発酵を訪ねる
海街の糀屋の春夏秋冬
糀調味料を用いて、秋の食卓を彩る
2024/12/05
発酵を訪ねる
2024/12/05
少しずつ秋の気配を感じるようになった10月のある日、神奈川県茅ヶ崎市にある糀屋「米の花」を再び訪れました。糀づくりを行っている熊澤弘之さんの奥様 熊澤裕美子さんに、熊澤家の定番である糀の調味料のお話を聞くためです。裕美子さんは、弘之さんが糀屋を始める以前から糀を使って料理をはじめ、今ではおふたりが運営する暮らしを育てる農園『RIVENDEL』で糀調味料づくりのワークショップも行っています。今回は、玉ねぎ糀のつくり方や糀調味料の使い方について伺いました。
熊澤家の畑は、季節ごとにさまざまな野菜や果物が実ります。私たちが訪れたのは、ちょうど栗のイガが弾け、赤いザクロが実をつける頃でした。秋風が吹くのが通年よりも遅い今年ですが、徐々に柿の実も鮮やかに色づき始めています。
「一年を通して旬の野菜や果物をいただけるのはとてもうれしいですね」と、熊澤裕美子さん。一方で、一度に同じ野菜や果物が手に入るため、おいしいうちに一気に調理をする工夫も必要だと笑います。そんな熊澤家の定番料理が、糀の調味料を使ってシンプルに仕上げたスープ。この日は、かぼちゃのポタージュスープをつくって来てくださいました。
「かぼちゃがたくさん穫れる季節、このポタージュスープは頻繁に食卓に登場します。かぼちゃ以外にも、カブや人参、さつまいもなど、さまざまな野菜を用いたポタージュスープをよくつくりますね。夏は冷やして、冬は温めて、1年を通しておいしく食べることができます」
熊澤家のポタージュスープの味の決め手となるのが玉ねぎ糀です。
玉ねぎ糀のつくり方を教えていただきました。
「かぼちゃのポタージュスープは、皮がついたままのかぼちゃを蒸すか、電子レンジなどでやわらかくして潰します。そこに無調整豆乳を加えてお好みの濃度になるまでのばし、玉ねぎ糀で味付けをします。無調整豆乳の代わりに、牛乳や生クリームを用いてもおいしいですよ。かぼちゃが1/4サイズくらいであれば、玉ねぎ糀を約大さじ2杯加えています。」
さらに、仕上げにオリーブオイルを少しだけ垂らすと、風味がアップしますと裕美子さん。
「息子は、サラダなどの野菜は率先して食べないので、季節の野菜スープをつくったら、食卓にドーンと出すんです。簡単につくれて、野菜を丸ごと食べることができるし、栄養価も高いので、子どもたちにも積極的に食べてほしいお料理ですね」
実は、こうした糀調味料を日常的に使うようになって、裕美子さん自身の体の調子も整うようになったそうです。
「もともと私はとても冷え性で、夫や子どもたちが薄着の日も私だけはダウンジャケットを羽織り、季節の変わり目には必ず風邪をひいていました。肩こりなどを緩和するための湿布も、いつも貼っていました。でも糀調味料を使い、食生活が変わったことで、いつの間にか少しずつ体調が改善。気がついたらぜんぜん風邪をひかなくなりました」
いつも手づくりして常備しているのは、塩糀、醤油糀、玉ねぎ糀。それから、味噌と甘酒も欠かすことはありませんと、裕美子さん。ご主人の弘之さんが茅ヶ崎市で糀屋を営む以前から糀の調味料に親しんできました。
「私が塩糀を使い始めたのは、料理本や料理番組などで、塩糀が盛んに取り上げられた頃。私もその話題性から塩糀に関心を持って、からあげの下味に用いたりしていました。その後、徐々に塩糀だけでなく、醤油糀、玉ねぎ糀の魅力に気づき、日々の料理に使うようになったんです」
その後、弘之さんが糀屋さんを始め、糀は熊澤家にとってさらに身近なものになっていきました。糀を用いた調味料は一年を通してつくり、ほぼすべての料理に味噌または、3種の糀調味料を使っているそうです。
(※塩糀・醤油糀のつくり方:「糀の調味料を手作りしてみよう」)
「玉ねぎ糀と同じつくり方で、玉ねぎに加えてセロリや人参を用いると、巷で『コンソメ糀』と言われる調味料ができますし、玉ねぎを長ネギに置き換えてつくると『中華糀』になります。玉ねぎ糀に、にんにくなどを入れてアレンジする方も多いようです。ただ、わが家ではいろいろ試した結果、基本の玉ねぎ糀に落ち着きました。玉ねぎ糀はいろいろな料理と相性がよいので使いやすく、風味を変える際には、料理自体にセロリを用いたり、にんにくを加えたりしています」
「糀調味料の魅力はいろいろありますが、中でも糀の力によって複雑な味わいになるのがうれしいポイントです。いくつもの調味料を組み合わせなくても、これだけで旨みやコクが増しておいしくなるんです。例えば、ホワイトソースをつくる際も、玉ねぎ糀で味を付けるとすごくコクが出ます。濃厚な生クリームを使わなくても、豆乳にバターを少し加えて玉ねぎ糀で味付けすれば、おいしいホワイトソースに仕上がりますよ。ホワイトソースが簡単に家でできると、ドリアなどの料理も手軽にできて便利です」
玉ねぎ糀に醤油糀や塩糀を組み合わせるのもとてもおすすめですと、おふたり。例えば、ドレッシングやタレをつくる際にとても重宝するそうです。
「私がよくつくるのは、玉ねぎ糀と醤油糀、お酢、ごま油でつくる中華ドレッシング。さらに中華っぽくアレンジしたいときは、にんにくや生姜のみじん切りを加えます。油淋鶏のタレにしたり、冷しゃぶの上からかけたり、お肉との相性もいいので、子どもたちも大好きですね」
その言葉に、弘之さんも続きます。
「玉ねぎ糀と塩糀とオリーブオイルのドレッシングも好きですね。玉ねぎ糀だけだと甘くなりすぎてしまうのですが、塩糀と合わせると何にでも合うんです。ここにレモンを加えてもおいしいです。サラダにも、お肉のソテーにもぴったりですよ」
ただ塩味が加わるのではなく糀によって複雑な味わいとコクが生まれ、野菜や肉の旨みが引き立ち、簡単に“ごちそう”に仕上がると、おふたり。
また、秋になると醤油糀が活躍するそうです。
「例えば、秋になると炊き込みご飯をつくりたくなりませんか? わが家も秋になると急につくったりします(笑)。わが家のように年に1度か2度しかつくらないという場合、醤油、お酒…と、調味料を調整して、好みの味に仕上がったかどうか、炊きあがってみるまで不安ってことも多いと思うんです。でも、醤油糀があれば味付けがとても簡単です」
醤油糀は醤油の塩味に加えて甘みがあり、お酒やみりんの代わりになるような発酵調味料特有の風味も持っています。そのため、炊き込みご飯をつくる際も、調味料は醤油糀だけでおいしく仕上がるそうです。
「うちでは、『きのこの炊き込みごはん』や『鮭の炊き込みご飯』、『油揚げとツナ缶と生姜の炊き込みご飯』などをつくることが多いです。具材とお米を入れて、醤油糀をお米1合につき、大さじ1杯ほど加えます。3合のお米なら大さじ3杯。大さじ3杯って多いかなって思う方もいらっしゃるかもしれませんが、醤油を大さじ3杯入れるのではなくて、糀の力が働いているので、それほど塩辛くなることはありませんよ」
さらに、醤油糀は炒め物にも重宝するそうです。
「鶏のてりやきや豚の生姜焼きをつくる際にも醤油糀は便利ですね。いろいろ調味料を使わなくても、醤油糀があれば味がきまります。また、豚肉を炒める際、醤油糀だけでも十分おいしいんですけど、玉ねぎ糀を加えるとさらにおいしくなります。甘さやコクが足され旨みも加わるので、醤油糀+玉ねぎ糀だけで十分においしい一品が出来上がるんです」
調味料を手づくりするというと、難しいと感じたり、手間がかかりすぎるのでは?と感じる方もいらっしゃるかもしれません。でも、忙しい人やお料理が得意でないという人ほどおすすめしたいと裕美子さんは言います。
「糀調味料って、つくってみると意外に簡単です。ある程度つくっておけば冷蔵庫で保管できますし、調味料をいろいろ使わなくても旨みがしっかり出るから、なんだかお料理上手な感じに仕上がります。使い方は、いつも塩や醤油を使うところを塩糀・醤油糀に置き換えたり、コンソメの代わりに玉ねぎ糀を使うだけ。添加物などが入らず、自然な味に仕上がるのもいい点です」
そのお料理のためだけに用いる専用調味料などもあまり買わなくなり、塩糀、醤油糀、玉ねぎ糀があれば、さまざまな調味料を代用できると考えるようになったそうです。
「糀調味料があれば、和洋中どの料理にも応用できます。アレンジも簡単で、糀調味料の種類を選んだら、使う油をごま油にするかオリーブオイルにするか、にんにくや鷹の爪を入れるのか入れないのか調整するだけで、風味を変えることができます。いろいろと組み合わせて、ご自身の好みの味を見つけてもらえたらいいですね」
今年から糀とそら豆を用いて豆板醤づくりも始めたという熊澤家。季節の野菜と糀の力を存分に活かした料理が、今日も熊澤家の食卓を彩っています。
糀、塩糀、⽢酒を製造販売。
味噌、醤づくりも予約制で随時開催