発酵を訪ねる

食べる人、つくる人を笑顔に
100年以上受け継がれてきた
イチビキの思い

2025/03/21

食べる人、つくる人を笑顔に100年以上受け継がれてきたイチビキの思い
食べる人、つくる人を笑顔に100年以上受け継がれてきたイチビキの思い

東海地方の食文化と切っても切り離せない豆味噌、たまり醤油。愛知県に本社を置くイチビキ株式会社のはじまりも、豆味噌、たまり醤油の醸造業でした。今では味噌、醤油のほかに、調理味噌や糀を用いた発酵食品などもラインアップに加え、多様な商品を展開するイチビキに伺い、代表取締役社長の中村光一郎さん、第1工場工場長の尾藤尚之さんにお話を伺いました。

明治時代から受け継がれてきた
日本一大きな味噌の仕込み桶「丈三桶」

豊川市御油町。イチビキ 第1工場のあるこの街は、旧東海道の35番目の宿場町「御油宿」として栄えてきました。イチビキの第1工場の敷地を貫く形で旧東海道が通っています。また、「御油宿」と、36番目の宿場町「赤坂宿」との間には、徳川家康の命で植樹されたというクロマツが約300本並ぶ松並木があり、現在は国の天然記念物に指定されています。

「当社の前身である中村兄弟商会の創業は1772年です。この工場は1911年に設立され、以降、豆味噌やたまり醤油をつくっていました。現在は第1工場として味噌専用工場になっています」と社長の中村さん。

イチビキ第1工場の施設をふたつに分ける形で通る旧東海道。

お話を伺ったイチビキ株式会社 代表取締役社長の中村光一郎さん。

イチビキには、この第1工場設立当時から使われている味噌を仕込む桶があるといいます。中村さんと第1工場工場長の尾藤さんに桶が並ぶ蔵にご案内いただきました。
どうぞと促されて、足を踏み入れた途端、目の前に並ぶ木桶の迫力に思わず「わぁ」っと声が漏れました。

丈三桶が並ぶ蔵内は圧巻。

「この桶は、『丈三桶(じょうさんおけ)』といって、日本一大きな味噌の仕込み桶です。高さが3.9メートル、直径も3.9メートルあります。昔の単位で1丈3尺あるため、丈三桶と呼ばれています。通常、味噌工場で使われている桶は6尺桶(1.8メートル×1.8メートル)ですから、かなり大きいことがわかるのではないでしょうか。
この丈三桶は、豆味噌を仕込む桶で、桶1本あたり50トン、ダンプカー5台分の味噌を仕込むことができます。つまり、この桶一つで、みそ汁約250万杯分の味噌ができる計算です」

通常、木桶で仕込まれる味噌は、5トンほどということですから、丈三桶が仕込める味噌の量はその10倍。現在も、第1工場内で38本の丈三桶を現役で使っているそうです。

「中でも一番古いのが、1911年につくられた丈三桶です。その他、大正時代につくられたものもあります。丈三桶の材料には、杉の一本板を100枚ぐらい使い、“ほぞ”という技術で板を合わせた後、“箍(たが)”で周りを固定しています。
木桶をつくることができる職人さんは少なくなっていますが、まだ全国にはいらっしゃいます。しかし、この丈三桶をつくったり、修理したりできる職人さんはもうおられません。そのため、私たちは現在ある桶をメンテナンスしながら大切に使い続けています」

近年は金属の箍(たが)で補強、メンテナンスし、上から竹を用いることも多いという。

そう尾藤さんに教えていただき桶を近くで見ると、思いの外きれいで100年以上も使われているようには感じません。その理由について尾藤さんは「古民家と一緒」だと説明します。

「古民家も人が住まなくなると、傷み、朽ちると言われていますよね。木桶も同様です。味噌を仕込み終わり、木桶から取り出して空にしてしまうと、木が乾燥しはじめ隙間ができてしまいます。そのため、必ず1カ月以内に、次を仕込むようにしています。そうして常に使う状態にすることで、100年前の桶でもこのようにきれいに使うことができています」

大量に仕込むことで
おいしい味噌を安定的に

しかし、これほどの大きさの木桶から味噌を取り出す作業はどのように行っているのでしょうか。

「昔は、“びく”と呼ばれる籠を、上から滑車で下ろして手作業で味噌を取り出していました。今は、縦型のスクリューを用い、横に開けた窓から重みによって流れ出てくる味噌をコンテナに受けて取り出します。木桶の中は6枚の杉板で仕切られているのですが、この杉板を1枚ずつ取り外しながら、少しずつ味噌を取り出していきます。6枚すべての板を外して、自然に流れでてこない状態になると、今度は人の手で取り出していきます。中に人が入り、手掘りで残りの30トンほどを取り出していくのです。この作業は当社の新人研修で必ず行っているんですよ」

昔ながらの仕込みの様子を表している。

イチビキの皆さんは、明治以来この作業を受け継ぎ、続けてきました。想像しただけでも大変な重労働ですが、なぜこれほど大きな桶で仕込むのでしょうか? この質問に、「同じ桶で仕込んだ味噌は同じ品質になります。大きな桶で仕込むと、より安定した品質の味噌をたくさん仕込むことができるのです」と工場長の尾藤さん。
おいしい商品を安定的にお客様に届けたい、その思いがこの丈三桶の大きさ、作業に込められているのです。

また丈三桶でつくるのは、天然味噌。温度管理などしないこの蔵で自然発酵していきます。
「仕込んだ味噌は、二夏を越えた頃に出荷されます。たとえば1月に仕込んだ味噌は、その年の夏とその翌年の夏を越えた頃できあがります」
約2年、この桶のなかで大豆が麹によって発酵、分解され、おいしい豆味噌となっていくのです。

第1工場工場長の尾藤尚之さん。

名前に込められた
イチビキのこだわりとその思い

長らく豆味噌、たまり醤油の製造を続けてきたイチビキ。家業として醸造をはじめたのは、1772年のことです。その後、事業を広げ、1919年には大津屋株式会社の名前で会社を設立。
その後、大津屋株式会社から現在のイチビキ株式会社に社名変更をしたのは、1961年のことだそうです。

イチビキの商標の変遷を知ることができる。

「明治から大正時代、味噌や醤油の原料である大豆を仕入れに、北海道に赴いていました。その際、一袋一袋、丁寧にチェックし、品質の良い大豆であることを確認すると、袋に一本筋をひくのが当社の習わしだったようです。それが、いつしか人々に“イチビキ”と呼ばれるようになり、当社の商標につながっていきました」

イチビキという商標・社名は、同社の品質への思い、こだわりが関係していたのです。

味噌味を新たに展開
海外への発信にも力を入れる

伝統的な製法で、豆味噌、たまり醤油をつくり続けてきたイチビキですが、同時に、時代に合わせてお客様の要望に応えながら、たくさんの新しい試みも行ってきました。

「それまで日本人は米が中心の食文化でしたが、食の欧米化・洋風化が進み、パンなど小麦粉を中心とした食品を食べる機会が増えました。それに伴って味噌を食べる割合はじわじわと下がっています。こうした流れそのものを止めることは難しいことでしょう。ですから伝統的な味噌や醤油を守りながら、新たな方法でも食していただけるよう商品の開発・展開をしています」と社長の中村さん。

そうした展開の先駆けとして30年前に発売され、ロングセラーとなっているのが『献立いろいろみそ』です。『献立いろいろみそ』は、豆味噌に米味噌をブレンドし、甘みを加えて練り上げたもので、「味噌かつ」や「味噌おでん」のつけダレとして、また回鍋肉、麻婆茄子などをつくる際に便利な調味料として人気です。

「『献立いろいろみそ』は、今年で30周年。ご自宅で味噌にお砂糖などを加えてつけダレをつくることもできますが、多忙な人々が多い今、手軽で簡単と便利にお使いいただいているようです」

原料産地にこだわった『愛知県産大豆100%の豆みそ』と主力商品『厳選国産生赤だし』。

『リ:フローラ』(左)『でらゲンキ』(中)は、味噌蔵由来の植物性乳酸菌を配合した乳酸菌タブレット。
30周年を迎えた『献立いろいろみそ』(右)。

また、味噌をそのまま味わうだけでなく、さまざまな製品の中に加えることで、より多くの若い人に、味噌味に親しんでいただきたいと中村さんは言います。

「たとえば『赤から鍋スープ』は当社人気の商品です。全国展開している外食チェーン「赤から」で人気の「赤から鍋」を再現し、ご自宅で食べていただけるもの。スープの中に豆味噌を加えてコクを出しています。味噌が入っていることを意識することはないかもしれませんが、料理をさらにおいしくする隠し味としての味噌をもっともっと発信していきたいです」

そのため、イチビキではウェブサイトやSNSなどにも力を入れ、多くの方に味噌や醤油といった発酵食品を用いてもらえる機会を増やしているそうです。

最後に、今後の展望についてお話しいただきました。

「当社の一番の強みは醤油でいうとたまり醤油であり、味噌でいうと豆味噌です。それらを多くの人にご家庭で楽しんでいただくことはもちろんですが、今後はさらに業務用で使ってくださるお客様を増やしていきたいと考えています。また、より一層、海外の方にも発信していきたいですね。醤油はすでに海外でもよく知られていますが、 醤油の中でも『たまり醤油を使ってみてください』、味噌の中でも『豆味噌の味を知ってください』とお伝えしていきたいです。これらは栄養価が高く、旨みとコクがあるのが特徴です。和食だけでなく中華や洋食にも使っていただけるよう、提案も積極的に行っていきたいと思います」

イチビキ株式会社

イチビキ株式会社

住所:
〒456-0018
  名古屋市熱田区新尾頭1-11-6

味噌、醤油、たまり、つゆ、豆加工食品、米関連食品、惣菜などの製造販売を行っている。
※一般の見学は行っておりません。

公式ホームページ https://www.ichibiki.co.jp/

公式X(旧Twitter) https://www.ichibiki.co.jp/

公式Instagram   https://www.instagram.com/ichibiki.co/

蔵華乳酸菌について https://www.ichibiki.co.jp/enjoy/knowledge_kurahana/

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