートセンター」へ
vol.3  食卓を彩るオリーブグリーンの器が生まれる場所、「新島ガラスアートセンター」へ

「新島ガラスアートセンター」は、世界で唯一、火山性のコーガ石から深いオリーブグリーンのガラスを生み出す場所です。1988年、新島村の施設として 野田收・由美子夫妻と新島村(や東京都の行政支援)によって(新島の新たな文化・産業・人材育成の新島村の施設として)設立され、以来、ガラス芸術の新たな可能性を探求し続けています。ここで毎年開催される国際ガラスアートフェスティバルは、世界中からアーティストを集め、ガラス芸術の発展と交流の場としても注目されています。そんな世界が注目する、魅力溢れるセンターを訪ねました。

コーガ石との出会いと
新島ガラスの誕生

新島港に到着し、市街地とは反対の南に向かって車を走らせると、海沿いに「新島ガラスアートセンター」が見えてきます。アーチ状の屋根が特徴的なこの建物には、コーガ石が使用されており、その存在感を放っています。

手前の建物が「新島ガラスアートセンター」。奥に見えるのが、現在改修を控える「新島ガラスアートミュージアム」。

センター内で出迎えてくれたのは、ガラス作家の野田收さんと由美子さん夫妻。お二人は、多摩美術大学で出会い、卒業後はアメリカでガラス技術を学んだ後、新島に戻ってきました。

「最初は新島に永住するつもりはなかったんです」と由美子さんは振り返ります。しかし、新島にしか存在しないコーガ石との出会いが、二人の決断を後押ししました。

ガラス作家の野田收さんと由美子夫妻。收さんは新島出身。

火山島でもある新島で採れるコーガ石は、もともと地元の建築資材として使われていた資源ですが、時代とともに需要が減少していました。しかし、役場がこの石の成分に注目し、試験場で分析したところ、ガラス質が8割以上を占めることが分かったのです。そこで白羽の矢が立ったのが、新島出身でガラス作家として活躍していた收さんでした。相談を受けた二人は、新しい挑戦として、このコーガ石を使ったガラス制作を手探りのなかで開始しました。

アートセンターからの眺め。窓の前には美しい海原が広がる

コーガ石が生む
新島ガラスの特異な美しさ

コーガ石を原料にすることで誕生した新島ガラスは、他のガラスにはない独特のオリーブグリーンの色合いを持っています。この美しい色は、コーガ石に含まれる鉄分が発色するもので、自然が生み出した奇跡ともいえる美しさです。

ただし、この石をガラスにするには、通常よりも高温で溶かす必要があり、作業時間も短いため高度な技術が求められました。それでも、野田夫妻は他にない美しさを追求し、世界で唯一の「新島ガラス」を生み出したのです。

柔らかなオリーブグリーンは自然が生み出した色。

館内には、食器、花器、オブジェなど、さまざまな作品が並ぶ。

「コーガ石は、それまでの工業用ガラスとは全く異なる性質を持った初めての素材でした。とにかく扱いにくくてびっくりしたのを覚えています」と由美子さん。

「それでもなんとか形にした完成品を見たとき、そのオリーブグリーンの美しさや、光を美しく通すガラスの質の高さに感動しました。固くて扱いにくいというマイナス面も、逆にそれがこのガラスの特徴になったのです。島には新しい産業を作りたいという期待もありましたし、先駆者がいない分、自分たちで一つひとつ形にしていくしかない、という思いでしたね」と收さんは振り返ります。

今や、島内のお土産店や居酒屋など、至るところで目にすることができる「新島ガラス」。その技術は、野田夫妻がゼロから二人三脚で築き上げたものでした。

一段と熱い真夏の工房。1400度で溶かしたガラスで作品を製作する由美子さん。

ガラス工芸の未来を切り拓くイベント
新島国際ガラスアートフェスティバル

「新島ガラスアートセンター」は、ガラス製品の製造にとどまらず、地域社会の活性化や国際交流にも取り組んでいます。その象徴が、毎年開催される「新島国際ガラスアートフェスティバル」です。1988年にスタートしたこのフェスティバルには、世界中からガラス作家が集まり、ワークショップや展示会を通じて技術と文化の交流が行われます。

「その発端は、アメリカの留学時代に参加したピルチャックガラススクールでの経験でした。アメリカでは、すべてが開かれていて、世界中の人々がノウハウを共有することでより豊かな文化が生まれる様子を目の当たりにしました。しかし、当時の日本のガラス業界は技術を外に出さない閉鎖的なものでした。それなら、新島から変えてみようと思ったのです。声をかけると、世界中から多くの仲間が協力してくれました。著名な作家によるレクチャーやデモンストレーションも行われ、最先端の技術や歴史を学ぶ貴重な機会を提供する場づくりが実現しました」

2024年に35回を迎えた「新島国際ガラスアートフェスティバル」。新島は今や、ガラス工芸の国際的な交差点としてのブランドを確立し、地域社会と世界を結びつける架け橋として、これからも多くの人々に感動と刺激を与え、インスピレーションを広め続けることでしょう。

新島ガラスを次世代へ

古来から人々の暮らしを支えてきたコーガ石を、野田夫妻はガラスという身近な存在に生まれ変わらせ、さらに、国際的にも価値のあるものへと変換させました。現在は、後継者の育成にも力を注いでおり、「新島ガラスアートセンター」では常時45人の若いスタッフがともに活動をしています。

「新島ガラスを広く知ってもらうと同時に、私たちが多くの先人たちから教えてもらった技術や経験を、次世代に引き継ぐことも私たちの役目だと思っています」

工房でも制作を行うスタッフのみなさん。

また、夫妻は新島ガラスの新しいシンボルとして「りんごのオブジェ」にも注目しています。

「りんごのオブジェは、新島ガラスセンターの代表作のひとつで、観光客にも人気があります。その透き通った緑色と独特の光の反射が特徴です。今、考えているのは、観光客がこのオブジェと新島の風景を一緒に撮影し、SNSでシェアしてもらうこと。ガラスを通して見える、新島の美しい魅力を広めるきっかけになれたら嬉しいですね」

新島ガラスのりんごと、新島の海。

新島ガラスは、単なる工芸品ではなく、新島の自然と文化、そしてそこに込められた人々の想いが形になった、島の象徴です。野田夫妻の手によって生み出されたこの美しいガラスは、次世代へと引き継がれ、これからもさらなる発展を遂げていくことでしょう。

工房にて。

新島ガラスアートセンター

新島ガラスアートセンター

住所:
東京都新島村間々下海岸通り
TEL:
04992-5-1540
開館:
10:00〜16:30
定休日:
火曜日
URL:
https://shimajiman.com/

●新島へのアクセス

東京竹芝桟橋から高速ジェット船で2時間20分、または夜行大型客船で8時間30分。
その他、神奈川県久里浜港、静岡県下田港からの船便もあり。

東海汽船 TEL:03-5472-9999 または 0570-005710

URL:https://www.tokaikisen.co.jp/

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