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Special Contents

「発酵概論」 東京農業大学名誉教授 舘 博

2.発酵の概念

発酵とは、広義では「微生物の働きにより有機化合物が変化する現象」を意味し、狭義では「炭水化物が微生物によって嫌気的に分解されること」を意味します。産業界では、微生物が人に役立つものを生産した場合が発酵で、微生物が人に不利益になるものを生産した場合を腐敗と呼んでいます。酒類や味噌、醤油における酵母のアルコール発酵や、食酢における酢酸発酵、発酵乳における乳酸発酵などがよく知られていますが、どれも人に役立つものが産生されています(表1)。

微生物は自分が生きていくために、栄養源を吸収して、発酵によりエネルギーを獲得していますが、もちろん不必要な老廃物は体外に排出されます。この老廃物、すなわち発酵生産物が人間にとっての食品となっています。麹菌などのカビでは、菌体外に大量の酵素を分泌して、菌体の周りにある物質を低分子化してから、吸収して増殖していきます。日本の醸造物では、麹菌が菌体外に分泌した酵素を利用して、原料の分解を行い、発酵食品を醸造しています。従って日本における醸造の定義は、「麹菌というカビを穀物などに生やした麹を用いて、我が国の伝統的な発酵食品を製造すること」とされています。

表1. さまざまな微生物による発酵と腐敗

表1. さまざまな微生物による発酵と腐敗

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