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おいしく長寿。魅惑の発酵王国NAGANO
日本古来の知恵、「麹」の魅力を
リブランディングして発信中!
2024/11/14
日本古来の知恵、「麹」の魅力をリブランディングして発信中!
おいしく長寿。魅惑の発酵王国NAGANO
2024/11/14
長野市の北東部にある地区・柳原。長野駅からはやや離れた住宅街の一角に、こぢんまりとしたショップがあります。ロゴが入った木の看板、ナチュラルでおしゃれなイメージの外観は、一見すると雑貨屋さんかカフェのよう。中に入ると棚には、塩麹や味噌などの商品が並んでいます。こちらは江戸時代後期頃から続く麹屋「西麹屋本舗(にしこうじやほんぽ)」の6代目夫妻が立ちあげたアンテナショップ「こうじ専門店24 koujiya」です。自蔵で造られた麹を使った発酵調味料や甘酒ドリンクを販売しています。伝統的な手法で麹造りを行いながら、令和2年(2020年)から新しいブランドを立ち上げた、西澤義弘(にしざわ よしひろ)さん真澄(ますみ)さんご夫妻にお話を伺いました。
西澤さんご夫妻が、アンテナショップを開店し、オリジナルブランド、24koujiya(にしこうじや)を展開し始めたのは、2020年のこと。
「うちは、昔から卸しをメインにしているのですが、蔵の入口で『麹1枚ください』と、買いに来られるお客様も多かったんです。1枚というのは室蓋(むろぶた/麹を育てる平たい木箱)のことで、箱1枚分が約1㎏なんですね。いらっしゃる方のほとんどは麹を使ってご自身で味噌や甘酒を手作りされる方でした。そのため、お店があればもっとお客様が買いやすくなるのに、とは思っていました。また、駐車場もなかったのでいろいろ不便だったんです。そんなとき、たまたま蔵の前のこちらの土地が空いたんです。駐車場も造れるし、以前『善光寺びんずる市』(4月~11月の第2土曜日に善光寺境内で開催されるマルシェ)に1年間、手作りの甘酒や塩麹の店を出店していたこともあり、その経験も活かして、蔵のオリジナル商品を扱うアンテナショップを開店しようと思ったんです」(真澄さん)
店内には麹を使った24koujiyaオリジナルの発酵調味料や味噌をはじめ、キッチン道具やショップバッグといった雑貨も置かれています。
また、店内で飲めてテイクアウトもできるドリンクコーナーもあり、甘酒ドリンクが楽しめます。商品のパッケージも、ロゴをあしらったシンプルなデザインで、古くから続く蔵という重々しいイメージは感じられません。
「やはり若い人にも来ていただきたかったのと、麹や味噌に興味がない方でもちょっと入ってみたくなるお店にしたかったんです。パッケージのデザインにこだわったのも、家のキッチンに置いてときめくものにしたかったし、手土産やギフトとしても使えるようにしたかったから。もちろん昔からのもので残したい部分もありました。西麹屋本舗の屋号は『ヤママス』といい、屋号のロゴは山に枡(ます)がデザインされているのですが、新しいロゴはそれをもじって、山と室蓋をモチーフにデザインしていただきました。24koujiyaと数字、アルファベットにしたのは、インパクトがあって覚えやすいことに加え『24時間、いつも麹と共に』という意味を込めました。」
令和4年(2022年)に父・弘智(ひろとし)さんが西麹屋本舗の会長職に退いたことで、6代目の蔵元となられた義弘さん。
「家族経営の小さな蔵で、祖父、父の働く姿を見ながら育ち、子どもの頃から家業の手伝いをしていたので、後継ぎになるのはごく自然な流れでした」
現在は、ご夫妻と義弘さんのご両親の4人で麹造りをされています。お二人が結婚されたのは平成23年(2011年)。結婚と同時に家族の中に入り、麹造りを手伝い始めたという真澄さん。実はそれまで西麹屋本舗は味噌だけを売っていると思っていたそうです。
「そもそも麹が何なのか知りませんでした。最初に白くてもこもこした物体が『麹』だと知ったときには、見たこともないので本当にびっくりしました。でも麹が味噌や醤油、甘酒、日本酒といった発酵食品を造る際にとても大切な物であることを知り、自分でも扱っていくうちにだんだん愛おしくなっていきました」
麹は、蒸した米や麦などに麹菌(こうじきん)をつけて、繁殖させたものをいいます。米に麹菌を繁殖させると「米麹」。大豆だと「豆麹」になります。西麹屋本舗の蔵に伺うと、まず目に飛び込んできたのは大きな木製の桶。一体、麹はどんな風に造られるのでしょうか。義弘さんに教えていただきました。
「これは、甑(こしき)といって米を蒸す大きなせいろのようなものです。下からは蒸気が出るようになっています。米麹の場合は120~150㎏の米を一度に蒸します。大きな工場などでは、ステンレスやアルミの蒸米機を使うところが多く、うちのように木製の甑を使うところは非常に少ないです。木の良いところは蒸した米の水分量をうまく調整できるところです。金属だと表面が結露して米がやわらかくなり過ぎることもありますから。
蒸した後の米は、適度に冷ましてから麹菌を加えます。それを床(とこ)と呼んでいる大きな入れ物に移し一晩寝かせます。すると麹菌がまわって米が固まった状態になるので、翌朝4時か5時頃から手でよくほぐしてから室蓋に盛り分けます。
室蓋1枚あたり約1㎏で、全部で120~150枚くらいになります。これを室(むろ/麹を育てるための小さい部屋)に運んで棚に並べます。
そこでさらに一晩寝かして麹を育てていきます。この間、室の中の温度や湿度の管理にはとても気を使います。その時々の自分の感覚で、天窓の開け具合を加減したり、ストーブを焚いたり、乾燥しないように室の中にお湯をまいたり。麹にちょうどいい温度や湿度に調整するんです。祖父や父は当たり前のようにやっていたので、僕も同じように覚えました。いまは、機械で管理する所がほとんどです。人の体感で行うのは少々原始的かもしれませんが、長くやっているとわかってくるんですね。例えば温度計を置いたとしても、その周囲の温度しかわからないじゃないですか。やはり上の方は温度が高いし下の方は低いので、室蓋の位置を入れ替えたりして、こまめに世話をしています」
麹の仕込みにかかる日数は丸3日間、他の日には味噌の仕込みや他の製品造りなども行っているそうです。
「味噌造りは祖父の時から始めたのですが、その頃は味噌の需要がかなりあったんです。そのためうちを味噌屋だと思っている方も多いんです。家業を継いだのはいいけれど、麹や味噌の卸だけでは続かなそうだし、僕の代で終わりかもしれないと思っていたのは事実です。僕一人でしたら、ショップを開店するような思い切った展開はできなかったでしょう。これも、妻が家業に加わってくれたおかげだと思っています」
淡々と麹や味噌造りを続けてきた蔵の日常に、異変が起きたのは、真澄さんが蔵の手伝いを始めて間もない頃。2011年頃から始まった「塩麹ブーム」です。これはある老舗麹屋の女将さんが江戸時代に書かれた書物の中にあった「塩麹」を復活させ、広めたことに端を発します。塩麹とそのブーム時の様子について真澄さんに尋ねると、
「塩麹とは、米麹と塩、水を合わせて1日1回かき混ぜながら10日程熟成させるとできる発酵調味料のことです。麹はかんたんにいえば『分解屋』で、でんぷんやたんぱく質、脂質などを分解する酵素が豊富に含まれているんです。酵素は、その働きによって食材のうま味を引き出します。また、食材をやわらかくしたり、中まで味を浸透させるので、塩麹を使うことで料理がおいしくなるんですね。加えて健康にも良い万能調味料として、にわかに注目されたんです。その影響で問屋さんからの注文が一気に10倍くらいになってしまうという怒涛の日々が始まりました。家族全員がフル回転していて、私もちょうどお腹に子供がいるときで毎朝暗いうちから仕事を始めるのがきつかったですね。子育ての時期になっても依然として大変だったので、ブームは2年くらい続いたと思います。いまは落ち着いていますが、ブーム前より麹の認知度が高まり、塩麹などの発酵調味料が市場に定着したと思います」
塩麹ブームは心身の限界を超えるものがあったそうですが、真澄さんに「麹についてもっと知りたい」という気持ちを喚起させたといいます。
「その頃、家族全員のご飯を毎日作るのが日課だったのですが、空いた時間に図書館に通い本を借りまくって、麹のことや発酵調味料についてたくさん勉強したんです。元々伝統食に興味はあったのですが、調べていくうちに麹は体にとても良いこともわかり、子どもができたことで食生活を見直したい気持ちもあり、どんどんのめり込みました。知識だけでなく自分も作ってみたいと思い、失敗しながらも塩麹や醤油麹などを作り、それらを料理に使うようになりました。わが家は1日3回、ほぼ毎食、味噌汁にご飯とおかずなんです。家族はあまり新しい味を受け入れないところがあったので、たとえば素知らぬ顔で、味付けに、商品候補だった、『塩こうじ』を使った卵焼きを出してみたり、『バジル塩こうじ』で味付けをして焼いた魚を出してみたんですよ。そこで拒絶されずに『おいしいね』といわれたものを商品化していった感じですね」
麹の特徴である豊富な酵素ですが、人の体内には元々、食べ物を消化・吸収しやすくする『消化酵素』と、免疫力や自然治癒力を高める『代謝酵素』があります。これらの働きは加齢とともに減退していきます。発酵食品が体に良いとされる理由の一つには、体内の酵素の働きを補う力があるためで、それが腸活や免疫力アップへとつながるといわれています(参考:発酵文化推進機構web)。そんな発酵食品の中で、ブームとともに注目されたのが、麹から造られる塩麹などの発酵調味料だったのです。
24koujiyaの店頭には塩麹をはじめいろいろな種類の発酵調味料が並んでいます。そんな発酵調味料を毎日の献立の中でどんな風に取り入れたら良いのでしょうか。真澄さんに教えていただきました。
「まずは、卵焼きに塩麹、卵かけごはんや目玉焼きに醤油麹、ヨーグルトに甘麹といった具合に、いつもの調味料から置き変えてみるといいと思います。いつもと食感が変わったり、うま味がプラスされますよ。
簡単なものだと、きゅうりを乱切りにして塩麹で和えたり、アボカドに醤油麹をかけたりするだけでもいままでと違ったおいしさになります。ドレッシングとして使うなら、塩麹、ビネガー、オリーブオイルを混ぜるだけ。実は、うま味が2倍くらいにはなるので、使う量も少しで済み、そのため塩分も抑えられるんです。これが麹のいいところだと思います。ほかにも、市販のソースやタレの代りに使うのも良いですね。当社商品を使う場合でしたら、『バジル塩こうじ』や『とまと塩こうじ』をパスタの味付けに使ったり、『塩こうじ』や『玉ねぎ塩こうじ』にごま油を加えて冷しゃぶのタレにしたりですね。
また、発酵調味料はたんぱく質を分解する力が強いので、肉などの下味にはもってこいです。ステーキや焼肉では、あらかじめ肉に揉みこんでおくと、肉の臭みが消えて、焼くとやわらかくおいしく仕上がるんです。唐揚げの鶏肉にも揉みこんでおくと全然違いますね。スクランブルエッグやオムレツでは、卵液に塩麹を少量混ぜてから焼くと、焼き上がりがふんわりとします」
また、西澤さんのお宅ではちょっと変わった食べ方も。
「うちではお刺身も醤油麹とわさびで食べています。白身魚だったら、お刺身に対して10%くらいの塩麹をまぶしておいて、ごま油を回しかけ大葉を刻んでのせるとおいしいです。また、残ったお刺身も醤油麹に漬けて少しおくといい感じの漬けになりますよ」
用途はいろいろ、使い方はアイデア次第のようです。健康効果も期待できる麹の発酵調味料。まずはいつもの身近な料理で、麹が創るおいしい世界を味わいたいですね。
西澤 義弘(にしざわ よしひろ)さん
西麹屋本舗6代目。代表取締社長。1986年生まれ。長野県長野市出身。大学卒業後1年間長野県工業技術総合センターで研修を受け、2008年(有)西麹屋本舗入社。2022年より代表取締役社長に就任。「趣味は、バイク・自転車・キャンプなどで、意外とアウトドア派です」
西澤真澄(にしざわ ますみ)さん
24koujiya代表。1982年生まれ。長野県千曲市出身。2011年に西麹屋本舗に嫁ぐ。
2017年に、オンラインショップを立ち上げ、2020年にこうじ専門店24koujiyaを開店する。2024年に2号店「貞蔵甘酒 TEIZO AMAZAKE」を長野市大門町に開店。「大切な人たちとおいしく食べて、おいしく飲む時間が好き」