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発酵を訪ねる
デジタルを駆使したゲームや展示で
古くて新しいを体験できるミツカンミュージアム
2025/04/03
発酵を訪ねる
2025/04/03
冷蔵庫やキッチンの戸棚を開けると、見慣れたミツカンロゴがついた商品が入っている。そんな家庭も多いのではないでしょうか。愛知県半田市の半田運河沿いには、このミツカンのロゴが記された建物が並ぶ場所があります。半田市は1804年にミツカンが酢づくりを始めた創業の地。現在もミツカン本社があるほか、近くには体験型博物館「ミツカンミュージアム」(以下MIM)があり、多くの人で賑わっています。2024年3月にリニューアルオープンし、デジタルを駆使した仕掛けで大人も子どもも楽しめると評判のMIM(ミム)を訪れました。
愛知県半田市は、古くから醸造業が盛んな土地でした。半田運河沿いには、たくさんの造り酒屋や醤油の醸造蔵が立ち並んでいたそうです。現在もここは黒壁の蔵の風景とともに、歴史的な建物が保存されています。ミツカン本社、そして今回訪れたMIMもこの運河沿いにありました。
学芸員の日比野容久(よしひさ)さん
ミュージアム内に入っていくと、今回案内してくださるMIM学芸員の日比野容久さんが出迎えてくださいました。早速、中を見学する前に、日比野さんに促されて「MIMアプリ」をインストールします。このアプリを入れておくと、館内各所でさまざまなお楽しみがあるとのこと。わくわくしながら館内を進んでいきます。
MIMアプリをスマートフォンにインストールすると、館内各所で
オリエンテーリングのように様々なコレクション画像や情報を得ることができます。
最初に案内していただいたのは『大地の蔵』エリア。江戸時代の粕酢づくりや、現在の醸造についてなど、ミツカンの「酢づくりのこだわり」を知ることができるエリアです。
当時の粕酢づくりを知ることができる『大地の蔵』エリア。
「もともとミツカンは造り酒屋でした。造り酒屋では、製造の工程でたくさんの酒粕が残ります。この酒粕を利用して粕酢(酒粕を利用してつくる酢、「赤酢」ともいう)をつくり始めたのが、創業者の中野又左衛門です。1800年代、江戸時代後期の江戸では寿司が大変流行していました。そこで寿司に合うお酢だと、江戸に売り込みに行ったのが握り寿司が全国へと広がっていくきっかけになりました」(日比野さん)
『大地の蔵』エリアの最初の部屋では、江戸時代、酒粕からどのように粕酢をつくっていたのか、当時の様子が分かる展示がされています。梁や柱、道具の一部はかつて実際に使われていたものです。
「当時の粕酢づくりは、酒粕を3年ほど寝かせるところから始まります。3年経って熟成した酒粕に水を加えてドロドロに溶かし、これを袋に詰めて、箱型の道具に敷き詰めてぎゅっと絞ります」(日比野さん)
テコの原理で圧搾を行う当時の道具
この液体には、まだお酒の成分がずいぶん残っているそうです。
「これを発酵に適した温度に温め、仕込み桶の中に入れます。仕込み桶には前回つくったお酢が半分残してあり、生きた酢酸菌が働いています。ここに液体を加えることで、1カ月かけてお酢になっていきます。その後、貯蔵桶に移されたお酢はさらに味や香りをまろやかにするため2〜3カ月間寝かせたのち、ろ過をして出荷されます」(日比野さん)
当時、江戸で流行していた寿司のシャリは、米酢と塩のみで味付けされていました。まだ砂糖は庶民に普及していなかったためです。そんな中、ミツカンが江戸に持ち込んだ粕酢は旨み、甘みを感じる酢であったため、寿司に合うと大変評判になったそうです。
現在、ミツカンの酢は米酢や穀物酢が主ですが、今も粕酢の製造は続けており、「赤酢」として一部の寿司店で好んで使用されています。
大きな桶の下には現代の醸造工場が広がっている。
「覗き込んだお子さんたちが声を上げてびっくりしてくれます」と日比野さん。
現在も製造されている粕酢。この日は、発酵開始から7日目の様子を見ることができた。
展示されているのは、創業当時の粕酢を再現した「三ツ判山吹」と、MIMで数量限定販売されている「千夜」。
その後、部屋を進んでいくと、当時の酢づくりに使われた道具を体験できるコーナーなどもあります。
2つで15㎏(実際の1/3)の桶の重さを体験してみよう!
さらに、粕酢や穀物酢、純米酢、黒酢、リンゴ酢といった各種お酢の香り体験や酢がどのようにできているのか、ゲーム感覚で体験できるアトラクションもありました。画面の指示に従ってワイワイと体を動かして楽しんでいるうちに、いつの間にか酢の原料や酢酸菌の働きを知ることができます。
画面上に落ちてくる各種お酒や酢酸菌などを捕まえて、仕込み桶に。
時間内にできるだけ多く仕込みたいと、いつの間にか夢中になる。
半田の歴史やお祭りについて知ることができる『風の回廊』を抜けて、私たちが案内してもらったのは、迫力満点の大きな船が展示された『時の蔵』エリアです。
「半田は、酒や酢などの醸造業が盛んな地であったのと同時に、海運業でも栄えた町でした。弁才船(べさいせん)と呼ばれた船を使い、商品を江戸まで運んでいたのです」(日比野さん)
「では、皆さん船に乗り込んでください」と、日比野さんに促されて船に乗り込むと、照明が変わり、目の前の巨大なスクリーンに映る映像で、200年前にタイムスリップ。
雨、風、嵐……。当時の人々がさまざまな困難に見舞われながらも、大切な品々を江戸に向けて運ぶ様子を、迫力満点の映像で体験することができました。
音と光、実際に風を感じる演出は迫力満点!
「基本的には、廻船問屋に依頼して荷物を運んでいましたが、中野又左衛門もいくつかの船を共同所有していました。ここにあるのは、そのひとつ、310石積の弁才船富士宮丸を再現したものです。310石積というと、全長約20メートル、船の重さが20トンほど。弁才船としては比較的小さいサイズのもので、ほぼ実物大です」
600樽ほど積むことができたという弁才船富士宮丸。今の500mlサイズに換算すると、約9万本の酢を運べた計算になるといいます。
「ミュージアムの前に水路がありましたが、あれが半田運河につながっています。かつてはここまで船が入ってきていました。まずは醸造した酢などの荷物を小さな船に乗せ、港で待つ弁才船に積み替えて江戸まで運んでいました」(日比野さん)
当時の支出簿。お酢ブランド「山吹」の名前も記されている。
当時の半田運河沿いには、酒、酢、味噌、醤油などの醸造蔵が数多くあり、船もたくさん停泊していたそうです。
「半田運河は日本三大運河のひとつとも言われています。この運河があったことで、知多半島から江戸まで酒や酢、味噌、醤油などさまざまな商品が運ばれていきました」
江戸との取り引きによって半田は活気に溢れていたと言います。半田運河は、その後、昭和30年代まで使われていました。
『時の蔵』エリアにはほかにも、220年以上にわたるミツカンの歴史を、年代を追って知ることができます。酒や酢の醸造から始まり、現在も多岐にわたる商品を展開するミツカンが、歴史の中でさまざまな変革と挑戦を行ってきたことがよくわかります。
かつてはビールの製造を行っていた時期も。
また銀行やファストフード店を経営していた歴史もある。
今ではすっかりミツカンの看板商品である『味ぽん』にも歴史がありました。
「『味ぽん』は、もともと鍋用の調味料として販売を開始しました。関西では、水炊きなどの鍋料理があり、『ぽん酢』を使ってもらうシーンがすでにありました。しかし、関東では、水炊きを食べる文化そのものがなかったそうです。そこでミツカンの営業担当者は朝、市場に行って水炊きをつくり、『味ぽん』の試食を繰り返したそうです。商品を売るためには、まずはその食べ方を知り、味を知ってもらわないといけない。そこには大変な苦労がありました」(日比野さん)
商品に親しんでもらうためには、まずは知ってもらうこと、新たな食文化をつくるところから。江戸時代、粕酢を江戸に持ち込んだ先人同様、ミツカンの歴史は挑戦者たちの歴史であることが分かります。「ミツカンは、古さと新しさを兼ね備えた会社だと思います」、そう話す日比野さんの言葉に、私たちも大きくうなづきました。
時代に応じてパッケージや味の調整を細かく繰り返し、現在も多くの人々に愛される『味ぽん』。
『水のシアター』で、四季折々の自然と豊かな食文化についての美しい映像を見た後は、『光の庭』エリアに向かいました。ここでは、おいしくて人にも地球にもやさしい食のこれからを学ぶことができます。
ちょっとひと休憩。お酢ドリンクをいただけるドリンクバー。
例えば、リニューアルによって新しく誕生した『そうぞうファクトリー』は、楽しく体験しながら、フードロスについても学べるアトラクション。世の中にある無駄に捨てられてしまいそうな食材たち、それらをおいしい『未来の食べもの』に変身させていきます。
アトラクション入口でまずはカプセルを手に入れるところからスタート。
ワクワク感が掻き立てられます。
この日、会場にいたお母さんとお子さんたちは、声を上げながらアトラクションを楽しんでいました。聞けば、小学校の社会科見学でMIMを訪れ、「楽しかったから、また行きたい」というお子さんのリクエストにより家族で遊びに来たとのこと。
大人はもちろん、子どもたちに楽しみながら、食に触れ合ってほしいというミュージアムのメッセージが伝わっているようです。
捨てられそうな食材を使って未来の食べ物をつくる。さぁ、何ができるかな?
『そうぞうファクトリー』でつくった「未来の食べもの」を未来の世界へ届ける『みらいウィンドウ』。
アプリを利用すれば、つくった食べものをスマートフォンに取り込むことができる。
『光の庭』エリアでもう一つ人気があるのが、『味ぽん』のオリジナルラベルをつくるコーナー。
おじいちゃん、おばあちゃんへのお土産にする人や、カップルで楽しむ人などさまざま。
最後のアトラクションが終わり、ご案内いただいた日比野さんともここでお別れです。見応え十分、多くのお客様が来場する理由がわかりましたと伝えると、「『楽しかったね』というお客様の声が聞こえてくるとうれしいですね」と日比野さん。
「この場所を訪れて、ゲーム体験や展示などを通して、楽しみながらお酢や食文化に親しんでもらえたらと思っています。もちろん、全世代の皆さんに楽しんでもらえたらと思っていますが、中でもお子さんたちに、そうした体験をしてもらえたら、それほどうれしいことはありませんね」とお話しくださいました。
URL:https://www.mizkan.co.jp/mim/
見学の予約(事前予約制):
https://www.mizkan.co.jp/mim/reserve/
アクセス:
公共交通機関利用の場合:
名鉄河和線「知多半田」駅下車、徒歩13分
JR武豊線「半田」駅下車、徒歩3分
車を利用の場合:
名古屋市内より(高速利用)約1時間
知多半島道路「半田中央I.C.」、又は「半田I.C.」より15分
駐車場: 第一 約40台、第二 約50台
※悪天候が見込まれる場合や震災時などは、安全のため計画休館することがございますので、あらかじめご了承ください。
※都合により臨時休館することもございます。