発酵を訪ねる

発酵文化を根本から支える。
京都の老舗「菱六もやし」が守り続ける種麹とは?

2025/01/09

発酵文化を根本から支える。京都の老舗「菱六もやし」が守り続ける種麹とは?
発酵文化を根本から支える。京都の老舗「菱六もやし」が守り続ける種麹とは?

味噌、醤油、みりん、日本酒、焼酎など、私たちの暮らしに馴染み深い発酵食品。これらの発酵食品を作る際には麹が欠かせませんが、麹のもとはどこで作られているのかご存知でしょうか? 今回は京都で300年以上にわたって種麹屋を営んでいる「菱六もやし」を訪ね、代表・助野彰彦さんにお話を伺いました。

醸造メーカーに卸す、種麹を作る重要な仕事。

京都・東山の六波羅蜜寺のほど近くにある「菱六もやし」。創業300年以上という老舗で、京都で唯一の種麹屋です。

種麹とは麹菌を培養した、麹づくりに必須の原料。文字通り、麹の種になり、別名「もやし」と呼ばれています。「菱六もやし」では現在、約2000社の味噌、醤油、みりん、日本酒、酢といった醸造メーカーに種麹を卸しています。種麹屋は日本の発酵文化の根幹を支える重要な仕事を担っているのです。

代表の助野彰彦さん。早稲田大学卒業後に東京農業大学短期大学部醸造学科で学び、家業を継いだ。

「もやしという言葉については、平安時代に書かれた法令集『延喜式』に、よねのもやしという記述が残っています。お米に緑色のふわふわが生えているものを指し、これが今でいう麹や種麹。それがいつの間にか、もやしと呼ばれるようになったようです。もやし屋の成り立ちについては、平安時代の終わりごろ、麹座が誕生し、許可された業者が独占的に麹の製造と販売を行っていました。室町幕府の4代将軍・足利義持の時代には京都に350軒くらいの酒蔵があり、麹座から麹を買っていた。けれど、自分たちで麹を作る酒蔵が出てきたことで、最終的に麹座が崩壊。麹座の一部の人が、仕方なく麹のもとになる種麹を売るようになったのではないかと考えています。」

年季の入った看板には菱六のマークとともに、麹種もやしと書かれている。

「菱六もやし」の創業時期は不明で、助野さんも何代目なのかわからないとのこと。

「もやし屋は作り方も口伝で、あまり書き物を残す習慣がありません。ただ、同業者の書物にうちの名前が出てきたのが、明和六年(1769年)。『菱六は世の中の流行りを追いかけて、すぐに新商品を出すけれど、たいてい失敗する。自分のところは今ある商品をしっかり作るように』と、反面教師みたいなことが書かれていたんです(笑)。それを根拠に、300年以上続いていると言っています」

昭和初期には数十軒あった種麹屋も、跡継ぎの不在や設備の都合など様々な要因によって、現在は全国で10軒ほど。「菱六もやし」は京都で唯一残る種麹屋となっています。

取引先の要望に合った種麹を販売。

種麹を作る工程は、削った玄米を蒸してから麹菌の原菌を振りかけて、麹菌が好む温度と湿度をコントロール。約120時間培養して胞子を育て、出来上がったものを乾燥。用途によって菌は異なり、菌の胞子によって色も異なります。

白色は味噌や甘酒、緑色は酒やみりん、黒色は泡盛、茶色は焼酎に使われる。

「胞子がたくさんついているのが良い種麹。麹菌の原菌は代々植え継いできたものです。昔は曖昧な部分も多かったのですが、今は顕微鏡やクリーンベンチなど実験器具の利用で菌の分離ができる。基本的に米に1種類の菌の胞子が生えるように作っています。商品によって麹菌をブレンドすることも」と助野さん。カタログに掲載している約40種類の商品をベースに、メーカーや蔵の要望に合わせた専用菌も用意。

商品の一部。手前にある「白夜」が最も新しく開発した種麹。きれいな甘みのある日本酒に仕上がると好評。

「種麹屋の仕事としては、今はお客さまの相談に乗ることが一番大事かもしれませんね。やり取りをして、『明らかに酒が変わった』『金賞が取れるようになった』と言われると、やりがいがあるというか、せやろって思います(笑)。今後については、今あるベースをちゃんと守っていければ。僕らの世界は関与する微生物が多いし、例えば使う米だって毎年変わるわけで、不確定要素も多い。研究を重ねて、種麹を作る精度をもっと上げていきたいです」

ワークショップを開催するなど、麹について発信する活動も行っている助野さん。

また、発酵文化を支える種麹屋として、課題に感じているのは麹の認知度。

「発酵食品ブームで興味を持つ人は増えているものの、とはいえ一般的に麹に出会う機会って少ないですよね。味噌や醤油は馴染みがあっても、その手前の麹までは知らない。だからこそ、ワークショップを開催したり、取材を受けたりしています。話を聞きたいという方が来た際は、ほとんど断ることはありません」

数年前からは年に数回、麹づくりのワークショップを開催しています。市販されている発酵器やせいろを使った麹づくりをはじめ、菱六の製造現場の見学、麹についての講義など、盛りだくさんな内容を3日間にわたって学ぶことができます。すぐに定員が埋まる人気ぶりで、海外からやってくる人も。自分で麹を作ってみたい人は、参加してみてはいかがでしょうか。

甘酒や塩麹が手軽に作れる米麹パウダー。

「菱六もやし」のオンラインショップでは、家庭向けの商品も販売中。種麹や乾燥米麹の他、乾燥米麹をパウダー状に加工した「米麹パウダー」は隠れた人気商品です。

白色胞子の麹菌で製造した種麹。甘酒や味噌に向いている。

大容量サイズの米麹パウダー。小麦粉や米粉と混ぜると、麹菌酵素の働きで生地がしっとり変化。

「米麹パウダーは、もともと胃腸薬から発想を得て作ったもの。パンを焼く時に、小麦粉の5%くらいをパウダーに入れ替えると、生地がきめ細かくしっとり焼き上がるので、使っているパン屋さんもあります。ミニサイズもあって、京都のお土産や発酵好きの人へのお土産にする人も多いです」

米麹パウダーを使って、粒のない塩麹を作ることも。乾燥米麹で作ると通常10日ほど熟成させる必要がありますが、米麹パウダーなら仕込んだ翌日には出来上がり。甘酒もさらさらのソース状となり、粒が苦手な人におすすめ。肉にまぶすとやわらかくジューシーに仕上がるなど、様々な使い方ができます。

「僕はいつも昼ご飯の時に、お椀に安いチューブの味噌とお湯を入れた後、飲める程度に冷ましてから、小さじ1杯の米麹パウダーを入れます。生味噌のように美味しくなるのでおすすめです」

菱六もやし

菱六もやし

住所:
京都府京都市東山区轆轤町79番地
TEL:
075-541-4141
営業時間:
9:00~17:00
定休日:
土・日曜
URL:
https://1469.stores.jp/

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