発酵を訪ねる

納豆が苦手な人まで虜にする!
「らくだ坂納豆工房」のクラフト納豆って?

2025/01/16

栄養豊富で腸内環境を整えると言われている納豆。美容や健康のために毎日の食事に取り入れる人が多い一方で、ニオイや独特の風味が苦手な方も。
そんな中、大豆の甘みや旨みが堪能できておいしい! と話題になっているのが、「らくだ坂納豆工房」の谷町納豆。稲ワラに住む天然の納豆菌と国産大豆にこだわった納豆づくりに情熱を注いでいる、店主の伊戸川浩一さんに話を伺いました。

納豆料理が評判を呼び、
新しい挑戦へ。

大阪城のお膝元・谷町の住宅街の一角に佇む「らくだ坂納豆工房」。20215月に創業した、大阪市内では唯一の納豆メーカーです。代表の伊戸川浩一さんは、もともと日本酒に特化した人気居酒屋「味酒(うまざけ) かむなび」 を10数年にわたって営んでいました。

代表の伊戸川浩一さん。伊戸川さん夫妻とスタッフ2名で工房を切り盛りしている。

「様々な発酵食品にチャレンジしていた中で、納豆を作り始めたきっかけは、お店の常連だった俳優・志賀廣太郎さんの『大豆とワラがあれば、納豆は簡単に作れるよ』という一言でした。工程自体は簡単なのに、おいしく出来上がるところに惹かれて、20年以上作り続けてきました」

自家製の納豆を使った料理はお店の看板メニューに。「納豆は苦手だけど、かむなびの納豆だけは食べられる」「かむなびの納豆を販売してほしい」というお客さんの声に後押しされて、工房を立ち上げました。

パッケージには俳優の故・志賀廣太郎さんのイラストが。店のシンボルになっている。

天然の納豆菌と旨みの強い大豆で作る谷町納豆。

納豆嫌いな人まで虜にする「らくだ坂納豆工房」の谷町納豆は、こだわりがたっぷり。培養された納豆菌は使わず、稲ワラに住む天然の納豆菌で発酵させています。使用しているのは、大阪・能勢で有機農業を営む「原田ふぁーむ」の無農薬のワラ。

「天然の納豆菌で仕込むと培養された納豆菌に比べて、ゆっくり発酵が進みます。一般的な納豆よりも2倍の時間はかかりますが、完成後もゆるやかに発酵していくので、日持ちするし、アンモニア臭が出たり、シャリシャリとした食感にもなりにくい。そして大豆のタンパク質などの成分を一気に分解しないので、食べた時に大豆の旨みや甘みが残っていて、おいしいと感じてもらえるんだと思います」

キレイに切り揃えられた稲ワラ。現在は近所にある福祉作業所に稲ワラの処理を頼んでいる。

煮沸した稲ワラを容器の中に。
食べる際にワラを取り除いても、納豆菌は全体に行き渡っているため熟成は進んでいく。

大豆は、生産者の顔が見える国産大豆を使用。納豆用に品種改良された小粒大豆やひきわり大豆ではなく、豆腐用に栽培されている大粒で甘みと旨みの強い大豆をセレクト。現在は、北海道・上川町の辰巳農園で育つトヨマドカという品種を主に使っています。そしてこの大豆を極限までやわらかく蒸すことも谷町納豆の特徴であり、おいしさの秘訣なのだそう。

発酵がきちんと進んでいるかチェック。手作業が多く、週に600個ほどしか生産できない。

「やわらかくした方が大豆の旨みを引き出せると思っているんです。それに天然の納豆菌は培養された納豆菌よりも力が弱いので、大豆の皮がかたいと中まで入っていきにくい。大手の納豆メーカーの納豆がかためなのは、充填機で納豆をパック詰めにするから。やわらかいと機械を通せないので、うちでは納豆を小分けにせず、500gのプラスチック容器に手詰めしているんです」

やわらかく仕上げているため、離乳食を食べる赤ちゃんからお年寄りまで好まれているという谷町納豆。できたては納豆特有の香りやネバネバとした粘り気が少なく、大豆の旨みを堪能。時間が経つごとに発酵が進んで、納豆らしいクセのある風味へ。変化していく味わいを楽しめるのも谷町納豆の魅力といえます。

谷町納豆のおすすめの食べ方は?

谷町納豆は納豆本来の味を堪能してほしいと、タレや辛子はついていません。まずは味付けせずにそのまま食べるのがおすすめ。一口食べた後は、大豆の旨みを引き立ててくれる塩を振って。

定番商品は2種類。大豆の旨みを残した穏やかな風味の谷町納豆。(右)
谷町納豆の1.5倍の時間をかけて発酵させた長熟納豆は、複雑でクセの強い味が好きな人におすすめ。(左)

納豆の熟成が進んで納豆の風味が強くなってきたら、他の味付けを試したり、アボカドやキムチと和えたり、炒めものなどの料理に使ったり。好きな食べ方に挑戦してみても。

「青森や北海道の人の食べ方ですが、砂糖醤油で味付けするのも甘じょっぱくておいしい。お餅に砂糖醤油で味付けした納豆を合わせると、みたらし団子を食べているような感じになります。また、納豆汁を作ってみるのも。ご飯に納豆をのせるのは江戸時代後半からの比較的新しい食べ方で、納豆汁は日本の伝統的な食べ方なんです。千利休の茶会でもメニューとして出されていました。野菜やお揚げをお湯で煮て、火が通ったら、すり潰した納豆と味噌を入れて味噌汁にするのが基本の作り方です」

谷町納豆を乾かして作ったおつまみ納豆(塩味・スパイス味)。
お酒のアテにぴったりの味わい。常温保存できるのでお土産にも。

限定商品の納豆の塩辛。谷町納豆を米糀と塩で発酵・熟成させている。
ごはんのお供やきゅうりに添えて食べるのがおすすめ。

商品は工房での店頭販売の他、オンラインショップでの通販も可能。店頭販売の場合、容器をリユースすると割引されるので、容器を持って訪れる常連客も増えているそう。「らくだ坂納豆工房」の納豆は、近所の人たちにとって、生活の一部になりつつあるのです。

「僕たちが目指しているのは、『街の納豆屋』。昔に比べると、今は小さな納豆メーカーがどんどん減っている状況です。昭和初期には納豆売りがいたように、それぞれの街に納豆屋ができて、僕たちと同じようなことをやる人が増えたらいいなと思っています」

らくだ坂納豆工房

住所:
大阪府大阪市中央区谷町4-8-29
TEL:
070-9029-1710
営業時間:
12:00~17:00
定休日:
月曜
URL:
https://tanimachi-natto.com/